第5話 王都へ
ガーゴイルを一掃した私たちはギルドで報酬を貰い、その足で私が泊まる宿に来ていた。
内密な話なので部屋の中に入って貰う。
「で、聖女ってどういう事なんだよ」
一つしかない椅子を陣取るや問いかけてきたのはヒイロだ。
蒼色の勇者は床に座るわけにもいかないので立っている。
私はベッドに腰掛けた。
「どういうもなにも、私は聖女。それしか言えないわよ」
証明するためにステータス画面を呼び出して二人に見せる。
するとギョッとした表情で画面を見つめた。
「嘘だろ、レベル99ってバケモンかよ……」
「それより見て下さい。剣聖ですよ剣聖!僕女性で剣聖持ちは初めて見ました!」
「ちっがうでしょ?!見るのはそこじゃなくて職業欄でしょ?!」
思わずツッコミを入れてしまったが私は悪くない。
「「本当に聖女だ……」」
意外そうに呟く二人に私は拳を握る。
「本当にって何よ、儀式受けときながら疑ってたの?!」
「確かに口付けを受けた時力が湧いてきた……だが美女じゃない」
「だから夢見てんじゃないわよ!」
どんだけ聖女は美女だと思い込んで過ごしてきたのか。
「だけどヒイロ様が緋色の勇者だなんて……王様にどう報告すれば……」
「ん?そのまんまでいいじゃねーか。緋色の勇者に選ばれたので魔王を倒しに行きます。で」
「それじゃ駄目だから悩んでるんですよぉ!」
蒼色の勇者が困ったように叫んだ。
なぜならヒイロ・レスタルヴァはこのレスタルヴァ王国の第二王子だからだ。
言動はそれらしくないけど本当に王子様なんです。
王子である彼は王太子では無いにしてもそれなりに権力を持っている。
そんな彼が魔王討伐の勇者に選ばれたとなると第一王子との間に権力の差が生まれてしまう。それは彼としても避けたい問題のはずだ。
「うーん……何て言うかねぇ……」
「ていうかヒイロは王様になりたいの?」
「いや別に、面倒だし兄貴がやってくれればいい」
「じゃあそう言えばいいじゃない」
私の言葉にヒイロは困ったような表情になる。
「そう簡単な問題じゃ……いや、そうだな。それがいいか」
「ヒイロ様?!」
「ユウト、これはいい機会なんだ。これでついてこれないというなら城に残ってもいいぞ」
と蒼色の勇者に言う。
まぁ彼も勇者なんで連れて行くことになるんですけどね。
「う、ヒイロ様ぁ……」
「というわけだ。お前にも一緒に来てもらうぞ」
「どういうわけよ……まぁ、行くけど」
運が良ければ隠しキャラの第一王子が見れるかもしれない。
ちょっと楽しみだ。
「じゃあ明日の朝に迎えに来る」
「わかったわ」
私の返事を聞いて二人は帰っていった。
「さて、と……色々準備しなきゃね」
王都までの旅に必要なものを買いに行かなければ。
********
「へぇ、もう町を出ていっちゃうのかー」
「はい、なので必要物資の買い出しです」
私は昨日お世話になった雑貨屋に来ていた。
ある程度のものはここで揃うと思ったからだ。
事実、豊富な品揃えで助かっている。
「じゃあ細かい怪我用に軟膏タイプの傷薬をオマケしておくよ」
「え、いいんですか?次いつ来られるか分からないですよ?」
「いいのいいの、旅の無事を祈ってるよ」
「あ、ありがとうございます!」
本当この人は神様かな?
