第2話 始まりの町

「やぁ!」

気合いと共に剣を振り下ろした。

切っ先はスライムを綺麗に真っ二つにする。

ぽひゅんと音を立てて煙を上げて姿を消し、代わりに数枚の金貨を落とす。

この世界では流通通貨は金貨のみで純粋に枚数で買い物ができる。

単純で覚えやすい。

私は剣を鞘に納めると落ちた金貨を拾った。

金貨をポケットに入れるとジャラリと擦れ合う音がする。

ここまでに何匹もスライムを狩っているからそれなりに金貨が集まっているのだ。

「すごいです!もうずいぶん戦闘に慣れましたね!」

私の周りを飛ぶティアラが言った。

「うん、これも剣聖スキルのおかげかな」

なんとこの剣聖スキル、魔法剣が召喚できる。

そのおかげで武器に困らないし、適当に振るっても剣技が発動してくれた。

超チートスキルだったのだ。

これもう怖いもの無しじゃない?なんて思ったりする。


「ところで、ティアラは私のこととか聖女大戦とかどれくらい知っているの?」


私が聞くとティアラは困ったように首を傾げた。

「私の事はティアって呼んでください!……その、聖女大戦というのはよくわからないけど聖女様は女神様に選ばれて異界より招かれたんですよね?」

「う、うん。そうだよ」

まさか聖女大戦のことを知らないとは思ってなかったので少し動揺してしまった。

あれだ、オタクじゃない友人にアニメの話を振ってしまった時のような気まずさがある。


ていうかそれくらい教えておいてよ女神様!いや、説明義務を放棄してるから駄女神様でいいよね、うん。


「聖女大戦ていうのはね、私のいた世界にあるお話で……」

私はティアに聖女大戦について四人いる攻略対象を仲間にして魔王を倒す話だと説明した。

「なるほど、つまり私が女神様に選ばれたのはその聖女大戦が理由だったんですねー」

なにか納得したようにティアが言う。

「え?理由?」

「はい、私たち妖精族にも生まれつきスキルが与えられます。私の持つスキルは対象の好感度を計ることができるのです」

「なにそれ凄い便利」

ゲームではメニューから確認していた好感度をどうやって確認するのか気になっていたけどまさかティアのスキルで確認できるとは。

「このスキルも良い事ばかりではなかったのですが……まぁ、そういうことですので相手の好感度が気になった時には聞いて下さいね!」

どこか嬉しそうにティアは言った。

私は頷いて前を見る。

私たちはゆっくり歩きながら平原を歩いて来た。

だから前方に町を囲む外壁が見えてきている。

「……ようやく町が見えたね」

「ですね!」

日はまだ高いがだいぶ疲れている私は早く休みたいと足早になった。

「そういえばティアは町に入れるの?」

ゲームでは妖精族は魔物扱いだった気がするので聞いてみる。

すると安心させるようにティアは頷いた。

「妖精族はイタズラをしないので通行料さえ払えば町に入れてもらえるんですよ」

「へー、そうか通行料がかかるのか」

「えぇ、確か人間族一人につき金貨一枚で、妖精族も同じく金貨一枚だったはずです」

「なるほどねー」




********




私たちは金貨を二枚払って無事にカノンの町へ入れた。

その際身分証が無かったのでもしもトラブルが起きたら不利になることを門番さんが丁寧に教えてくれて、手っ取り早く身分証を手にいれるなら冒険者になることをお勧めされた。

これから魔王を倒しに行くうえで特に拒む理由も無いので明日にでも冒険者ギルドへ行ってみようと思う。

私たちは大通りを抜けてこれまた門番さんがお勧めしてくれた宿へ来ていた。

「いらっしゃい、泊まりかい?」

受付に座っている優しそうなおばあちゃんに聞かれたので頷く。

「私とこの子二人で……とりあえず一週間ほど泊まりたいんですが……」

「はいはい、二人で一週間だと朝晩のご飯が付いて金貨12枚だよ」

え、安い。

思わず固まってしまった。

大通りを歩いていた時に見た出店の串焼きは金貨5枚だったよ?

