第13話 恋バナとモンスター
「女の子だからこそできる話をしようじゃないか」
「何を言っていますの?」
ベッドから顔を出したエリザが言う。
「恋バナだよ」
「恋っ?!な、なにを言いだすのですか」
恋と言ったとたんエリザの顔が赤くなる。
「女の子同士がする話と言えば恋バナでしょう?」
「どういう理屈ですか」
修学旅行とかそういうことをするもんだと思っていたんだが違うのだろうか。
「ずばり、エリザはいつヒイロの事を好きになったの?」
「え?ひ、ヒイロ様の事……」
エリザは困ったように目を伏せるが耳まで真っ赤に染まっている。
「……あれは、私が5つの時ですわ」
彼女が語りだしたのは出会いの話だった。
五歳になってお城へ呼ばれた父に連れられてやってきた城で中庭に目を捕らわれている間に迷子になってしまったのだという。
そんなエリザを助けたのは同じく中庭に来ていたヒイロで、泣きそうになるエリザを慰めながら父を探す手伝いをしてくれたのだとか。
そんなヒイロの優しさにいつの間にか惚れてしまっていたらしい。
乙女だ。
だから婚約の話があった時は嬉しさのあまり父親に飛びついた。
しかし十年後に突然旅に出ることになったからと一方的に婚約を破棄して旅立ってしまったのだとか。
この間ようやく戻ってきたと聞いて訪ねてみれば態度はそっけないし隣に知らない女を連れているしで嫉妬してしまったんだそうだ。
恋する乙女って怖い。
決闘を経て、もう復縁を望む気持ちは無いとのことだ。
「わ、私の話ばかりではなくさくらも何か話なさいな」
恥ずかしそうにエリザに言われてしまった。
私にできる話かぁ。
「私は彼の何事も諦めず突き進む姿勢に勇気を貰ったの。いえ、惚れていたのね」
ゲームを進めていて、いつの間にか彼が好きになっていた。
「でも実際話してみたら面倒くさがりだし、言動も乱暴だったしでもう最悪」
「それヒイロ様の前では?」
「言った言った。何度も面倒って言うなー!って。ほら、その時は王子だとは思ってなかったから」
嘘。本当は知っていたけど言うのは止められなかった。
それくらい失望していたのだ。
「それで、どうしたんですの?」
「一人で敵につっこんだ」
「え?!どうして?」
私はカノンの町で敵襲に遭ったことを教える。
それで納得してくれたようで続きを促された。
「数が多くて駄目かな?って思ったんだけどヒイロは来てくれた」
今でもあの時のことは思いだせる。
ガーゴイルを二匹一刀両断にした彼の背中はかっこよかった。
ここで私はヒイロに惚れ直したんだと思う。
「だからさ、面倒くさがりでもダメな所があっても私はヒイロが好きなんだなぁって思うわけ」
「そう……あら、二人はお付き合いされているんですよね?」
「え?!してないよ?!」
「だって言いましたよね?『キスした仲』だって」
あ。あー。言ったな。
私は自分の発言に過去の自分を殴りたくなった。
「あれは、誤解させるように言ったけど儀式のために『額』にキスをしたって意味だから!」
「まぁ!そうだったんですのね」
「なんか騙してごめんね」
「いいのです。気にしていませんわ」
ですが、とエリザは言葉を続ける。
「今後もヒイロ様をお慕いしつづける以上それなりの教養を身に着ける必要はありますわよ」
「う。そ、そうだよね」
なんだってヒイロは第二王子だ。
万が一付き合うことが出来た場合教養が無いと彼の格を落としかねない。
「私にできることはお力になりますわ」
「あ、ありがとう……」
エリザと友達になれて本当に良かったと思う。
「話がまとまったところですし今日はもう寝ましょう?」
「うん。そうだね」
そう言って私はランプの灯りを消した。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
*********
翌朝、私達は再び馬車に揺られていた。
「ふわぁ……」
「どうした?夜更かしでもしたのか?」
「な、なんでもない!」
眠りが浅かったのか思わずあくびをしてしまった。
こうも何もないと馬車の中は暇なのだ。
そんな事を考えていたのがいけなかったのか
「ヒイロ様!モンスターです!」
御者台にいるユウトが叫ぶ。
途端に腰を浮かせるヒイロ。
「数は?!」
「二匹です!ですが様子がおかしくて……」
ユウトの歯切れが悪い。
「何だ?」
「モンスターがモンスターに追われているように見えるのです」
「は?!」
馬車の外を見れば確かに遠めに二匹のモンスターがいるのが見える。
小さめの飛行モンスターが大きなトカゲ型のモンスターに追いかけられているのだ。
「あれは……!」
同じように馬車の外を見ていたエリザが声を上げた。
「お願いします!小さい方のモンスターを助けてあげてください!」
「え?!」
エリザの言葉に驚いた。
まさかモンスターを助けると言い出すなんて。
予想外だった。
「とにかく行くぞ!」
停車させた馬車からヒイロが飛び出す。
私たちも続いて外に出た。
すると小さいモンスターがエリザを見た気がする。
「クルト!」
そう呼ぶと小さいモンスターは一鳴きしてこちらへ飛び込んで来た。
ふわりとエリザの腕の中へ収まる。
大きなトカゲ型モンスターのほうはヒイロとユウトの二人で対処した。
「エリザ、その子は?」
私が問いかけるとエリザの腕の中にいたモンスターがヒョコリと私を見る。
どう見ても小さいドラゴン系なんですが。
「この子は翠色の勇者様の子孫である彼の家族ですわ」
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