第9話 晩餐会
その日の夜はヒイロの帰還を祝して晩餐会が開かれた。
もちろん私も聖女をお披露目するということでドレス着用で参加です。
ユウトの話ではエリザベート嬢もいるらしい。
私たちはお披露目と挨拶は早々に終わらせてユウトが確保してくれたテーブルについている。
「お前は踊らないのか?」
「踊れませんしー」
女の子が皆ダンス出来ると思ったら大間違いやぞ。
それにどこぞのご令嬢たちの視線が痛い。
いくら聖女として紹介されたとはいえポッと出の女が王子様と次期宰相候補様を独り占めにしているのだ。
多少の嫉妬はあるだろう。
気まずい雰囲気を私は少しづつ盛られた料理を食べながら時間をやり過ごしている。
料理はさすがお城といったレベルのもので美味しいものが一杯あった。
でもさすがに何時間も経つとお手洗いに行きたくなるもので……
立ちあがった私にヒイロがついてこようとする。
「お手洗いに行くんだけど?」
「す、すまん!」
行き先を告げると素直に謝ってきた。
「場所は」
「大丈夫、来る途中で見つけたから」
道案内を買って出ようとしてくれたユウトに私は一言お礼を言ってその場を離れた。
ドレスに苦戦しながらなんとかお手洗いで用事を済ませて出てくるとテンプレよろしくご令嬢たちに囲まれる。
この展開をちょっと予想していただけに笑わないようにするのが大変だった。
「あなた、聖女だからって調子に乗らないでいただけます?」
「そうよそうよ、ヒイロ様たちとずっと一緒にいるなんてちょっとおかしいんじゃないかしら?」
「いつもなら分け隔てなくダンスを踊ってくださるのに!」
それをヒイロが面倒くさがって私という盾を使っているだけでは……なんて思ったりする。
基本熱血だが面倒くさがりなのはこれまでの旅でよくわかった。
だが普段交流のないご令嬢たちにはそれを知る機会がない。
だからお優しい王子様が晩餐会に慣れない私を気遣って傍にいるように感じているのだろう。
本当はそんなことないんだけど。
「黙ってないで何か言ったらどうなの!」
「一応私聖女なんですけどこういう数人で囲むなんてことして大丈夫なんですか?」
「なっ?!」
「きぃー!なんて生意気な口をきくのかしら!」
一応聖女としてそれなりの地位を王様がくれた私にそんな事言って大丈夫なんだろうか。
逆に心配になる。
「ぽっとでのくせに生意気なのよ!ヒイロ様から離れて頂戴!」
おっと本音が出ましたね。
一人の令嬢が私に向かって手を振りあげる。
剣聖のスキルのおかげで余裕で避けられるが受けてあげるべきだろうか。
と少し悩んだ瞬間
「何をしているんですか?」
「あっ」
「ユ、ユウト様!これは……」
ユウトが現れて令嬢の手は私に当たる前に止まった。
「その手はなんですか?彼女が聖女と知っての行為ですか?」
「っ」
ご令嬢たちは何も言わずにばたばたと逃げていく。
「ユウト、ありがとう」
「いえ、それよりも戻りが遅いのでヒイロ様が痺れを切らせてますよ」
「まじか」
私はユウトの後ろについて道を戻る。
「えぇ、昔から待てができないんですよねぇ」
「え、なにそれヒイロの昔の話聞きたい」
「本人にバレたら不機嫌になるので内緒です」
「ちぇー」
会場に戻ると案の定不機嫌そうなヒイロに遅いと怒られた。
私のせいじゃないのに解せぬ。
でも私もユウトもご令嬢たちの事は黙っていた。
下手に騒ぎを起こしたくないからだ。
決して彼女たちの為じゃない。
私はそこまで優しくない。
だが面倒ごとと言うのは向こうからやって来るもので
「ヒイロ様ぁ」
「げ、エリザベート嬢……」
空気を読まないエリザベート嬢がやってくる。
「一曲踊ってくださいまし」
「いや、俺は聖女殿の接待で忙しいんだ」
おっとこやつ私のせいにしましたよ。
あとで覚えてろ。
エリザベート嬢は私を睨みつける。
「そんなもの、ユウトに任せておけばいいのですわ」
「それは出来ない、彼女は#特別__・__#だからな」
特別の言い方が普通と違って聞こえてドキッとした。
「特別、ですって?」
カツカツとヒール音をさせて私の前に立ったエリザベート嬢はビシッと指を突き付けて
「どちらがヒイロ様に相応しいか勝負ですわ!」
と言い放った。
「えぇー」
どうしたものかとヒイロを見ればウンウン頷いている。
いや止めろよ。
ここは止める場面でしょう?
ユウトもオロオロしてないで何とかして欲しい。
こんな所で元婚約者との勝負イベントに突入とか私嫌だよ。
確か元婚約者とのイベント内容は決闘だった筈だ。
ゲームの時はレベルを上げて挑んだけど現在のレベルはカンストしてるし剣聖のスキルもある。
完全に弱い者イジメになってしまう。
「話は聞かせてもらった」
遠巻きにこちらを見ていた人混みが割れて現れたのは王様と側近たちだった。
「この勝負、私が預かろう」
えぇー……
てっきり止めてくれると思っていた私はガックリと肩を落とす。
「詳しい内容と日時は追って知らせる。今日のところは解散せよ」
「は、はい……」
流石のエリザベート嬢も王様に言われれば下がるしかなかった。
王様は私の方を見ると静かに微笑んだ。
あ、これは何か企んでると思わせる笑みだった。
「ではな」
そう言って王様は戻っていく。
「ほらな大変なことになった」
「ヒイロは後で一回殴らせて」
「なんでだ?!」
私のせいにした罪は重いのだ。
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