第8話 聖女伝説


謁見の間は重苦しい雰囲気に包まれていた。

それもそのはず、いかつい顔をした王様が玉座に座っているからだ。

私達は玉座の前に跪く。


「ヒイロよ、よくぞ戻った。表を上げてよいぞ」

「ハッ」

「ユウトもご苦労だった」

「はい!」

「して、此度はどのような要件があって謁見に臨んだのだ?」

「その前に彼女を紹介させて下さい。彼女は#聖女__・__#です」

ヒイロの言葉に謁見の間がざわつく。

視線が私に集中する。

「ほぅ伝説の……」

「はい。本物であることはステータスを見て確認しています」


「なんと、では本当に聖女様が……」

ざわめきが大きくなった。

しかし王様がゴホンと咳払いをして静かになる。


「娘よ、ステータスを確認させてもらえるか?」

「は、はい!」

ステータス画面を浮かび上がらせると大臣の一人と思われる人が確認に近づいてくる。

「おぉ、本当に聖女様ですぞ!」

「そうか。しまってよいぞ」

「はい」

「しかも高レベルなうえに剣聖ですじゃ」

「なんと、剣聖だと?」

「はい……」


「王よ、私は緋色の勇者に任命されました」

会話の流れを切るようにヒイロが言った。

またざわざわしてくる。

「聖女よ、それは本当か?」

「はい本当です」

「ヒイロを王子と知っての事か」

その言葉に私は首を横に振った。

「王よ、その時私はまだ素性を明かしていませんでした」

ヒイロが助け船を出してくれる。

「そうか……お前はそれでいいのか?」

「いいもなにも、選ばれたからにはその使命を全うするまでです」

そう言いきったヒイロは私たちを立ち上がらせた。

「これからは残りの勇者を探していこうと思います」

「良かろう。私が許可できることは全て許可しよう」

「ありがとうございます」

ヒイロが一礼したので慌ててそれに倣う。

「行くぞ」

背中を押されて謁見の間を退場する。


「はぁ、緊張したぁー」

ユウトが肩で息をする。

「お前は緊張しすぎなんだよ」

「王様すごい渋かっこよかったね!」

「お前は逆にもっと緊張しろ!」

緊張感なさ過ぎて怒られた。

でもヒイロが歳をとったら王様みたいになるんだろうなぁってくらい似てたし。

「で、これからどうするの?」

「言っただろ、他の勇者を探すんだよ」

まぁ目の前に一人いるわけだけれど。

流石に言えないので黙っている。

「どうやって探すつもり?」

「あー、まずは聖女伝説から手掛かりを探してみようかと思ってる」

「聖女伝説?」

そういえばさっきも伝説だなんだって言ってたような。

私の言葉に二人は驚いたようにこちらを見る。

「お前聖女なのに聖女伝説知らねーの?!」

「知らないものは知らないでーす」

ゲームでもそんな話は無かった。

なら知らないのはしょうがないと思う。

私の知識はゲームありきなのです。

「はぁ、まずは図書館だな」


ため息をつきながらも図書館まで連れて行ってくれた。



********



「おぉ、本がいっぱいある……」

「図書館なんだから当たり前だ」

そう言うとヒイロはツカツカと早足で歩き出す。

どうやら目的のものがどこにあるか分かっているようだ。

何列目かで立ち止まる。

「あった。これだ」

そう言って取り出したのは古い装丁の本だった。

私達は来た道を戻り読書スペースに腰掛ける。

ヒイロが本をめくった。


聖女伝説とは、はるか昔にも魔王が暴れて困った時があったらしい。

その時聖女を名乗る女の子が現れて四人の勇者と力を合わせて魔王を退治した。

という聖女大戦と同じ流れの話だった。

そして勇者については

緋色の勇者は熱き想いを抱えた戦士

蒼色の勇者は静かな心を持つ術士

翠色の勇者は優しき想いの体現者

金色の勇者は力を憂いし英雄

と書かれていた。

「次は蒼色の勇者だな」

ヒイロの言葉にユウトがそうだとは言えなかった。

任命するにはまだ好感度が足りていないのだ。

「静かな心は分かりませんが術士なら魔法使いの研究所へ行ってみてはどうでしょう?」

「そうだな、さくらもいいか?」

「え、うん。大丈夫」

私達は本を戻して魔法使いの研究所に行くことにする。


結果を言うと無駄足だった。

当たり前だよね。

ティアも反応しないし。

「静かな心ねぇ……」

「分かりませんねぇ」

二人して物思いにふけっている。


「ヒイロ様ぁ!」

「げっ」

突然聞こえてきた声にヒイロが嫌そうな表情をする。

あぁそういえばこんなイベントもあったな。

遠くから駆け足でやって来るのは金髪を縦ロールツインテにしたご令嬢だった。

彼女は走ってくる勢いのままヒイロに抱きつく。

その姿に少しモヤっとする。

「エリザベート嬢……離れてくれないだろうか」

「嫌ですわ!久しぶりの再会ですのに!」

彼女はエリザベート・マードレ公爵令嬢。

マードレ公爵家の一人娘でありヒイロの元婚約者だ。

「それに前みたいにエリザって呼んでくださらないの?」

「前と今では状況が違うだろう?」

「でも!ヒイロ様からお父様に言ってくださればきっと元に戻れますわ!」

「俺にそのつもりはない」

そう言ってエリザベート嬢を引き剥がす。

確か旅に出ることを理由にヒイロから婚約を解消したんだったかな。

「どうして……!」

ふと、エリザベート嬢と目が合った。

途端に彼女は恐ろしい形相で詰め寄ってくる。

「あなた!このお方とどう言ったご関係かしら?このお方が誰か分かって側にいるの?」

「どう言った関係ねぇ……キスした仲?」

「おま?!それは!!」

ちょっとした意地悪のつもりで誤解しやすいように言った。

視界の端でユウトがあちゃーって顔をしている。

「なななななんですって?!」

ふらりとよろめくと彼女はそのまま気を失った。

もちろん倒れる前にユウトが受け止めてあげてる。

「お前なぁ……」

「いやぁ、なんとなく?」

「まぁ助かったからいいけど、これから大変だぞ?」

呆れた様にヒイロは言う。

それに私は首を傾げて返した。


「魔王討伐以上に大変な事ってある?」


返ってきたのは笑いだった。

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