第21話 デート
その日は持っている服でなるべく可愛い服を着た。
宿屋の入り口でヒイロを待っている間柄にもなく緊張をしている。
「待たせたな」
そう言って現れたヒイロはいつもと違いラフな格好をしていた。
見たことない姿に一瞬見惚れてしまう。
「う、ううん。そんなに待ってないよ」
「そうか?じゃあ行こうぜ」
すっとさりげなく手を取って歩き出す。
これじゃ本当にデートみたいだ。なんて思いながら顔を赤くしないように頑張りながらついて行くのだった。
昨夜のうちに思いだしたが好感度上位のキャラとのデートイベントがランダムのタイミングで発生する。
それがまさかローランドで、しかもヒイロとのデートだとは思ってもいなくて思いだすのに時間がかかった。
雪が降る中、連れ立って歩く私たち。
「どうした?寒いか?」
「え、だ、大丈夫だよ!」
「でも顔が赤いぞ」
熱でもあるんじゃないかと心配される。
お前が手をがっちり握ってるおかげですどうもありがとうございます。
なんて言えるわけもなく私は顔を伏せた。
「ほ、ほらさっさと行くよ!」
照れ隠しにヒイロを引っ張るように歩く。
「あ、おい危ないぞ!」
「あっ」
ヒイロの言葉通り足を滑らせてしまう。
無様に尻もちをつくかと思いきや、繋いだままの手を引かれそのままヒイロの胸にダイブした。
「大丈夫か?」
「う、うん。ありがと……」
何の拷問だこれはー!!
胸がどきどきしっぱなしで辛い。
そういえば私生まれてこのかたデートなんてしたことなかったわ。
ヒイロは私をしっかりと立たせると再び手を握る。
「注意してあるけよ?」
「わかってるよ!」
今度は転ばない様に注意しながら歩き出す。
その様子にヒイロは苦笑し、私を抜かして先を歩いた。
そうしてついたのは武器屋だった。
そういえば武器を新調する話をしていたわ。
デートのムードもない場所に少し冷静さを取り戻す。
「おぉ、これがローランドの鍛冶師が鍛えた剣か……!」
逆にヒイロは興奮したように剣を手に取ってみている。
「なんだい坊ちゃん彼女連れかい?」
店員のドワーフが話しかけてくる。
彼女と言われてドキっとした。
「か、彼女じゃねーよ!」
「そうかい?」
「あぁ、それよりも剣を見にきたんだ」
「なるほどね……お嬢ちゃんも苦労しそうだ」
何かを悟ったらしいドワーフの店員はカウンターから出てくると一本の剣を差し出してきた。
「これなんかどうだ?振りが早いのが特徴なんだが」
ヒイロはそれを受け取ると私たちから離れて一回剣を振る。
「……違うな、もっと重いほうがいい」
「そうか、じゃあこっちはどうだ」
そうしてあーだこーだと二人で話合いながら剣を選んで行く。
私は蚊帳の外になったので手持ち沙汰でその様子を見ている。
店内をぐるりと見渡したとき、ふと目につく剣があった。
黒鉄を使っているのか黒い刀身に炎のように赤い刃がついた剣だ。
「これは……」
私はこれを見たことがある。
ゲームのパッケージのヒイロが持っていた剣だ。
まさかこんな所にあるなんて。
思わずその剣に手を伸ばす。
「どうした?」
「ひゃっ」
急に耳元で声をかけられたので驚いた。
いつの間にか背後に来ていたらしいヒイロがその剣を見る。
「こいつは……」
ヒョイと剣を持ち上げた。
「そいつは炎属性の魔石を加えて鍛えた炎の属性剣だ」
店員が説明する。
炎属性、ヒイロの属性だ。
「……気に入った。これをもらおう」
「えっ」
そんなに簡単に決めていいのだろうか。
少し不安になる。
「せっかくさくらが選んでくれたんだ。これがいい」
「!」
この王子はドキドキで私を殺すつもりだろうか。
「はいはい、そういうのは外でやってくれ」
「?」
店員の言葉の意味が分からないのかヒイロは首を傾げる。
私は王様からもらった軍資金から剣の代金を出して店員に渡す。
「……ちょうどだな。まいどあり」
剣に合わせた鞘もつけてもらい私たちは店を出る。
私たちはどちらともなく再び手を繋ぎ通りを歩く。
「ありがとうな」
「なにが?」
「選んでくれて」
「べ、別に選んだわけじゃないわよ!」
私がきっかけだったとしても最終的に選んだのはヒイロ自身なのだ。
感謝されるようなことではない。
「で、剣も新調しちゃったしこの後はどうするの?」
「そんなの決まってるだろ?ここだ」
そう言ってヒイロが入って行ったのは防具屋だった。
なんだ、防具も新調するのかと店内に入るとヒイロが向かったのは女性ものコーナーだ。
「ほらよ」
「?」
「ローブ、そろそろ新しいのにしたほうがいいだろ?」
渡されたのは新品のローブだった。
確かに今着ているものはリペア石を使っても裾がボロボロになってきていて、見た目が悪い。
それに気が付いてくれていたのか。
「あ、ありがと」
手渡されたローブを試着するとサイズもぴったりでデザインも可愛らしい。
一目で気に入った。
「これ、買います!」
「お、おい。いいのか?他にもデザインとかあるんだぞ?」
「これがいいの!」
「そ、そうか」
そう言えばなぜか嬉しそうな顔をするヒイロ。
お会計を済ませてお店を出ると雪が強く降り始めていた。
「やばいな。吹雪く前に宿に戻るぞ」
「う、うん」
そう言ってヒイロは私の手を握る。
結局、宿に戻るまで手を繋ぎ続けたのだった。
デートイベント、悪くないね。
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