第23話 賢者
遺跡の中を進んで暫く経った。
モンスターも現れず拍子抜けするほど平和だ。
「おかしい、普通こういった遺跡はモンスターの巣窟になっているものだ」
「そうなの?」
「そういうもんだって聞いてる。油断するなよ」
「わ、わかった」
いつになく真剣に言われたので頷く。
ゲームの時は遺跡探検なんてしなかったから未知のゾーンだ。
無事に帰れるのか不安になる。
それから暫く歩いて、驚きの光景を目にすることになった。
「なんだ、これは」
「うわ……」
少し広い部屋がありそこに所狭しとモンスターが湧いていたのだ。
しかも一本道だったのでこの先にしか道は無い。
どうにかしてこのモンスターの群れを突破しなければならない。
「いけるか?」
「どうだろ……」
いくら魔を払う力があると言っても加護を付与する時ほどの力は出ない。
「でも行くしかねーよな……」
意を決したようにヒイロが剣を抜く。
「だよね」
私も魔法剣を構える。
「俺の後ろから離れるなよ!」
「了解!」
そうしてモンスターの群れの中に突撃するのだった。
斬って、斬って、斬って、蹴って、斬ってを繰り返すが一向にモンスターの数が減らない。
私もヒイロも疲労が蓄積されてきた。
息が切れる。
「はぁ……はぁ……」
「あんま、無茶すんなよ……?」
「ヒイロこそ」
「俺は鍛えてるからいいんだ、よ!」
辛いがそんな軽口も叩き合える。
まだいける。
その時だった。
どこからともなく大きな火球が現れモンスターの一角を一掃する。
「こっちじゃ!」
可愛らしい声が響いた。私たちは特に確認もせずにその声の方へ駆け出す。
見れば進行方向に小さなドアがあった。
全く存在を気が付かなかったそこに二人で飛び込んだ。
するとドアはすぐに閉じられて閂をかけられる。
「ふぅ……災難じゃったのぉ」
そう言ったのは大きめのローブを着た小柄な少女だった。
「あ、ありがとうございます……」
「助けてくれて感謝する」
私たちが言うと少女は得意げに笑う。
「なに、気にするでない」
少女は私たちの横を通り抜けて通路の奥に進む。
ついていくと小さな部屋にたどり着いた。
そこで生活でもしているのかと思うほどに日常雑貨が置かれている。
「ワシはセレス。この遺跡の調査にきておる。おぬしらは何用でここにまいった」
「へ?」
「え、セレスって賢者セレス?!」
予想していなかった言葉に二人して驚くと少女、セレスは目をぱちくりさせる。
「なんじゃ、もしやワシに用かの?」
「あ、あああの!私たち勇者を探していて!」
「さくら落ち着け」
「だって……」
ゲームの時は男装していたのに今はしていない。
違いすぎて混乱してしまうのだ。
「ふむ、勇者とは聖女伝説の勇者の事か?」
「は、はいそうです」
「ならワシは違うじゃろう」
「へ」
「聖女伝説の勇者は全員男じゃ、ワシは対外的には男で通しておるがこの通り女なのでの」
「な、なるほど……」
そう言ってセレスは私の方を見る。
「おぬしが聖女か?」
「い、一応そうです」
「ふふ、緊張するでない。取って食ったりはせぬわ」
「はぁ……」
「勇者ではないが一つ良い情報をやろう」
セレスは腕組みをして私たちを順に見た。
「五年前の魔族大戦の時に仕入れた情報じゃ。魔王の弱点は胸元に露出した魔石なのじゃ」
「魔王の弱点?!」
「胸元の、魔石」
魔王の弱点は三か所から毎周ごとにランダムで決まる。
今回は一番わかりやすく狙いやすい胸元の魔石が弱点に選ばれたようで安心した。
「待ってくれ、仕入れたと言ったな。どうやって?」
ヒイロが聞く。
するとセレスは少し考えるように顎に手をやる。
「その時対峙しておった魔族からじゃ。そやつはどうにも変わり種らしくての。信用できると感じたのじゃ」
「魔族が信用できると……?」
「あぁ、そやつは戦いを憂いておった。いつまでも続く争いを止めて欲しいと懇願しておったのじゃ」
なんとなく、誰がセレスに情報を与えたのか見当がついた。
こんな事をするのは彼しかいない。
ゲームの時は予想できなかったことを知れてすこし嬉しい。
「それでも魔族の言葉は信用できない」
きっぱりとヒイロが言いきった。
その様子にセレスは苦笑する。
「信じる信じないはおぬしに任せよう」
さて、とセレスは言葉を区切る。
「おぬしたちの知りたい情報はもうなかろう。外まで送るぞ」
「え、外って……」
またあのモンスターの群れの中に入るのかと思い気が重くなる。
そんな私の考えを見抜いたのかセレスは笑った。
「ふふ、何もあの罠の中を二人きりで行けとは言わんよ」
どうやら助力してくれるらしい。
そのことに安堵する。
「伊達に賢者と呼ばれていない所を見せてやろう」
その言葉通り、賢者の力は凄まじかった。
火と水、風と地、四属性の魔法を同時に発動させ魔物を一掃してみせたのだ。
これでもかといた魔物が消し飛びヒイロも驚いている。
「ふむ、こんなものかのぅ」
とセレスは得意げに笑う。
「さぁ、進むのじゃ」
そう言ったセレスの後をついて先に進む。
その時だった。
カチリと私の足許から聞き慣れた音が聞こえた。
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