第6話 氷の貴公子

二人が戻らず夜になった。

何かあったのだろうか。

不安になる。

馬車の横に焚き火を焚いて私たちは二人の帰りを待つ。

「さくらおねぇちゃん……おにいちゃんたちだいじょうぶかなぁ」

私の不安を代弁するかのようにチエちゃんが言った。

「私が無茶なお願いをしたから……」

ナナさんが申し訳なさそうに目を伏せる。

私は首を横に振った。

「行くと決めたのはあの二人ですから……気にしないでください」

周囲の闇に感覚が研ぎ澄まされて不安を煽る。

だが私がそれを顔に出したら二人が余計気に病んでしまうからできなかった。


ガサガサと近くの草むらが音を立てる。

音にも敏感になっているのか二人がびくりと体を揺らす。

私は安心させるように剣を手に取った。

きっと風か何かだろう。

「聖女様!」

「っ?!」

ティアが叫ぶと同時に草むらから風をきって何かが飛来する。

なんとかそれを避けて体勢を立て直す。

「何が……?!」

地面に刺さったそれを見るとぼろぼろな弓矢だった。

急な敵襲にチエちゃんとナナさんが震えている。

「誰だ!出てこい!!」

私の声に応えるように草むらからゾロゾロと男が五人現れた。

全員傷だらけでギラギラとした目で私たちを見ている。

「素人の女かと思ったら妖精付きかよ」

「頭、女ばかりで良い値がつきますぜ」

「それもそうか」

男はギャハハと汚い笑い声を響かせた。

私はというと、剣を構えているが手が震えていた。

まさかこんな状況で襲われるとは思ってなかったのだ。

なんとか二人をかばうように立ち塞がる。

たが、もし対人戦闘が出来たとしても大人の男5人を相手にできるとは思えない。

「さくらおねぇちゃん……」

「いいから、二人は馬車の中へ……隙が出来たら逃げて」

相手には馬持ちがいないので馬車で走り出せば逃げ切れるはずだ。

「でも……」

「おいおい、逃すと思ってんのか?」

「動かないで!」

剣で牽制するが効果が無い。

怖い。

どうしよう。

「震えてるぜ、お嬢ちゃん?」

男が振るう剣に持っていた剣が弾かれて飛んでいく。

「あっ?!」

弾かれた痛みで涙が滲んだ。

私が、私が二人を守らないと。

再度魔法剣を召喚して構える。

「ほぅ、魔法剣使いか……値が上がるねぇ」

「うるさい!」

おっさんに値踏みされても嬉しく無い、と無理矢理心を奮い立たせる。

「ちょっとくらい傷つけたって買い手はいくらでもいるんだぜ?」

そう言って男が斬りかかってきた。

一撃、二撃と防ぐが完璧に力負けしている。

剣聖のスキルを持ってしてもじりじりと後退させられていく。

「どうした?やり返してこないと負けるぜぇ!」

「っ!!」

再び剣が弾き飛ばされる。

今度は男の剣が私の無防備になった体へと


「危ない!!」


剣が当たる直前、何かに剣が弾かれた。

勢い余って男が後ずさる。

男たちも私も何が起きたのか分からずにいた。

「ぎゃあ?!」

男の一人が悲鳴を上げて倒れる。

「な、なんだ?!」


「女性に手をあげる行為、許せませんねぇ」


そう言って草むらのほうから現れたのはユウトだった。

彼はいつもみたいなチワワとは違った冷たい雰囲気をさせている。

もしかして、怒ってる?


「もう追いついてきやがったのか……!!」

「えぇ、囮役はもっと強い方にしたほうがいいですよ?」

「がああ?!」

また一人、氷の槍のようなものに貫かれて倒れた。

今のユウトの様子はまさに聖女大戦の氷の貴公子、蒼色の勇者ユウト・ハイランドそのものだ。

「くそっ!」

「おっと逃がさないぜ?」

すぐさま逃げ出そうとした頭と呼ばれた男を現れたヒイロが地面に転がした。

その表情から彼も怒っているのが分かる。

「ったく、手間かけさせんじゃねーよ」

二人が無事でいてくれたことに私は安堵した。

「ヒイロ、無事だったんだね……」

「あー、まぁ色々あってな……悪かった。大丈夫か?」

「……うん」

残った二人の男は泣きながら投降したのでヒイロが縛り上げて馬車に詰め込んだ。


話を聞くと二人は盗賊のアジトまで乗り込んだらしい。

だが予想以上に数が多く、頭を取り逃がして囮役を急いで倒してこちらに向かっていたということだ。

で、私がやられそうになっているのを見たユウトがキレたと。


「ユウトだけはキレさせないほうがいいぞ。俺真冬に顔以外凍らされて涙流して謝った事あるし」

「えぇ……」

王子としてそれはどうなんだろう。

「あれはヒイロ様が勉学をサボって外で遊びたがったからですよ」

「あ、ユウト」

落ち着いたらしいユウトが会話に参加してくる。

「あいつらは村まで連れて行って村人に引き渡しましょう。どういう罰が下されるにしても、迷惑をかけられた村人たちが決めるのがいいですから」

「そっか……」

男たちに全く情けを感じていないからその処罰の方法が妥当なのかよく分からない。

でもユウトが言うならそれがいいんだろう。と納得する。

「あの、この度は本当にありがとうございました」

「ありがとー!」

ナナさんとチエちゃんが言った。

するとヒイロとユウトは微笑んでチエちゃんの頭を撫でた。

ちょっと今の笑顔スクリーンショット撮って!

素敵笑顔すぎるでしょ……。

私はカメラがない事を後悔した。

おのれ女神。


その後朝になるのを待ってから二人と男たちを村に送り届けた。

見送りの際チエちゃんには泣かれてしまったが私達は昼前には村から出発したのだった。

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