第20話 ローレライ地方
翌日、朝から部屋にエリザが突撃してきた。
「今日1日は皆さんお休みにしてもらいましたの!」
「えぇ……なんで?」
私がやる気なさげに言うとエリザはキッと目を細める。
「私言いましたわよね、ヒイロ様をお慕いする以上相応の教養が必要だと」
「あー」
そういえば言われた。
まさかその為に1日休みにしたのだろうか。
「今日1日で出来る限りの事は教えて差し上げますわ!」
「まじか」
「えぇ!大マジですわよ!」
そう言ってまず最初にとドレスに着替えさせられる。
「まずは美しい歩き方からですわ!」
「えぇー!」
なんとかして逃げたいと思うけど善意の行為だから逃げられないのであった。
それから知識、マナー、ダンスを教わり1日でげっそりした私を見たヒイロに笑われ、ムカッとしてチョークスリーパーをかけた私は悪くない。
********
さらに次の日、涙目になるエリザに見送られながら私たちはローレライ地方に向けて出発した。
ガタゴトと馬車に揺られながら私は聞く。
「ローレライ地方ってどんな所?」
どんな所かはスチルで数枚見たくらいしか知らない。
「レスタルヴァ王国の北部に大きなローレライ山脈があって、レンヴルム山もそこに含まれている。山に囲まれていることから鉱物資源が豊富で鍛冶産業が有名だな」
「へー、ヒイロの剣もそこ産だったりするの?」
「いや、俺のは城下町産だ。ローランド産の剣なんて俺にはもったいない」
ちなみにローランドとは今向かっている街である。
ちょうどレンヴルム山の麓にある雪景色が美しい街だ。
「もったいないって、これから魔王を討伐するんだから剣くらい新調してもいいと思うけどなぁ」
「そ、そうか?」
「そうですね、私のナイフも新調できるならしてしまいたいです」
とアルトが鞘に入ったナイフを取り出した。
それはとても年季が入っていた。
「綺麗なナイフだね」
受け取り鞘から抜き放つと翡翠色の刃がキラリと光る。
「先代から受け継がれているミスリルのナイフです」
「え、先代って翠色の勇者の?」
私が聞くとアルトは頷いた。
「はい、そうです」
「え、それってすごいものなんじゃ……」
なんだか持っていたらいけない気がして慌てて鞘に戻してアルトに返した。
「ですが技術は日々進歩しています。より良いものがあればそちらを使った方がいいです」
「そ、そっか」
「……そうだな、縁があれば俺たちも武器を新調するか」
意を決したようにヒイロが言う。
そんなに迷うほどのものがあるのか不思議でならない。
ゲームの時は通り過ぎるだけで終わった街だからなんだかワクワクする。
そんな会話をしながら馬車は進んでいくのだった。
********
ローランドには一日もかからず着いた。
思ったよりも近くて驚いたのは秘密だ。
ちらほらと雪が降っており肌寒い。
「ほら、これでも着ておけ」
馬車から降りるとヒイロがマントをかけてくれる。
寒いといっても馬車から宿に入るまでの間なんですけどね。
そんな心遣いが嬉しかった。
今度の宿は1人一部屋取れたらしくそれぞれの部屋に向かう。
といっても皆同じ階の隣同士だったんだけどね。
「じゃあ夕飯になったら下集合な」
「了解です」
「わかりました」
「はーい」
そう言って部屋に入る。
特に夕飯まですることは無いがしなきゃいけないことはある。
ダンスの自主練だ。
空いてるスペースを使って足運びを練習する。
「いち、にー……いち、にー……」
「何してるんだ?」
「?!」
急に聞こえた声に驚いて足で足を踏んでしまう。
「いったぁー……」
「わ、悪い……」
そう謝ったのは窓枠に腰掛けるリンドだった。
「ちょっと、まだ明るいのに大丈夫なの?」
「ちゃんと見られてないことは確認しているよ」
「そ、そっか」
ならいいのか?
でも外から見られると困るので中に入ってもらった。
「なぁ、なんでダンスの練習なんてしてたんだ?」
「うぇ?!なんでって、その……必要、だから」
さすがにヒイロとダンスするためなんて言えない。
「ふぅん。手伝ってあげようか?」
「いい」
申し出を断ると私はリンドに詰め寄る。
「あのさ、エリザのこと助けてくれたのリンドでしょ?」
「へぇ、わかったんだ」
「当たり前じゃない。人間に擬態して人間を助ける魔族なんてリンドくらいしか思い浮かばないわよ」
「そっか」
「何が目的なの?」
今回の事といい、何がしたいのか分からない。
「早い所四人の勇者をそろえて欲しいだけだよ」
「それはなぜ?」
「……まだ、言えない。だから早く勇者を見つけてよ」
私の質問から逃げるようにリンドは窓枠に足をかけて飛び出して行ってしまった。
「リンド……」
彼は何故急がせようとするんだろう。
理由が私にはわからない。
ゲームの時はそこまで急がされるようなことは無かった。
「ティア、リンドの好感度は?」
「うーんと、もうちょっとってところですね!」
「そっか、ありがとう」
こんなやり取りでも着実に好感度は上がっている。
四人目の勇者としてリンドを迎えるまでもう少しだ。
その後、夕飯の時間になったので下に降りて皆で夕食をとった。
明日は自由時間にして街を回ってみようという話になる。
それぞれ武器を見繕いにいくようだ。
私の武器は魔法剣だし、何を見に行こうかな。
なんて考えているとヒイロに腕を引かれた。
「お前は俺と行動な」
「え、なんで?!」
「お前一人にしておくと何が起きるかわかんねーからだよ」
「えぇなにそれー!」
私は歩く時限爆弾か何かか!
不満を言うがユウトにも勧められてしまい明日ヒイロと行動することになってしまった。
あれ、これってもしかしてデートなんじゃ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます