第19話 帰還
三人目の勇者、アルトを仲間に加えた私たちは王都レガリアに帰ってきていた。
エリザも合流して一緒だ。
クルトはエリザが一緒なので嬉しそうにキュルキュルと鳴いている。
が城についてすぐエリザは屋敷に帰ったため少し寂しそうだ。
帰還した旨を王様に伝えるために城の中を歩いていた。
「四人目の勇者なぁ……」
「力憂いしが分かりませんが英雄を探してみればいいのではないですか?」
アルトの言葉にユウトが反応する。
「英雄と言えばシルヴァ様ですね!」
「え」
今出てくるとは思わなかった名前に驚く。
「シルヴァ様?」
何も知らないのかアルトが聞いた。
「はい、ヒイロ様の兄君です。シルヴァ様は五年前の魔族大戦中に最年少で活躍された英雄なんですよ」
ユウトの口から私も知らない情報が出てくる。
私が知っているのは四人を攻略すると出てくる五人目の隠しキャラで、眉目秀麗文武両道な王子様ということだけだ。
彼を攻略する前に私はこちらの世界に来てしまったのでどういう性格の人物か分かっていない。
「僕がどうかしたかい?」
偶然そこにいたという風に私たちの進行方向、階段の上に彼はいた。
爽やかな笑顔を見せた青年、シルヴァ王子は一段一段階段を下りてくる。
「兄上!戻っておられたのですか?」
「うん、ちょうどさっき戻ったんだよ。聞いたよヒイロ、勇者に選ばれたんだってね」
シルヴァ王子の登場にヒイロは表情をぱぁっと明るくした。
兄弟二人共仲はよさそうだ。
「はい!」
「そうか。それで、君が聖女様かな?」
スッとシルヴァ王子と視線が合う。
その瞬間、心の中を見透かされたような気分になった。
「は、はい」
なんだかそわそわする。
そんな私の気持ちを感じ取ったのか視線が私から外された。
「思ったより普通の女の子だね」
「へ?」
「兄上、それは普通の女の子に失礼では」
「それってどういうことかな???」
喧嘩売ってるのか。
その会話にシルヴァ王子が笑う。
「ハハ、仲がいいようでよかったよ」
ところで、と彼は言葉を区切る。
「僕に何か用があったんじゃないのかい?」
「俺たちは英雄を探していたんです」
私の代わりにヒイロが答えた。
「英雄?」
「はい、四人目の勇者は力憂いし英雄らしいので」
ヒイロの言葉に納得したようにシルヴァ王子は頷く。
「なるほど、力憂いしが分からないけれど一応僕は英雄と呼ばれているからね」
「さくら、どうなんだ?」
どうなんだと言われてもティアは反応しないし、出会ったばかりで好感度もなにもあったもんじゃないし、第一に四人目の勇者はリンドだ。
シルヴァ王子じゃない。
私は首を横に振る。
すると特に残念そうな素振りも見せずに彼は笑った。
「僕じゃないらしい、英雄について調べるなら父上に聞くといいよ」
それだけ言って階段を下りて行ってしまう。
ヒイロはどこか残念そうにその背中を見つめていた。
「しょうがありませんよ、さぁ陛下の所へ参りましょう」
ユウトが言う。
私たちは再び階段を上り始めるのだった。
********
「おぉ、ヒイロよ。よくぞ戻った」
「ハッ」
やっぱり何度見ても王様は渋かっこよかった。
「して、その方が新しい勇者か?」
「はい、アルトハイゼンと申します」
王様の問いにアルトが答える。
「うむ、順調なようで良かった」
「陛下、その四人目の勇者のことなのですが……」
ユウトが言いだす。
「なんだ?」
「力憂いし英雄がヒントなのです。英雄に心当たりがあれば教えていただけないでしょうか?」
「ふむ、英雄か……シルヴァにその話は?」
「しましたが、違ったようです」
「そうか」
王様が考えるように顎に手を添える。
「私が知る英雄といえば賢者セレスだな」
「賢者セレス?」
「うむ、賢者セレスは前の魔族大戦で活躍して英雄と呼ばれている。確か今はローレライ地方のレンヴルム山に住んでいるはずだ」
王様のおかげで次の目的地が決まった。
賢者セレスは勇者ではないけれど、魔王攻略において有力な情報をくれる存在だ。
ゲームの時は男装してる女の子だったけど現実はどうなんだろう?
ちょっとワクワクする。
「では次はレンヴルムに向かおうと思います」
「うむ、気を付けていくのだぞ」
「はい!」
元気よく全員で返事をして謁見の間を後にする。
「はぁ、緊張しました……」
「まぁそれが普通の反応だよな」
アルトが肩の力を抜くように息を吐く。
「なんで私の方を見て言うのかな?」
「いや、一かけらでも緊張感持ってくれねーかなーって」
「私だって緊張する時くらいあるわよ!」
「いつだよ!どこで緊張してたよ!」
「ハハハ、本当仲がいいね」
「「どこが?!」」
今のやりとりのどこを見て仲良しだと思ったのだろうか。
まぁ確かに、好感度は友達以上恋人未満にはなってるから仲良しではあるんだろうけど。
いちいち一言多いんだよね。
こんなでも私の推しだからなぁ。
「まぁまぁ二人とも、それくらいにしましょうよ」
「そうですよ」
ユウトとアルトが嗜めてくるので仕方なく言い争うのを止める。
「じゃあ僕はアルトさんを客室へ案内してくるのでこれで」
「ではまた後で」
そう言ってユウトはアルトを連れていく。
「あ、じゃあまた後でね!」
「おう、じゃあな」
私たちもそれぞれの部屋に向かうため別れるのだった。
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