第25話 雪国にてダンスを


それから私たちは残ると言う賢者セレスと別れてローランドの街へ戻ってきていた。

もちろん魔族のリンドは人間に偽装している。

リンドの偽装は私が触れないかぎり解けることは無いので一歩引いたところを歩いてもらった。

宿に戻ってきて私たちはヒイロの部屋で会議を開いている。


「勇者がそろったのはいいですが、これからどうしましょう?」

「そんなの決まっている。魔王を倒しに行くんだ」

ユウトの言葉にヒイロが答えた。

議題はこれから城に一度戻るか、それともこのまま魔王を討伐しに行くかである。

「いや、ここは一度城に戻って王様に報告するべきじゃないか?」

「でも俺魔族なんだけど城に入っていいわけ?」

「む……それもそうだな」

アルトの主張にリンドが言った。

どっちの案も出ていて決まりそうにない。

ゲームの時はそのまま魔王討伐に向かっていたけれど、これはゲームじゃない。

一度戻って兵を出してもらうのも有りかもしれないと思う。

「なかなか話まとまんねーな。よし、今日はやめだ。明日また話し合おう」

「すぐ決めなくていいんですか?ヒイロ様」

ユウトの言葉にヒイロは頷いた。

「あぁ、ようやく勇者が四人そろったんだ。意見もそろえて行きたい。だから一日交流する時間にしようじゃないか」

「えぇ?俺と交流するの?」

ヒイロの提案にリンドが驚く。

「ただでさえ新参者なんだ。腹割って話し合え」

「えぇー王子サマ横暴ー」

「なんとでも言え」

さっそくヒイロはリンドの扱いに慣れてきたようである。

そうして会議は一時解散となった。


私は自室に戻り羽を伸ばしている。

「ねぇティア、その後の皆の好感度ってどうなってるの?」

気になっていた事を聞く。

するとティアは

「ヒイロ様は好感度98%で、ユウト様は80%、アルト様は76%、リンド様は77%、シルヴァ様は56%ですね!」

「わぉ」

ヒイロの好感度がおかしいことになってる。

それにしても仲間にしたばかりなのにリンドの好感度がアルトの好感度を超えているところは謎だ。

チラっと会ったばかりのシルヴァ王子の好感度も意外と高いことに驚いている。

「基本的に90%超えるともう恋人ですよー!」

やりましたね!とティアは言った。

「うぇえ?!こ、恋人?!」

まだそんなフラグ立ってない。

「またまたそんな驚いて~ヒイロ様狙いなんですよねー?」

「う、え、あ、そう、だけど……」

確かに推しだけど恋人と言うにはまだ心の準備が出来ていない。

だって触れ合っただけでドキドキに殺されそうになるんだよ。

その時、ドアをコンコンとノックされた。

「ひゃ、はい?!」

「俺だ」

「あ、オレオレ詐欺は間に合ってます」

「オレオレ詐欺ってなんだ?ていうか詐欺が間に合ってたら駄目だろ!!」

ドアごしにそんなやりとりをして心を落ち着かせる。

「冗談だって」

そう言ってドアを開けるとムスっとした表情のヒイロが立っていた。

しかしすぐに真剣な表情になり

「……入って、いいか?」

と言うので頷く。

部屋に入ったヒイロは特に何もせず椅子にも座らず立っている。

「あ、のさ……ヒイロはリンドと話し合いしなくていいの?」

「した。もうあいつを敵だなんて思わないから安心しろよ」

「そ、そっか」

パーティのリーダーであるヒイロが認めたなら他の二人も話しやすいに違いない。

「……今俺と踊ってくれないか?」

「は?」

急に何を言うんだろう。

「いいから、ほら」

そう言って手を引かれる。

手が腰に回されてダンスの姿勢になった。

「わ、私踊れないって!」

「ダンスの練習してるの知ってるぞ」

「え?!何で……」

ヒイロにはバレたくなくてこっそり練習してたのに一体何故バレたんだろう。

「……リンドが、教えてくれた」

「あいつかぁー!」

後で一発ぶん殴っておかないと。

「ほら、動くぞ」

「え、ちょ、まっ」

音楽もテンポも無しに動きだされる。

慌ててステップを踏む。

「できてるじゃねーか」

「話しかけないで、ズレる!」

必死な私の様子にヒイロが笑う。

「ほら、もっと早くすんぞ」

「えぇ?!」

スピードアップをされてついに足を縺れさせてしまう。

バランスを崩した私をヒイロが受け止めた。


「さくら、好きだ」


「へ?」

耳元でささやかれたその言葉に私はフリーズする。

ギュウと力強く抱きしめられた。

「お前が好きだ」

「な、なん……」

「理由なんて知らねー、気が付いたら好きになってたんだ」

いつから?どうして?そんな言葉にできない疑問に答えるようにヒイロは言った。

「返事はすぐじゃなくていい」

そう言って体を離す。

「ヒイロ……」

「今は魔王討伐のことだけ考えてくれ。俺の事は後でいい」

言うだけ言ってヒイロは逃げるように部屋から出て行ってしまった。

私の返事を聞かずに。

やりましたね!と耳元で言うティアを他所に私はある考えで胸が一杯だった。


ねぇ、それ死亡フラグっていうの知ってる?

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