第11話 蒼色の勇者
来た。
ようやくユウトの好感度が一定値を超えたらしい。
ティアの言葉を聞いて私はすぐにユウトを見た。
「ユウト!しゃがんで!!」
「え?えぇ?!」
「早く!」
「は、はいぃ!」
勢いに押されたのか素早くしゃがんでくれたユウトの前に立つ。
「聖女さくらの名において、ユウト・ハイランドを蒼色の勇者に任命する」
早口で祝詞を唱えてユウトの額に口付ける。
すると前のように聖女の力が体から溢れ出して周囲のモンスターを浄化していく。
魔を払う力の威力は絶大だった。
額から唇を離すと静かな意志が胸に灯る。
「ぼ、僕が蒼色の勇者だなんて……」
立ち上がったユウト言う。
「おい、無事か?!」
モンスターがいなくなったのを確認してヒイロが駆け寄ってくる。
「ひ、ヒイロ様!ぼぼぼ僕が勇者に……!」
「あぁ、見ていたから知ってる」
そう言ってヒイロは私を見た。
「結局静かな心ってなんだったんだ?」
「さぁ?冷静さ、とかじゃない?」
「ユウトが?」
その言葉に私は頷く。
私達を逃がそうとしてくれた時のユウトは勇者に相応しく見えた。
あの時だけはいつものチワワではなかったのだ。
「あの、聖女様……」
会話を遮るように声をかけてきたのはエリザベート嬢である。
しかし彼女の様子が先ほどと違う。
両手を祈るように胸の前で組み、困ったような表情で私を見ていた。
「先ほどは助けていただきありがとうございました……」
「え、あ、うん」
様子が違いすぎて別人かと思った。
「私が聖女様に勝とうなんて思う事自体がおかしかったのですわ」
「ど、どうしたの?」
「どうしたも、私は負けたのですから謝罪をするのは同然のことです」
「謝罪?」
戦って勝ったんだからそれでいいんじゃないのか。
という私の考えを他所にエリザベート嬢は謝罪の礼をする。
「数々の無礼、申し訳ありませんでした」
「えと、あの……」
謝ってもらうつもりは無かったのでどうしたものかと困惑した。
そんな私に助け船を出すようにヒイロが言う。
「俺たちは聖女と勇者として魔王を討伐しにいかなければならない。無事に戻れるかも分からない以上婚約の事は忘れてくれ」
「……はい」
諦めたように返事をする。
だが私は見た。
ヒイロがこっそりガッツボーズを決める所を。
本当残念王子様だよ。
私は呆れてため息をついた。
「でも、どうして突然モンスターが出てきたんだろう」
私の疑問にヒイロも首を傾げる。
「それが原因が分からないんだ」
「原因不明?」
「あぁ、いつの間にか檻の鍵が開いていたらしい」
このタイミングで檻の鍵が開いていた?
偶然じゃない何かを感じる。
「この件については騎士団に調査をさせる。危険にさらしてすまなかった」
「ヒイロのせいじゃないなら謝らないでいいよ。皆無事だったし」
それもこれもタイミング良く好感度が上がってくれたユウトのおかげだ。
好感度の一定値ってどれくらいなんだろう?
友達くらいかな?今度ティアにこっそり聞いてみよう。
「じゃあ決闘はお開きってことでいいのかな?」
「あぁ、事前に結果は決まっていたしな。王も避難する前に勝者はお前だって言ってたよ」
「そっか」
これでヒイロがらみの問題は落ち着くだろう。
ゲームの通りなら、だが。
「丁度良く蒼色の勇者も見つかったし、次は翠色の勇者を探さないとね!」
「そうだな順番で言えば次は翠色の勇者か」
金色の勇者はアレだし、最後に仲間になる予定だ。
「あの、翠色の勇者様に相応しい方に心当たりがありますの」
エリザベート嬢がおずおずと言いだす。
ヒイロがそれに喰いついた。
「本当か?それは誰だ?」
「わ、私のお父様が治める領地に緑深き森という場所がありまして、そこに住むエルフ族の青年が翠色の勇者様の子孫らしいのです」
「勇者の子孫か!当たってみるにはいいかもしれないな」
私はまさかこんなに早く翠色の勇者の情報が出てくるとは思わなかったので驚いた。
ゲームの時は探し回って孤児院を訪ねたところ、院長が子孫の存在を知っていたというシナリオだ。
こう何度もシナリオとズレがあると私の知識が役に立たない。
ちょっとこれからが不安である。
「じゃあ次の目的地はマードレ公爵領になりますね」
「あの、どうか私に領地の案内を任せていただけないでしょうか?」
「いいの?ありがとう!エリザベート嬢!」
願ってもいない提案に私は彼女の手を握った。
ゲームの知識が信用できないかぎり、現地の人の意見は重要だ。
手を握られたエリザベート嬢はどこか照れくさそうに頰を赤らめる。
「わ、私のことはエリザと呼んで下さいまし!」
「わかったよ、よろしくエリザ!」
あだ名呼びの権利ゲットだやったぜ。
私が名前を呼ぶとエリザは嬉しそうに微笑んだ。
ユウトが勇者に選ばれたことはすぐに王様に報告した。
ついでに次の目的地のことを話したら少なくない路銀を貰う。
エリザが付いていくなら馬車を使っていくように指示をされる。
まぁお嬢様を歩かせるわけには行かないだろう。
こうして私たちはマードレ公爵領を目指す事になった。
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