第12話 出発と金色の勇者

旅の準備も終わり、出発の日の朝が来た。

「あーっやっと出発できるな!」

今まで城を開けていた分の仕事を執務室に缶詰めになりながら終わらせたヒイロが言う。

「これに懲りたら定期的に戻ってくることをお勧めしますよ」

「うっ……書類仕事苦手なんだよなぁ」

仮にも第二王子、それなりに仕事は割り振られているのだ。

書類仕事をしないために長旅をしているような気がする。

「ま、がんばれ」

「お前は仕事が無くていいよなぁ」

「私には聖女という仕事がありますし」

「二人とも、それくらいにして馬車に乗りこんで下さい」

ユウトに言われて私たちは馬車に乗りこんだ。

中にはすでに旅装のエリザが待っていた。

「遅いですわよ」

「ごめんごめん」

謝ると全くとため息をつく。

「じゃあ出発しますね」

そう言ってユウトは御者席のほうへ回る。

今回はユウトが御者役を買って出てくれたのだ。

ゆっくりとしかし確実に馬車が動きだす。


「ねぇ、今回行くマードレ公爵領ってどんな所なの?」

「そうですわね。特産品は上質なブドウで作ったワインと公爵領でしか取れない花で作った香水かしら」

「ワインと香水」

嗜好品が特産品か。

高そう。

「向こうについたらさらに詳しくご紹介させていただきますわね」

「うん、ありがとう」

「特産品の他には湖が近くにあって涼しいことから貴族の避暑地としても有名ですわ」

「避暑地!」

ものすごくセレブな感じがする。

「ちなみに今回泊まるのは王家の別荘になるぞ」

「おぉ、楽しみ!」

「遊びに行くんじゃないんだぞ……?」

念を押すように言われる。

「遊び、になってしまうかもしれませんが今の時期は豊穣祭でとても賑わっているんですよ」

エリザが助け舟を出してくれる。

「そうか、そんな時期か」

「豊穣祭?」

私が言うと、え知らないの?見たいな顔で見られた。

「名前の通りその年の豊穣を祝うものですわ。出店もいっぱい出ていますし一度見ていかれてはどうかしら?」

優しいエリザは一から説明してくれたうえ遊びに行くきっかけもくれる。

本当出来た娘である。

「だから遊びにいくんじゃないって言ってるだろ」

エリザの良い子っぷりに感激していると釘を刺された。

この王子ガードが固すぎる。



********




日が暮れる頃、宿場町についた。

馬車は一番いい所だと思われる宿につけられる。

さすが王族、お金持っているぜ。なんて思う。

部屋は男女2:2で別れることになった。

さすがに一人一部屋は用意できなかったようだ。

私はエリザを先にシャワーに行かせる。

そして部屋の窓を開けた。


「……いるんでしょ?」


私の声に反応して窓の縁に金色の勇者が降り立った。

「よくわかったね」

驚いたように言う。

まぁ私も完全に分かっていたわけじゃない。

これもゲームの知識のおかげだ。

ゲームの時はここで好感度を上げるイベントが発生していた。

「でもいいの?同室の女の子が戻ってくるんじゃない?」

「彼女の事なら大丈夫」

女の子のお風呂は長いと決まっているので問題ない。

そう言えば金色の勇者は窓の縁に腰掛ける。

「俺はリンド、見ての通り魔族だよ。聖女サマの名前は?」

「私はさくら。ずっときになっていたんだけどカノンの町で出会った時何をしていたの?」

「んー、人間観察?俺の趣味みたいなもんだよ。それも君の力のおかげでバレちゃったけど」

「なんかごめんね」

私が不用意にぶつかったりしなければバレて逃げることもなかったのに。

ていうかこういう所でもキャラの違いが見える。

もっと俺様!ってキャラでこんなチャラい話し方をしないし人間観察をするような感じじゃない。

「いいよ。聖女っていう面白いものを見られたから」

そう言ってリンドは私の方へ手を伸ばす。


「ねぇ、俺と一緒に魔王を倒して欲しいって言ったら信じる?」


それはまるで懇願のように聞こえた。

だから私はその手を掴んだ。

「信じるよ」

リンドは驚いたように私の手を弾いた。

手を掴まれるとは思ってなかったのだろう。

「魔族を信じるとは、聖女サマは随分変わっているようだ」

「聖女サマじゃなくてさくらだから」

「……さくら」

「今私の眼の前に現れたのは意味があるんでしょ?力を測り終わったとか」

恐らく闘技場でモンスターが暴れたのはリンドの仕業なんじゃないかと思っている。

そう言うと諦めたようにハッと笑った。

「何もかもお見通しってわけか」

「なにもかもじゃないよ」

私にだってわからないことはある。

「あんたを聖女だと認める。だから頼む、残りの勇者を早く見つけてくれ」

「それはもちろん見つけるよ」

リンドが窓の縁に立ちあがった。

羽を広げて羽ばたく。

「早くだ。手遅れになる前に……」

「手遅れってどういう……?!」

全てを聞く前にリンドは飛び去ってしまった。

「……ティア、リンドとの好感度は?」

「一定値まではまだですね!」

「そっか……」

リンドとのイベントはこれで終わりではない。

好感度をあげるのならまだ間に合う。

だが手遅れになるとは一体どういうことなんだろう。


「さくら、シャワー空きましたわよ」


思考を遮るようにエリザがシャワーから出てきた。

「さむい……窓を開けていましたの?」

「ごめんごめん考え事をしていたんだよ」

そう言って窓を閉める。

「もう、考え事はいいですが早くシャワーに入って頂戴な」

「はいはい」


私は準備をしてシャワー室に向かうのだった。


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