第14話 攻略法


小さな飛竜型モンスターが翠の勇者の子孫の家族という爆弾発言をしたらエリザ。

「ど、どう言うことなんだ?」

「翠色の勇者様の子孫の名前をアルトさんと言いまして、彼は魔物使いなんです。クルトは使い魔なんですの」

「魔物使いってモンスターが人に懐くのか?!」

ヒイロが驚いたように言う。

「現にクルトは人に慣れてるじゃありませんか」

名前を呼ばれたクルトがピュイーと鳴く。

「た、確かにそうですね……」

「それに緑深き森に住むエルフさんたちは自然との調和を大切にしていますの、だから自然であるモンスターは敵ではないのですよ」

「なるほど……優しき想いの体現者か」

「エルフならその言葉に合いますね」

ヒイロとユウトは納得したように頷く。

「それにしても、どうしてクルトはこんな所にいたのかしら?」

「使い魔って主人から離れても大丈夫なの?」

「いえ、基本的に離れないはずですわ」

私の問いにエリザは答える。

「じゃあ近くにご主人様がいるのかな?」

「まさか、緑深き森はまだ遠いですわ。基本的にエルフ族は森を離れないんですのよ」

「そうなんだ」

「おそらく逸れた所をモンスターに襲われたのだと思いますわ」

そう言ってエリザはクルトを撫でる。

慣れているのかクルトは気持ち良さそうに撫でられていた。

「そっか、エリザはその人と仲良いの?」

「仲がいいかと言われるとそうかもしれませんが……彼とは香料の件で取引をしているのですわ」

「あぁ、特産品って言ってた香水の?」

私が言うとエリザは頷いた。

「その花の原産地はエルフ族にとって聖地とされる場所でして、それを毎年分けてもらっていますの」

「なるほどー」

「じゃあそいつは無事に届けないといけないな」

「ですわね」

ヒイロの言葉に反応するようにクルトが鳴いた。

「では、ご主人様も心配されているでしょうし先を急ぎましょう」

そう言ってユウトが馬車に戻るよう促す。


こうして私たちはクルトを加えて再び馬車に揺られていくのだった。



*********



それからは何もなく順調に進み日が暮れる前にマードレ公爵領、ダリクセンの街についた。

豊穣祭が催されているとの言葉通り、中央にいくにつれて出店が増えて人が多くなっているのが窓から見える。

馬車は中央広場を素通りして一際大きな門を構えた屋敷の敷地に入った。

どうやらこの屋敷が王族の所有する別荘のようだ。

「大きいー」

「口空いてるぞ、城の時と同じ反応だな」

ヒイロに注意されて慌てて口を閉じる。

そこではさすがに一人一部屋与えられて各々一息ついた。

クルトはエリザ預かりとなり彼女と一緒にいる。

夕飯まで久しぶりにゆっくりできるのでティアに気になっていた事を聞くことにした。

「ねぇティア。それぞれの好感度についてなんだけど、どれくらい上げるといいの?」

「どれくらいというと……お友達以上恋人未満ですかねー」

「そっか、やっぱりそれくらいなんだね」

そう言って私は手書きの攻略メモ帳を開く。

実は翠色の勇者はお使いクエストで好感度を上げるのだ。

それが面倒で面倒で、ゲームの時は四週目に攻略したくらいだ。

「うーん、先回りしてアイテムは揃えておくべきかなぁ?」

攻略ルートを悩んでいるとドアをコンコンとノックされた。

慌ててメモ帳をしまう。

「はい」

「あの、私ですわ」

来たのはエリザだった。

ドアを開けると可愛らしいドレスに着替えたエリザと腕に抱かれたクルトがいる。

「どうしたの?」

「実は私が来たことをお父様に伝えたところ、是非お夕飯を一緒にどうかと言われまして」

「ご飯を?でも私マナーとか知らないよ?」

「それは私が教えますので大丈夫ですわ」

「そ、そう?」

教えられてもできる気がしないが大丈夫だろうか。

「ドレスも私のをお貸ししますわね」

「えっドレス着るの?!」

正直窮屈だからあまり着たくない。

「当たり前ですわ。これも練習と思って頑張ってくださいませ」

無情にも言い放たれた言葉に私はがっくりと肩を落とすのだった。

それからエリザの部屋に拉致されああでもないこうでもないとドレスの着せ替え人形になり、夕飯の時間になるころにはへろへろになっていた。

へろへろの状態の私を見て何が起こったのかを察したユウトは同情の視線をよこし、察せなかったヒイロは死神でも背負っているのかと冗談を言ってくる。

お前を背負い投げしてやろうかと言わなかっただけ私は偉いと思う。


私たちは少しの距離を馬車に乗ってエリザのお父さんがいる領事館に向かった。


執事さんに広間へ通された所にゴツイおじさんが待っていた。

おじさんはヒイロを見ると嬉しそうに手を広げる。

「おぉ、ヒイロ様!お久しぶりですぞ!」

「あ、あぁ」

「さくらさん、こちらが私のお父様ですわ」

「エリザのご友人ですかな?ガリオンですぞ。今後とも娘をよろしくお願いします」

「は、はい」

「ささ、まずは席へどうぞ」

ガリオンさんに促されて私たちは席に座った。

すると待ち構えていたように料理が運ばれてきた。

会話もそこそこにいただくことにする。

「さくらさん、ナイフとフォークはこちらから使うんですのよ」

「う、うん」

私は隣に座ったエリザに教えられながらご飯を食べる。

「いやぁ街では聖女様が現れたうえにヒイロ様が勇者に選ばれたと話題ですぞ」

「何、もうここまで噂が広がっているのか」

驚いたようにヒイロが言う。

確か、聖女のことも勇者のことも大々的に公表してはいないはずだ。

恐らく上位貴族間で噂になっているのだろう。

「えぇ、してダリクセンには勇者探しに来たのですかな?」

「隠しても無駄だな。そうだ」

諦めたようにヒイロは言った。

「そうですか。エリザはお役に立ちそうですか?」

「あぁ、とても役に立ってくれている」

「おぉ、それは良かった!で、どうですかな。エリザと再び婚約していただけませんかな?」

「お父様!その話は終わったのですわ!」

恥ずかしそうにエリザが言うとガリオンさんは婚約を求めないという話について聞いていなかったのだろう。

「何やら色々とあったようですな」

「あぁ」

「聞かせていただけますかな?」

そしてヒイロは城で起こった決闘について説明する。

ガリオンさんはそのことに驚いていた。


そこからはガリオンさんに気を使って特に盛り上がりのない話をしてその場をしのいだのだった。


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