人の暖かさに感動していると店員さんはさらにヒールポーションをオマケしてくれた。
オーマイゴット。
何度もお礼を言って店を後にする。
次に向かうのは防具屋だ。
「あぁお嬢ちゃんか、さっきの襲撃で駆り出されてたろ?大丈夫だったか?」
防具屋のおじさんは私を見るなり心配してくれた。
「はい、見ての通り大丈夫でした」
「そうか、ならいいが……見たところ防具に問題はねぇみたいだが何か入り用か?」
「いえ、明日町を出るのでお世話になった人に挨拶して回ってるんですよ」
と言っても数えるほどしかいない。
「そうかい、じゃあ餞別だ。こいつを持って行きな」
そう言っておじさんは手に持ったなにかを放ってきた。
落とさないようになんとか受け止める。
それは小さな石だった。
「これは?」
「リペア石だ。ランクは低いがローブの傷くらいは修復してくれるぜ」
そんな便利な石があったとは思ってもみなかったので驚いた。
「いいんですか?」
「あぁ、またこの町に来た時は贔屓にしてくれよな」
「もちろんです!」
なんだこの町の人皆優しすぎる。
涙ちょちょ切れそう(死語)。
私はお礼を言ってお店を後にした。
次に向かったのは冒険者ギルドだ。
入り口から中を伺うと受付にお姉さんがいるのが見える。
パタパタと走っていくと私に気がついたお姉さんが微笑んだ。
「あら、さくらさん。どうしました?」
「明日の朝町を出るので挨拶に来ました!」
「まぁそうなんですか?せっかく若い子が入ったと思ったのに寂しくなりますね。行き先は王都ですか?」
「はい、よく分かりましたね」
そんなに分かりやすく顔に出ていただろうか?
「ここから旅立つ人は大抵王都を目指すんですよ」
「なるほど」
始まりの町だからか、ここから旅立つ人が多いらしい。
ここら辺はゲームの設定どおりみたいね。
「旅立つ前にギルドカードの更新をしていかれてはどうですか?」
「更新ですか?」
「はい、今日のガーゴイルの件もありますし運が良ければランクが上がっているかもしれませんよ」
ゴトリとカウンターに石版が置かれる。
石版のスリットにギルドカードを差し込んだ。
しばらく待つとギルドカードが吐き出された。
「あ」
「まぁ!ランクAですね!」
ランク、上がってました。
ガーゴイルでそんなに経験値稼いでいたんだろうか。ちょっと不思議な気分。
「おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
私はお礼を言って冒険者ギルドを後にするのだった。
道中にて
翌日、早朝に私たちは町を出た。
宿屋のおばあちゃんは別れを惜しんでくれて、お昼にとお弁当を作ってくれた。
まじで感動した。
会話はそんなにしないが順調に私たちは街道を進んでいる。
「……だからさぁあの魔族が気にしてるのって聖女の力だと思うのよ」
「まぁだろうな」
「どうすればいいと思う?」
このままだとまた金色の勇者に襲撃される気しかしない。
「返り討ちにする」
「に、逃げるという選択肢は……」
「「ない」」
「えぇー……」
今日もうるうるチワワは絶好調である。
「ていうかあなたの名前聞いてなかったよね」
「い、今更ですか?!」
「そう言えば自己紹介してなかったな」
ヒイロの名前はその場の勢いで聞いちゃったけど蒼色の勇者はまだ聞いてなかった。
「ユウトです!ユウト・ハイランドですぅ!」
「ちなみに宰相の息子で次期宰相候補でもあるぞ」
「私はさくらでこっちはティアラ。よろしくユウト」
さりげなく自己紹介をしておく。
まぁステータス画面見せた時に分かってるはずなんだけどね。
「あ、はい宜しくお願いします。さくらさん、ティアラさん」
「よろしくですのよ!」
「俺とユウトはある理由から城を出て冒険者として各地を転々としていたんだ」
唐突にヒイロが語り始める。
「各領地の状況を見て問題がありそうなら城へ報告をしていたんです」
「おい、ある理由って言った意味ねーだろうが」
「す、すみませぇん!」
「あーまぁ、そんなわけで魔族の情報にも敏感だったわけだ」
「だから魔族に見逃された私を怪しんだのね」
