第15話 強襲


ガリオンさんの屋敷でご飯を頂いた後特にイベントも無く私たちは別荘に帰ってきた。

特にすることも無かったのでそれぞれの部屋に戻って明日の朝食で話し合おうという話になる。

再び部屋で一人(と一匹)になったので考え事を再開した。

私が思うにリンドの好感度はもう少しで一定値を超えると思う。

だから今気にしなきゃいけないのは翠色の勇者アルトの事だ。

エルフはどっちかっていうと閉鎖的で、魔物使いである翠色の勇者だけが人間に対して友好的な態度を取っている。

そんな彼の頼みごとを聞いて好感度を上げていくというのがゲームでの攻略法だった。

しかも頼みごとはランダムになっており事前にアイテムを用意しておくのが難しいこともあった。

「とりあえず明日エルフの里に行ってからかなぁ……」

「ねぇねぇ、そろそろ寝た方がいいの!」

「うん、そうだね」

ティアに言われて窓の外を見るとすでに真っ暗になっていた。


「……リンドもこの空を見ているのかな」


彼は今何をしているのだろう。

また人に紛れているのだろうか?

私は寝るためにサイドテーブルのランプの灯りを消した。


ガシャァン!!

きゃあああ!!


「?!」

静かな屋敷に隣室のエリザの悲鳴が響き渡る。

慌てて起き上がると部屋を飛び出した。

隣の部屋のドアを蹴り開ける勢いで開けると信じられないものを見る。

割られた窓ガラスと飛び散った破片。

それに無数の蔦植物が部屋を侵食していた。

植物の中心にいる人物にはとても見覚えがある。


彼こそ翠色の勇者アルトだった。


なぜここに彼がいて、しかもエリザの部屋に押し入ってきたのか分からないが知らないイベントである以上、異常な事態だと理解する。

「エリザ!!」

蔦に絡みつかれて宙に浮いているエリザを見つけた。

私は魔法剣を召喚してエリザを助けようとする。

「うっ……」

しかし魔法剣がエリザを捕らえる蔦に当たる前に別の蔦によって妨害されてしまう。

その頃になってようやくヒイロとユウトがやってきた。

「エリザ!一体どうなってやがる!」

「ヒイロ様!まずはエリザ様を助けるのが優先です!」

「おう!」

だが二人が加わっても蔦の多さに阻まれてエリザまで到達できなかった。


「人間め……花だけでは飽き足らず、俺の大切な家族まで攫った罪は重いぞ!」


翠色の勇者が怒りを顕わにする。

一体どうしたというのだろう。

彼は優しき想いの体現者。こんな風に怒ったりしないはずだ。

あまりにも知っている様子と違うので困惑した。

彼を落ち着かせようとクルトが周りをぐるぐると飛び回っているが効果が無いようだ。

「そうか、クルトを私達が攫ったと思ってるんだ……」

それで怒りで頭がいっぱいになっているに違いない。

「とにかく怒りを鎮めないと!」

「どうやってだ?!」

「どうにかしてに決まってるでしょ!」

「この状況で言い争わないでください!」

その時、翠色の勇者が動いた。

彼が腕を上げるとそれに操られるようにたくさんの蔦が襲い掛かってくる。

「きゃっ!」

「うぉ?!」

思わず弾き飛ばされた私をヒイロが受け止めてくれた。

私達が体勢を崩している隙に翠色の勇者は窓の外へ出て行く。


その蔦にエリザを捕らえたまま。


「え、エリザ!!」

手を伸ばすが間に合わない。

翠色の勇者はエリザを連れて夜の闇の中に消えて行く。

「くそっ!」

「ど、どうしましょう……!」

相手は森の加護を受けたエルフだ。

今から外に出ても追いつける気がしない。

「……悔しいが朝になるまで待とう」

悲しいかな、人間である私達には朝を待つしか手はなかった。



********



「ん……」

肌寒さを感じてエリザは目を覚ます。

そこは周りを岩肌に囲まれた洞穴のような場所だった。

ご丁寧に檻の用に入口らしい場所は扉で塞がれている。

「ここは……」

エリザは思いだす。

夜寝ていた所をアルトに襲撃されたことを。

「そうだ、私気を失ってしまって……」

「目覚めたか」

外から声を掛けられた。

聞き覚えのある声にエリザは扉にとびつく。

「アルトさん!」

「なぜ人間が俺の名前を知っている?」

その言葉に多少の棘を感じつつもエリザは気丈に振る舞う。

「私です。エリザベートですわ!」

「エリザ……?」

信じられないと言った声音だ。

ここで諦められないとエリザは言葉を続ける。

「クルトの名づけをさせてもらったエリザですわ」

「どうしてそれを……本当にエリザなのか?」

アルトとエリザしか知らない事を伝えれば動揺したような気配が伝わってきた。

「エリザですわ。久しぶりすぎて忘れてしまったんですの?」

「しかしお前はクルトを攫った人間の一味なんだろう?!」

「違います!クルトはモンスターに追いかけられていた所を保護したんですの!明日には連れてくる予定だったのです!」

「嘘だ!人間の言葉なんて信じられない!」

頑なに信じようとしないアルトの様子にエリザは困惑する。

「アルトさん……何があったのですか?」

「お前たちがいけないんだ!我らの聖地を穢した人間が!!」

「聖地を、穢した?あの花畑に何があったんです?!」

エリザは一度だけ見せてもらった聖地の様子を思い出す。

美しい花々が咲き誇った素敵な場所だったことを。

そこが一体どうしたというのだろうか。

「アルトさん!答えてください!」

「……」

問いかけに答えずアルトの気配が遠さがるのを感じる。

「アルトさん!お願いです!行かないで!!」

エリザは扉に叩きつけるように拳を握った。

「一体何が起きているんですの……あぁ、ヒイロ様……」


エリザはどうか争いが起きない様にと祈ることしかできなかった。

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