第24話 金色の勇者
バッとこちらを見るヒイロの目の前で私の体が重力に従って落ち始める。
「さくらっ!!」
ヒイロが手を伸ばすが届かない。
思わずぎゅっと目をつむった。
「なーにしてんのさ」
そう言って私を受け止めたのはリンドだった。
「あ、ありがと」
「どういたしまして」
「さくらっ!」
ヒイロが私を助けようとしてかリンドに斬りかかってくる。
でも私を抱えてるリンドに斬りかかるって一歩間違えば私も傷つくよね。
「ヒイロ!大丈夫だから!」
「何が大丈夫なんだ!お前そいつに襲われたじゃないか!」
「あ」
そう言えばそうだった。
ヒイロとリンドの初対面は最悪の状況だったことを思い出す。
これはどう説明すればいいのか……ぷち修羅場だ。
「んー、俺はもうこの子を襲わないよ」
悩んだ末にリンドが言う。
「魔族の言葉を信用できるか!」
「えー……現にこの子を助けたうえ傷つけようとしてないのに?現実見なよ」
「そうじゃぞヒイロよ」
セレスも助け船を出してくれる。
二人にそこまで言われてヒイロの動きが止まった。
「そっちのオチビさんのほうが話分かってくれてるじゃん」
「オチビではない!セレスじゃ馬鹿者!」
「あーはいはい。久しぶり、でいいのかな?」
そうリンドが言うとセレスは頷く。
「五年ぶりじゃからな」
「そっか、そんなにか」
「五年……まさか魔族大戦の?!」
「そうじゃ、ワシに魔王の情報を教えたのはこやつ、リンドじゃ」
ヒイロの言葉に答えるように言った。
「おかげで魔王を撤退させることが出来たんだから感謝してほしいね」
「言い方が厚かましいんじゃおぬしは」
リンドは場が落ち着いたのを見て私を下ろしてくれた。
すぐにヒイロがリンドから引き離す様に自分の傍に引き寄せる。
それを見てリンドは苦笑した。
「そんなに心配なら片時も目を離さないことだよ王子様」
「うるせー」
「ヒイロ、助けてくれたんだからそんなに邪険にしないの!」
私が言うと不満そうにそっぽを向く。
「なんか、ごめんね?」
「いいんじゃない?それが普通の反応だよ」
遠回しに私の対応が普通じゃないと言いたいのか。
「ところでリンドよ、おぬし何をしにここへ来たのじゃ?」
「……聖女サマが落ちていくのを見て心配になって探してたんだよ」
思ってもいなかった言葉に驚く。
まさか心配してくれて、探してくれていたとは。
「のぅ聖女様、ワシはこやつこそ勇者ではないかと思うのじゃが……違うかの?」
セレスの鋭い読みに驚いた。
私驚かされてばかりだ。
「俺が?俺は魔族だし違うでしょ」
「しかしおぬしは魔族に英雄と呼ばれていたじゃろう?」
「でも……」
そう言って否定するリンドに私は近づいた。
「ティア」
ティアを呼ぶとすぐに結果が分かる。
「好感度は一定値を超えています」
やっぱり、一定値超えていたか。
心配してくれるなんて友達以上に思ってくれてると思った。
「リンド、しゃがんで」
「は?嘘だろ?」
「は、や、く!」
信じないリンドを急かすとようやくしゃがんでくれる。
私は祝詞を唱えた。
「聖女さくらの名において、リンドを金色の勇者に任命する」
そして額にキスをすると、勇者の証明に私の体から聖なる力があふれ出た。
額から唇を離すと確固たる意思が胸に灯る。
ようやく四人の勇者が揃った。
四つの意志が灯ったことで聖女の力がパワーアップするのだ。
これで魔王討伐に向かえる。
「俺が、勇者だって……?」
未だに信じられていないのか呆然と呟く。
早く勇者を見つけて欲しいと言っておきながら自分が勇者だったとは思いもしなかったのだろう。
ヒイロも信じられないといった表情でリンドを見ている。
「これからよろしくね、リンド」
「あ、あぁ」
「……まぁさくらが勇者だって言うならしょーがいねーな」
そう言って気にするのを止めたようだ。
「つもる話もあるじゃろうがそろそろ外に行くぞ」
待ち疲れたのかセレスが言った。
確かにいつまでも遺跡の中で話をするのは嫌だ。
二人も同じ気持ちだったらしく、頷いていた。
********
それからセレスの案内で遺跡を出るとユウトとアルトが待っていた。
「ヒイロ様!さくらさん!」
「お二人共無事で良かったです」
「ユウトにアルトも何事もなかったようでよかったよー」
「僕たちは待っていただけですからね……って魔族?!」
ユウトがようやく私の後ろにいたリンドに気が付いた。
驚いてその場から飛び退いている。
私は落ちてからの事を二人に話した。
モンスターの群れの事。
賢者セレスに助けられた事。
リンドに助けられて彼が勇者だった事。
二人は信じられない表情をしながらも最後まで聞いてくれた。
「信じられませんがさくらさんがそう言うなら……」
「しかし魔族だぞ」
最後まで聞いてユウトはなんとか信じてくれたが実害を受けたアルトは半信半疑のようだった。
「エリザに魔族のことを教えたのはリンドだよ」
「なんだって?」
「聖女サマそれ言っちゃっていいのー?」
「いいの、あのねリンドは陰から私たちの事を助けてくれてたの」
以前からリンドと会っていたことがバレるけれどもうどうだっていい。
四人の勇者なんだから四人の信頼関係を築かないといけないから。
「さくらは、その、前からこいつのこと知っていたのか?」
ヒイロの言葉に私は頷いた。
「一人きりの時に何度か接触してきたことがあったの」
「なんで言わなかった!」
「なんでって……何も危険な事が無かったからだよ」
「だからって魔族が接触してくることが危険な事だってなんでわからない!」
それはもちろん相手がリンドだから安心していたのもある。
もしも見知らぬ魔族だったら速攻で教えていたがそれを納得させる説明が思いつかない。
「リンドとやら、本当に魔族のことをエリザに教えたのはお前なのか?」
「そうだよ」
「なぜだ。何故仲間の魔族を売るような真似をした?」
「……俺の目的は魔王を倒して魔族に戦いを止めさせることだからだ。魔王の企みは阻止しなければいけなかった」
そう言ってリンドはいつになく真剣な表情でアルトを見た。
「信じられないならそれでいい、だが魔王を倒すまでは一緒に行かせてほしい」
それが勇者としての務めだ。とリンドは言う。
「……わかった。すぐには無理だがお前を信じよう」
「感謝する」
こうして金色の勇者リンドが仲間に加わったのである。
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