「おや、高すぎたかい?」

私の様子に勘違いしたのかおばあちゃんが聞いてくる。

慌てて首を横に振った。

「い、いえ!逆に安すぎてビックリしてしまいまして……」

「あぁ、そうかい……ここはじいさんの趣味でやっているようなもんだからね。本当はお金なんて取れないさ」

やっぱりお金なんて、と言い始めたおばあちゃんに私はまた驚いて急いで金貨12枚をカウンターに乗せる。

「と、とても雰囲気が良くて素敵な宿だと思いますよ!」

「ですねーここの宿には精霊様が加護を与えている気配がしますー」

しみじみと懐かしそうにティアが言う。

確かに精霊の加護があると言われればそう感じてしまう雰囲気がこの宿にはあった。

暖かい木造建築のホールに所々に飾られた花々がある。

私たちは一目でこの宿を気に入ったのだ。

「ありがとうね。うん、丁度あるね。部屋は二階の奥だよ」

そう言っておばあちゃんが花の飾りがついた鍵を渡してくれる。

どことなく私の名前、さくらに似た形の花だった。



部屋に少ない荷物、道中手に入れた素材などを置いて私たちは出店を冷やかしに宿を出る。


いくつかの出店を冷やかした後、雑貨屋に来た。

所狭しと日常雑貨から冒険に使うような物まで置いてある。

「いらっしゃい、何をお探しで?」

店員らしき人がカウンターから出てきて聞いてきた。

「旅用に魔法鞄(マジックバッグ)が欲しくて……」

そう言うと店員さんは商品棚の一画に案内してくれる。

魔法鞄とは魔法によって見た目以上の収納が付加された鞄のことで、ゲームでもアイテムをカンストまで溜め込んだりした。

「魔法鞄ならここですね。今流行りのデザインがらこっちで、不動のNo. 1のデザインがこっちです」

そう言って見せてくれたのは可愛い猫の形の魔法鞄と素朴なデザインの魔法鞄だった。

「可愛い……どうしようかな……」

幸いお金はまだ十分にある。

どっちもいい。

「差があるとすればネコ型よりこっちの方が若干容量が大きいくらいですね」

「あ、じゃあ大きい方で」

これから旅をするんだから容量は大きい方がいいので素朴な鞄に決めた。

「こちらですね。お包みしますか?」

「いえ、大丈夫です」

もちろん装備して帰りますとも。

「では金貨150枚になります」

「あ、あとヒールポーションも二本ください」

「はい。じゃあポーションはオマケしておくよ」

そう言って店員さんはヒールポーションを鞄の中に入れてしまった。

「え?いいんですか?」

「いいのいいの、また何か買いに来てくれればそれでいいから」

「あ、はいもちろん!」

私は店員さんに金貨を150枚渡す。

これで金貨の残りは102枚だ。

きっちり数えると頷いて鞄を渡してくれる。

「まいどありがとうございましたー」

店員さんの声を背中に私たちは店を出た。


ドン


「わ?!」

「きゃ?!」

店を出た途端誰かとぶつかってしまった。

うまく受け身をとれず尻餅をついてしまう。

ぶつかった相手は男性で、ちょっとよろめいただけで済んだようだ。

「ご、ごめんなさい!」

謝りながら立ち上がろうとすると男性が手を差し伸べてくれる。

「こっちこそ余所見をしててごめん」

差し伸べられた手に私は手を伸ばした。



パリン



何かが割れるような音がした。

すると瞬きのうちに目の前の男性の姿が変わる。

金色の髪に紅い瞳、そして魔族の証である褐色の肌色。


きゃあああ!


どこからか悲鳴が響く。


魔族だ!魔族が町に!

騎士に!いや、冒険者ギルドへ報告だ!


ざわざわと周囲が騒がしくなる。

そんな状況でも私は目の前の男性から目を離せないでいた。

「なぜ偽装が、魔法が剥がれた……?まさかお前の……」

そう言って私を見る魔族の男性に私はものすごく見覚えがある。


「なんで、なんでこんな所にいるの?!」


彼は攻略対象の一人、金色の勇者リンドだった。


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