第17話 翠色の勇者

エルフの青年に案内されてついた聖地は酷いことになっていた。

所どころ花が枯れていて地肌が露出している。

「これは……」

「酷い状況ですね……」

「これはいつからこうなったんですか?」

私が聞くと青年は思いだす様に言う。

「たしか半年ほど前からですね。その頃聖地に人間が迷い込みましてその後から花が枯れ始めました」

「人間が?」

それはおかしい。

緑深き森は通行証が無いと立ち入れないし、森を囲むように兵士が配置されているから侵入するなんてできるはずがない。

「その迷い人は通行証は持っていたんですか?」

「?いいや、持っていなかったですね」

通行証も無しに森に入れる人間がいるとは思えない。

やはりこれは何かがおかしい。

「おかしいですね、通行証が無ければ森自体に入れないはずです」

私の考えを肯定するようにユウトが言う。

「そいつが何かした可能性があるな」

そう言ってヒイロが腕を組んだ。

「調べましょう」

私が言うとドン!と地面が揺れた。

私たちの行く手を遮る様に蔦が伸びてくる。


「人間が何をしにきた!ここを我らが聖地と知っての行動か!」


現れたのは激高する翠色の勇者アルトだった。

彼は完全にこちらを敵として認識しているようだ。

「お前が俺たちの仲間を攫ったんだろうが!」

そう言ってヒイロが剣を抜く。

「仲間……?エリザのことか」

「エリザはどこ!無事なんでしょうね?!」

私が問いかけると翠色の勇者は鼻でフンと笑う。

「エリザはここにはいない、返して欲しければ今すぐにここから消えることだな」

「なんだと……」

短気選手権優勝候補のヒイロが剣を構える。

一触即発の雰囲気だ。



「二人共おやめになって!!」



翠色の勇者を背後から現れたエリザが彼を引き留めようと背後から抱き付く。

私もこれはいけないとヒイロの背中に抱き付いた。

思っていたよりも広い背中に一瞬ドキっとする。

「お、おい?!」

「エリザ?なぜここに!」

「お二人が争う必要はありませんわ!今回の件は人間が起こしたものではありませんの!」

「何……?」

「なんだって?」

エリザの必死の言葉に二人の動きが止まる。

私はヒイロから離れた。

「今回の件は魔族の仕業ですわ!私たちを仲違いさせようとしているのです!」

「そんなわけないだろう?聖地に魔族は近付けない!」

翠色の勇者の言葉にエリザは何度も首を横に振る。

「いいえ、いいえ。魔族は近付けます。現にあなたは会っている」

「会っている?どういうことだ?」

彼はエリザの言葉に怪訝そうな顔つきになった。

「魔族は人間に擬態できますの。半年前、あなたが出会った人間こそ魔族だったのですわ」

「なんだって?!それは本当か!」

擬態、という言葉に私はリンドを思い浮かべる。

もし彼のように人間に擬態している魔族がいたのならば聖地に足を踏み入れ何かすることも可能かもしれない。

「その人間は傷だらけの体を泉で清めませんでしたか?」

「……した。傷だらけだったので私が泉に案内したんだ」

「魔族の血は毒ですわ。水にしみ込んだ毒が土を介して花を蝕んだのです」

「そんな……じゃあどうすれば……」

彼の気持ちに反応するように蔦がしおしおと枯れていく。


「あの、私に任せてもらえないですか?」


おずおずと私は言いだす。

すると困惑した表情の翠色の勇者が私の方を見る。

「私のスキル魔を払う力ならなんとかなると思うんです」

「魔を払う……もしや聖女なのか?」

彼の言葉に私は頷いた。

「なんと、まさかこのタイミングで聖女が現れるなんて……」

翠色の勇者は優しくエリザを引きはがすとゆっくり私の前まで歩いてくる。

そして跪いた。

「どうかお願いします。聖地を、助けてください」

「任されます」


「好感度が一定値を超えました!今こそ加護を与える時です!」


いきなりティアが反応した。

急な事で驚いた。

だって好感度上げるようなことしてないし。

今のは好感度というよりは忠誠心のほうが近いんじゃないだろうか。

でも願ってもいない機会なので私は翠色の勇者に聞いた。

「貴方の名前は?」

「はい、アルトハイゼンと申します」

「じゃあ動かないで」

「は、はい?」

戸惑っているアルトを他所に私は祝詞を紡ぐ。


「聖女さくらの名において、アルトハイゼンを翠色の勇者に任命する」


三度目ともなると慣れたものでアルトの額にキスをする。

すると聖女の力が体からあふれ出し聖地の毒を浄化していくのがわかった。

唇を離すと優しい意志が胸に灯った気がした。

「私が、翠色の勇者……」

呆然と呟くアルトに私は頷いた。

「これで聖地の毒は全部浄化されたはずです」

「あぁ、ありがとうございます!」

感激のあまり手を握られる。

すると何を思ったのかヒイロがその手を奪い取った。

「あんまこいつに触るんじゃねーよ」

「え、えぇそうですね。すみません軽率でした」

えー今まで一度だってこういう行動に出たことないじゃん。

急にどうしたっていうのか。

「と、とりあえず解決したんだから里に戻りましょう?」

「ですわね。話はそれからでも遅くはないと思いますの」

そうして私たちは連れ立って里に戻ることになった。

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