第18話 暗躍


聖地を浄化した私たちは再びエルフの里に戻ってきていた。

村長の家の居間に通されて前と同じように座る。

今回はアルトとエリザも一緒だ。

クルトはエリザの膝の上に寝ころんでいる。

「問題の迅速な解決、ありがとうございますじゃ」

そう言って村長は頭を下げた。

「こちらこそご協力ありがとうございます」

一同を代表してヒイロが言う。

「して、今回の騒動の原因は何だったのですか?」

「それは……」

私たちは前回の迷い人は恐らく魔族でその血を泉で清めたために大地が穢されてしまった可能性を話した。

「なんと、人間に擬態などされては判別がつきませんな」

「それはなんとかなると思います。この森自体には通行証が無いと入れないのでその都度通行証の有無を確認してください」

とユウトは言った。

確かに通行証は普通はなかなか発行されない。

身元が確かじゃないといけないから魔族が通行証を持っていることもないだろう。

「そうですか。ではそのようにいたしますじゃ」

村長が納得したように頷く。

「長、大事な話があります」

アルトが言うと村長は首を傾げる。

「なにかあったのかのう?」

「私は今代の翠色の勇者に選ばれました」

「なんと!それはまことですかな?」

「はい」

村長が私のほうを向いて聞いてきたので返事をした。

すると村長は嬉しそうに何度も頷く。

「そうか、そうか。それは良かった」

「長、聖地の番人を放り出して聖女様についていくことをお許しください!」

そう言ってアルトが頭を下げる。

「よい、よいのじゃ。番人はワシの倅に任せよ。アルトよ、しっかり務めを果たすのじゃぞ」

「ハッ!ありがとうございます!」

そう言ってアルトは再度頭を下げると私の方を向いた。

「というわけで、私は翠色の勇者の務めを果たしたく思う。一緒に行っても構わないだろうか?」

「はい!もちろんです」

「同じ勇者だからな。仕方ねぇ」

「この不機嫌なのがヒイロ様で僕がユウトです。よろしくお願いしますね」

ヒイロとユウトも賛成した。

「おい、不機嫌なのってなんだよ」

ユウトの紹介に不満を持ったのかヒイロがユウトの頬を引っ張る。

「いひゃい、いひゃいれふ!」

「ふふ、あぁよろしく頼む」


「ところで、どうしてエリザは魔族の仕業だってわかったの?」

ずっと気になっていたことを聞く。

「それは……」

少し言いづらそうにするエリザ。

「私を助けてくれた人がいたのです。その方が教えてくださったのですわ」

「人?人間がいたのか?」

エリザの言葉にアルトが反応する。

「え、えぇ」

「おかしい。ここに来る前に確認したが今この森に来ている人間は俺たちだけだぞ」

「え?」

「まさか……魔族?」

私の言葉に皆の視線が集中した。

だってそうとしか考えられない。

「しかし魔族だとして何のために……」

「……多分、魔族も一枚岩じゃないんだと思う」

「なぜそう思うんだ?」

ヒイロに聞かれて私はリンドの事を言おうか悩んだ。

「……確証は無いよ。そうとしか思えないからそう言っただけ」

「そうか」

結局言わないことにした。

今リンドの事を話して混乱させるべきじゃないと思ったからだ。

「とにかく考えるのは城に戻ってからにしよう。俺たちだけで考えても始まらない」

「そうですね。他の方の意見も聞いた方がいいと思います」

「うん、そうだね」

話はそこまでにして、私たちはエルフの里を後にすることにした。



*********



ダリクセンに戻ると待ち構えていたガリオンさんはエリザの無事を号泣して喜んだ。

同時にアルトが今回の件について説明をして謝ると対応に困ったように眉を下げた。

「私はエリザが無事ならばそれでいい。花の件も知らずにいて申し訳なかった」

「いえ、花の件は我々エルフが意図的に隠したこともありますので……」

「お父様!それにアルトも謝罪合戦は後にして下さいませ!」

このままだと永遠に続きそうだと思った所でエリザの制止が入る。

話はそこまでにしてそれぞれ屋敷に戻ることになった。

エリザは一応ガリオンさんと一緒にマードレの屋敷へ行った。

私たちは広間に集まってこれからのことを話し合うことにする。


「改めて自己紹介させてくれ、私はアルトハイゼン。翠色の勇者の子孫で魔物使いをしている。他には植物魔法も得意だ」

そう言ってアルトは自己紹介をした。

「俺はヒイロ・レスタルヴァ。この国の第二王子だ。得意なのは炎魔法だな」

「僕はユウト・ハイランド。次期宰相候補です。得意なのは氷魔法になります」

「で、私はさくら。聖女で魔を払う力と剣聖のスキルを持ってるよ」

改めて皆で自己紹介をする。

第二王子に次期宰相、それに勇者の子孫に聖女とはなかなかすごい面子だと思う。

「ありがとう。これからよろしく頼むよ」

「これで勇者が三人そろったな」

「そうだね。あと一人だよ」

「残りは金色の勇者……力憂いし英雄か」

私はリンドの事を思いながら窓の外を見る。

気のせいか、樹の枝が揺れた気がした。



********



「あと一人か……手遅れになる前に見つかるといいんだが……」

そう言うとリンドは隠れていた樹の枝から空へ飛翔する。


この時リンドはまさかあんなことになるとは思ってもいなかったのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る