第10話 決闘
勝負の内容はシナリオ通り決闘に決まった。
なんでヒイロに相応しいかどうかが決闘に繋がるのか不思議だが推しのためだし頑張る事にする。
「エリザベート嬢について教えてよ」
そう言うとヒイロは気まずそうに鼻の頭をかいた。
「あー、幼馴染ってやつだ」
「もっと言うと許嫁ですね」
「元、だがな」
幼い頃に親同士が決めた事で、ヒイロにそのつもりは全くなかったとのこと。
「でもあんな可愛い子に好かれて嫌な気分ではないでしょ?」
「うーん、なぜか昔から苦手でな……胸は好みだが」
「ヒイロ様……」
「うわサイテー」
「なんでだ?!」
一言多い所です。
なんて会話があったりした。
決闘は城下にある闘技場で行われることになった。
闘技場だからか観客が結構いる。
エリザベート嬢はいつもとは違う動きやすい衣装に縦ロールをポニテにして来た。
私はいつも通りのローブを着用している。
対戦は木剣で行い、相手が気絶するか負けを認めるまで続く。
殺し合いではないので若干気が楽だ。
「私の方がヒイロ様に相応しいと認めさせますわ!」
普通は学力とか女子力を競うものなんじゃないだろうか?
とは思うけど口には出さない。
「私も簡単には負けられないんだよ」
むしろどうやったら負けられるのか。
剣聖スキルまじチート。
エリザベート嬢が木剣を構える。
審判はユウトだ。
「では、始め!」
「やぁああ!」
突きの姿勢で突っ込んできたエリザベート嬢を半歩身を引いて避ける。
続いて振りかぶられた木剣を手に持った木剣で軽く受け流す。
カン!カン!
と木剣がぶつかり合うたびに音を立てる。
「逃げてばかりではなく打ち返してきなさいな!」
苛立ったようにエリザベート嬢が叫ぶ。
でも打ち返したら怪我させそうだしなぁと悩んでいると更に攻撃が強くなった。
********
「なにやら面白い事をしているな。丁度いい、あいつらに行かせるか」
遠くから様子を見ていた金色の勇者ことリンドは面白いことを思いついたと笑みを浮かべるのだった。
********
「貴方のような腰抜けが聖女だなんて笑わせないでくれる?私の方がよっぽど聖女らしいわ!」
攻撃を避けるか受け流すことに集中していたら調子に乗ったエリザベート嬢が言ってくる。
これには流石にカチンときた。
「じゃあ行きます」
「えっ」
エリザベート嬢の反応速度より早く一歩距離を詰めると木剣を弾き飛ばす。
なにが起きたのか分からない彼女は信じられない表情で私を見ている。
「もう一度やるならそれでも良いけど?」
レベルカンストの剣聖に普通の令嬢が勝てるわけないでしょう?
「っ!」
カッとなったのか彼女は素手を振り上げた。
「そ、そこまで!!勝者さくら!!」
ユウトの声がして、手がピタリと止まる。
観客が歓声を上げた。
それを聞いてエリザベート嬢はストンとその場に座りこむ。
「そんな、私が……負けた……」
呆然と呟く。
なんで聖女に勝てると思ったんだろう?
恋する乙女って怖い。
流石に座りっぱなしを放っておけなくて手を差し出そうとした時だった。
ゴゴゴと重い音を立てて闘技場のゲートが開く。
そこからゾロゾロとモンスターが溢れ出してくる。
途端に悲鳴を上げて逃げていく観客たち。
「な、なぜモンスターが……!」
「早く立って!」
私はエリザベート嬢の腕を掴んで強制的に立ち上がらせた。
エリザベート嬢はモンスターを見て震えている。
剣の腕前はあっても実戦は初めてのようだ。
彼女の武器は私が弾き飛ばしてしまったので私の木剣を持たせる。
「ちょっと、あなたの武器は……!」
「問題ないから」
木剣を返して来ようとするエリザベート嬢に私は魔法剣を召喚してみせた。
するとそれに驚きながらも納得してくれたのか木剣を構える。
まぁ戦わせるつもりは無いんですが。
私はユウトと二人で彼女を守るように立つ。
ユウトは魔法があるから戦力になる。
「やぁ!」
近づいてきたモンスターから叩き斬っていく。
モンスターも本能的に危険だと感じているのかじりじりと遠巻きにこちらを見ている。
「数が多い……」
闘技場とはいえ城下町によくこれだけのモンスターを集めたな。
外周でヒイロや騎士団が戦っているのが分かった。
「さくらさん、僕が道を作ります。なのでエリザベート様を連れて逃げてください」
「ゆ、ユウト何を言っているのです!」
「ん、了解」
「あなた?!」
エリザベート嬢が騒ぐ。
それを無視してユウトは大技を放った。
大きな水流が一部のモンスターを流していく。
そこに大きな隙が出来た。
すかさずエリザベート嬢の腕を掴んで走らせる。
が私は彼女が騎士に保護されたのを見届けて踵を返した。
「ちょっとあなた?!」
エリザベート嬢の声を背中にまだ少ないモンスターの壁を突破する。
「さ、さくらさん?!」
戻ってきた私を見てユウトが驚いた声を上げた。
「ユウトだけ残しておけないじゃない?」
「全く……しょうがない人ですね」
そう言ってユウトが笑った時だった。
「好感度が一定値を超えました!今こそ加護を与える時です!」
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