第3話 金色の勇者と冒険者ギルド
なぜか出会うはずのない最初の町カノンで最後に出会うはずの金色の勇者リンドと出会った。
しかも突然の魔族の出現に周囲が騒がしい。
「魔法を破る力か……そんなものがあるなんてな」
そう言ってリンドは興味深そうに私を見る。
私の横でティアが慌てていた。
「わわわ、魔族がこんなところに!逃げましょう!」
「正体を知られたからには逃がさない、と言いたい所だけどこんなに大勢がいる場所じゃ部が悪い……今回は逃げさせてもらうよ」
言うや背中に羽を出現させて空に飛び上がる。
私が何か言う前にあっという間に姿が見えなくなってしまう。
ぽつんと残された私の元に町の人が近づいてきて怪我がないかなど気遣ってくれた。
暫くするとバタバタと冒険者の二人組がやってくる。
「魔族が出たと聞いたが……」
「あ、魔族なら逃げていきまし……た?!」
やってきた冒険者を見て驚いた。
本来なら明日冒険者ギルドで出会うはずの緋色の勇者ヒイロ・レスタルヴァと蒼色の勇者ユウト・ハイランドがいたのだ。
なんだこの意図せず攻略対象に連続して出会う確率は。
二人は私の様子を見て怪訝な表情になる。
「魔族が逃げた。だと?」
「おかしいですね。魔族は力至上主義……冒険者でもない女性相手に逃げるとは思えません」
おいぃ変なこと言うなよ蒼色の勇者!!
「え、えぇ人が多いと部が悪いみたいなこと言ってましたよ?」
「お前怪しいな、おい!冒険者ギルドまで来てもらおうか」
えぇーなんで?私何も変な事言ってないし被害者だよ???
と心の声は隠して苦笑いをする。
「ちょっと待って下さい」
そう言って現れたのは雑貨屋の店員さんだった。
「さっきから見てましたけどね。この子はウチで買い物して店を出た途端に魔族とぶつかっただけだよ」
て、店員さんんんん!!!
神はここに居た。
女神?知らんな。
まさか誰かが庇ってくれるとは思ってなかったので正直嬉しい。
「そうなのか?」
確認するように聞かれたので何度も頷いた。
すると納得しきれてない様子だが私を冒険者ギルドへ連れて行くのを諦めてくれたようだ。
「そうか、すまなかった。お詫びと言ってはなんだが何かあれば面倒だが頼ってくれ。こう見えてもこの町に来て長いんだ」
「は、はい」
私が応えると二人は来た道を戻って行った。
ちょっと面倒とか気になること言われたけど気にしないで頼ってやろう。
「災難だったね。気を落とさないで、魔除けもウチの店で扱ってるからよかったらまたおいで」
そう言って店員さんは店の中へ戻って行く。
さりげなく商品アピールを忘れない所は凄いと思う。買わないけど。
その後、メモ帳とペンを買って宿屋に戻った。
「はぁ、とんだ災難だったわ……」
椅子に腰掛けて溜息をつく。
まさかここで金色の勇者と出会うとは思ってもなかった。
ゲームでは終盤に現れる予定の攻略難易度高めのキャラのはずだ。
「ゲームのシナリオと違う……?」
まさかシナリオとは違う動きをしているのだろうか?
いや、今この世界では生きて動いているんだからそれは当たり前だ。
シナリオ通り行くと思っていた私の考えが甘かったんだろう。
私は真っ新なメモ帳を開いてペンで覚えているシナリオや選択肢を書き込んでいく。
「さくら様何をしてるんです?」
「んーとね、私の覚えている物語の内容を書き写してるの」
「どうしてそんなことを?」
「いやね、色々あって忘れちゃうかもしれないから記録に残しておきたいなって思って」
そう言うとティアは納得したように頷いている。
ていうか色々とありすぎて推しである緋色の勇者に会えたのに嬉しくなるヒマもなかったわ。
萌え語りするくらい好きだったのに、本人を前にしてもなにも感じなかったな……
私の萌えはこんなものなんだろうか?
いや、そんなはずない!
明日冒険者ギルドに行けば会えるはず、その時に分かるだろう。
そうと決まれば今日はもう寝る!
私はメモ帳を閉じてベッドにダイブした。
********
翌日、よく寝た私は朝食を頂いてから冒険者ギルドに来ていた。
受付らしき場所に近付くと私に気がついたお姉さんが笑顔で対応してくれる。
「いらっしゃいませ!今日はどんなご用ですか?」
「あ、あの。登録したくて来ました」
「登録ですね!ではこちらの石に手を当てて下さい」
お姉さんがカウンターの下から取り出した石版をゴトリと置いた。
そこに手を置くと唱えていないのにステータスウィンドウが現れる。
ヤバイ、これだと聖女だとバレてしまう。
慌てる私とは違いお姉さんは別の事で驚いているようだった。
「えぇ?!剣聖のスキル持ちなんて初めて見ましたよ!」
「あ、えと……」
どう言う事だろう?お姉さんには職業欄が見えていないんだろうか?
不思議に思っていると横からティアが小声で言ってくる。
「ギルドの石版では職業まで見られないのですよ」
なるほど。
納得した私は落ち着きを取り戻す。
「しかもレベル99ですか!一体何者なんですか?!」
「あの、や、山で暮らしてて……」
苦し紛れに嘘設定を言う。
「山に……そうですか。だから今までギルドに登録してなかったんですね」
「登録、できますか?」
これで登録出来ないって言われたらどうしよう。
私の不安を感じ取ったのかお姉さんは慌てた様に手を横に振る。
「ご、ごめんなさいね!こんなステータス見るの初めてだったからつい……登録ね、大丈夫よ。ちゃんと登録できます」
「良かった」
そう言って石版から手を離すと横にあったスリットからカードが吐き出された。
それを取ると
冒険者名:さくら
ランクB
と記されていた。
「おぉ、ランクBなんて凄いですね!」
「え、と……アリなんですか?」
確か冒険者ランクはFから始まるはず……
「はい。ランクは石版によって最適なものを付与されますので」
「そうなんですか……あっ、そういえば素材の買い取りとかってやってもらえるんですか?」
スライムから手に入れた素材が大量にあるので換金できるならしてしまいたい。
「できますよ!ここに出せますか?」
「はい」
そう言って私はスライムの素材、核石が入った袋をカウンターに置いた。
「これは核石ですね。不足しがちなので助かります」
「え、スライム狩る人いないんですか?」
剣で一発で倒せる相手だよ?
不思議に思って聞くとお姉さんは困った風に笑う。
「初心者向けすぎて退治してくれるのは皆最初だけなのよ」
「なるほど……」
雑魚すぎて討伐対象から外されているのか。
「はい、全部で216匹分ですね。金貨108枚になります」
お姉さんが出してきた金貨をキチンと数えて魔法鞄にしまった。
核石は二匹で金貨1枚になる。私覚えた。
私はお姉さんにお礼を言ってカウンターの前から立ち去る。
このお金で装備でも買おうかな、と思っていると目の前に立ち塞がる人物がいた。
そう、緋色の勇者様である。
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