第22話 レンヴルム山へ
自由時間を使ってアルトはミスリルのナイフを新調して、ユウトは水属性の魔石を使った杖を手に入れていた。
各々新しい装備になった私たちはローランドの街を出てレンヴルム山を登っている。
雪山なので防寒対策もバッチリだ。
しかし
「さっむーい!」
「うっせ、静かにしろ」
「だって寒いんだもん!」
いくら防寒対策をしていても寒いものは寒かった。
「まぁまぁ二人とも落ち着いて、騒ぐとモンスターが寄ってきますよ?」
「うぅーだって寒いぃ」
「確かにこれは寒いな」
「アルトなんて耳当てまでしっかりしてるくらい寒いんだよ?なんで二人はそんな平気そうなのさ!」
アルトは事前に選んだ防寒具で全身もっふもふさせている。
なのに寒いのだ。雪山恐るべし。
なんで賢者とかすごい人は雪山とか僻地に住みたがるんだろう。
「僕たちは慣れました、ね?ヒイロ様」
「そうだな、比較的寒さには強いほうだと思うぞ」
「ぶー」
「ぶーたれんな。可愛い顔が台無しだぞ」
「ばっ?!ばっかじゃん?!」
いきなり可愛い顔とか言われて思わず悪態をついてしまった。
なんか昨日のデートイベントからヒイロの態度が変わった気がする。
優しくなったというか恥ずかしいセリフをさらっと言うようになったというか、そんな感じだ。
ここまで露骨に好感度上げてくると違和感を覚える。
が、周りはそこまで気にしていないようだ。
「とりあえず、賢者様の住む家はあとどれくらいになるんですか?」
寒さに悶えているアルトが聞いた。
「そうですね、事前に聞いた情報によるともうすぐのはずなんですが……」
どうやらユウトは情報収集もしておいてくれたらしい。
使える奴め。
それから暫く寒さに耐えながら歩くと家というより遺跡のようなものが見えてきた。
「まさか、あれか?」
「聞いた話ですと遺跡に住み込みで調査をしているそうですよ」
「ねぇ、もしかして遺跡の中から賢者を見つけるの?」
私の言葉に全員が顔を合わせる。
賢者の住処に行けばすぐ会えるものだと思っていたのでこれは予想外の展開だ。
「行くしか、ありませんよね」
諦めたようにアルトが言った。
全員頷いて遺跡の中に入るのだった。
遺跡の中は風もないので少し暖かかった。
やっと落ち着けるとばかりに皆で防寒具を脱ぐ。
「さて、問題はどこに賢者がいるかだな」
今私たちがいるのはロビーのような場所で少し広く作られた空間だ。
見ると賢者のものと思われる本や道具が隅に散乱していた。
「多分奥でしょうね」
遺跡とみると奥を目指す、賢者とはそういう人間なのだ。
「じゃあ奥に行ってみましょう」
そう言ってアルトとユウトが奥への道に足を踏み入れる。
ガコン
そんな音がして私とヒイロの足許が無くなった。
「「え」」
「あ」
遺跡にトラップはつきものでした。
私たちは重力に従って穴を落ちていく。
「わぁあああヒイロ様!さくらさん!」
「ヒイロさん、さくらさん!!」
アルトとユウトが追いかけて来ようとするのを手で止める。
「二人はそこで待機!もし賢者が戻ってきたら事情の説明をお願いねぇえええええええ!!」
そうして私たちは遺跡の奥へ落ちて行ったのだった。
********
「うー……」
「おい、大丈夫か?」
「う、うん大丈夫」
とっさにヒイロが下敷きになってくれたおかげで怪我をせずに済んだ。
しかし下敷きになったヒイロは軽傷を負ってしまったようだ。
「ごめん、痛い?」
「これくらい大丈夫だ。気にすんな」
そう言ってヒイロは立ち上がる。
本当に大丈夫そうなので一安心。
立ちあがって今いる場所をぐるりと見てみると薄暗いがそこは狭い牢屋だった。
ヒイロが光魔法の灯りを召喚する。
すると周囲が明るくなり全体が見渡せるようになった。
特に何もない牢屋だったが。
「侵入者用の罠ってとこか」
「どうしよう、出れるかな?」
ドアには重い南京錠がかかっている。
「まぁ任せておけ」
言うやヒイロは南京錠相手に何かし始めた。
数十秒くらいしたところでガシャンと南京錠が外れる。
「えぇ?!」
「閉じ込められた時のために習ってたんだがこんなところで役に立つとはな」
一体どんな状況を想定してピッキングなんて習っていたのか。
さすが王子。
私たちは牢屋を出るとさらにあたりを見回す。
他にいくつか牢屋があって、その先へ通路が続いている。
他の牢屋の中には特に何もなかった。よかった。
「とにかく先に進むか」
「そうだね」
そう言ってヒイロが先を歩き出す。
私もいつ何が起きてもいいように魔法剣を召喚してあとについていった。
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