そう言うと二人は気まずそうに頷いた。
まぁもう気にしてないんですけどね。
「い、今はもう疑ってねーぞ?!」
「聖女だってカミングアウトまでして疑われてたら逆に頭を疑うわ」
「う……」
それからまた他愛ない話をしながら私たちは歩いた。
「ん、あれは?」
ヒイロが立ち止まると遠くを見る。
私たちも異変に気がついて立ち止まった。
遠くから馬車が走ってくる。
が、様子がおかしい。
「ヒイロ様、盗賊に襲われています!」
ユウトが言った。
確かによく見ると数頭の馬が馬車に追い縋っている。
「と、盗賊……?!」
そんなイベントあっただろうか。
いや、覚えがない。
「助けるぞ!……さくら?」
「……り……」
「どうした?」
「む、無理!」
私は絞り出すように言った。
盗賊といえど人間には違いない。
平和育ちの私はまだ対人戦をする覚悟が出来ていなかった。
人と戦うのが怖い。
手が震える。
それを見てヒイロが言った。
「わかった。ここで待ってろ。行くぞユウト!」
「は、はいぃ!」
ポンと私の頭を叩くとユウトを引き連れて馬車の方へ走って行く。
ヒイロの優しさにちょっとだけ胸キュンした。
遠くで二人が戦っているのが見える。
まずは魔法で馬から落としてそこをヒイロが叩くといった感じだ。
慣れている様子から、彼らが盗賊を相手にするのは初めてじゃないことが伺えた。
しばらくして、全員倒したのかヒイロが手招きする。
急いで彼らの元へ向かうと二人は馬車の持ち主と話をしているところだった。
「だから、何があったのか教えてくれと……」
「お願いです!村を助けてください!」
「たすけてください!」
馬車に乗っていたのは若い女性と幼い女の子だったようだ。
二人はしきりにヒイロにお願いをしている。
「少し落ち着いて下さい。ね?」
ユウトが二人を宥めると少し落ち着きを取り戻した。
「あ、あぁ……ごめんなさい、私ったら助けて貰っておいて厚かましい事を……」
「いや、それはいいんだが何があったのかを教えて欲しい」
「はい、実は……」
女性が語ったのはよく聞くような村が盗賊に襲われてそこから二人だけ逃げてきたといった話である。
「なるほどね……賊はまだ村に?」
「はい、逃げてくる時まだ物色していましたから……」
「ヒイロ様」
「あぁ、騎士団を待っていたら手遅れになるな」
ヒイロが私の方を見た。
「さくらはこの人たちとここにいてくれ」
「え」
「相手は賊だ。戦えないだろう?」
ヒイロの言葉ににが苦しいものを感じる。
私も、戦えたら……
「こら、無理しようとすんな。人を相手にするのが怖いのは当たり前の感情だ。気にするな」
「でも……」
「いいから、二人を守ってやってくれ」
「……わかった」
「よし、行くぞユウト」
「分かりましたよぉ」
勇ましく駆け出したヒイロとは違いユウトは残りたそうにしていた。
私達は馬車を離れた場所に移動させてそこで二人を待つ事にする。
勇者である二人なら問題ないと思うが、知らないイベントの存在に不安が襲う。
「ねぇねぇ」
今までこちらの様子を伺っていた女の子が話しかけてきた。
「どうしたの?」
「おねぇちゃんはたたかえないの?」
「え、と……」
「こらチエ!すみません……!」
返答に困ると女性が謝ってくる。
「いえ、大丈夫ですよ。チエちゃん、だったかな?」
私はチエちゃんに目線を合わせるためにしゃがみこんだ。
「うん、チエ4歳なの!おねーちゃんはナナ!」
「あ、ナナです……」
「そっかー、私はさくらって言うんだよ」
「さくらおねぇちゃん?」
「うん。私はね……戦うのが怖いんだ」
自分より小さい子に何を言ってるんだろう。
「こわい?よしよしする?」
チエちゃんが小さい手で頭を撫でてくれる。
その手の暖かさに少し緊張が解れた気がした。
「ありがと。だから怖くなくなるまではあの二人が頑張ってくれるんだって」
言われてないけど。
そう言うことにしておこう。
しかし、日が暮れても二人は戻ってこなかった。
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