納品、フロストドラゴンの卵



  ──しばらく後


 騎士団本部をでた俺は、ノエルの屋敷に帰り、さっそく騎士団の竜の巣調査現場を地図で探した。


 揺れるランプの明かりに照らされる図面上の文字を、何度も確認して、北の山脈の位置を確認する。


 ついでに定規を使って距離も測る。


「なんか距離が……ん、でもこことここが100kmだから──」」


 俺は何度も確認して理解した。

 クエストの目的地が、めちゃ遠いことを。


「馬で走って2日の距離って、どこまで行かせる気だよ」


 ずいぶんと報酬は良いと思ったが、そういう理由があったのか。


 でも、よくよく考えたら竜の卵がある場所ってことは、すくなくとも人里じゃないか。人里じゃなければ、それだけ遠くなるのも理ではある……か。


「しかし、困ったな。ノエルに剣を教えないとだから、モーリアを長く離れるわけにはいかない」


 俺は頭をひねり、なんとなく時空剣を取り出した。

 こいつが何とかしてくれないだろうか……。


「空間と時間。お前なら、距離くらいなんとかできるんじゃないか?」


 この剣は無限の可能性を秘めている。

 できるはずだ、どんな課題にも回答をだすことが。


 俺は竜の巣がある、北の山脈を想像する。

 そして、黒い指輪からララを魔力にかえて体を満たす。

 

 吹雪く雪。

 極寒の大地。

 青白い幻想の世界。


 そうだ、このインスピレーションだ。

 空を繫げ、俺を連れていけ、時空剣。


「開け──時空門」


 思うがままに刃を振り下ろす。


 空気を斬っているだけだが、やけに手ごたえがあった。


「あ」

 

 俺の視線の先、空間がぱっくりと割れていた。


 空間を斬ったのだ。


 瞬間、向こうから吹雪が吹き込んできた。


 すごい。

 きっと北の山脈とつながったに違いない。

 まさか、本当に成功するなん──


「てか、寒ッ?! 嘘だろ、寒すぎる!!」


 ぐぬぬっ、耐えがたい寒さだ。

 しかし、せっかく繫いだんだ、もう卵をとってくるしかない!


 俺はタンスの中から、もこもこのコートを探し、手袋、マフラーで、最大の厚着をして真っ白な世界に足を踏み入れた。


 ──しばらく後


 俺は震える手で、綺麗な水晶の卵を受付へと持って行っていた。

 受付嬢は「早っ?!!!」と椅子を倒して立ち上がり、腰を抜かしている。


「ほら、とってきてやったぞ……」

「いやいやいやいや! 早すぎですよ?!」

「俺が誰だか知らないのか? ミスター肩透かしで有名なユニーク使いだぞ」

「ユニーク使い……」

「ほら、すこし前に数百年にひとりの神童って言われた」

「ッ! あ、そ、それじゃ、あなたが時空剣の……もしかして、スキルが使えるようになったって噂は本当だったんですか……?!」


 俺は空間の裂け目から、時空剣を抜剣する。

 受付嬢は「うわああああああああああ!!!!!」と奇声をあげてひっくりかえった。


 この後、俺は受付嬢にひっつかれながら、ユニークスキルについて教えてあげ、フロストドラゴンの卵が本物だという信頼を得た。


 ──しばらく後


 ──────────────────


 残高

 3,101ララ


 ──【時空剣】


 技名:抜剣

 コスト:-100ララ

 備考:異界に返還すると+100ララ


 技名:装備

 コスト:-10ララ/毎秒

 備考:装備中、継続して魔力消費

 

 技名:収束重撃波・小

 コスト:-8,000ララ


 技名:収束斬・小

 コスト:-1,000ララ


 技名:抜剣・射出

 コスト:-150ララ 

 備考:異界に還元すると+100ララ


 技名:収納

 コスト:-1000

 備考:1m四方の永久空間を異界に開く


 技名:時空門 NEW!

 コスト:-3,000

 備考:直線100㎞までの空間を直通させる


 ──────────────────


 時空門はなかなか高い技だ。

 空間に干渉しているので、仕方ないっちゃ仕方ないが。


 とはいえ、騎士団クエスト報酬で600ララ。

 速達の手当てとして、受付嬢の財布からは3,000ララしっかり払わせた。


 一晩の仕事としてはとても良い収入だ。


「さて、これはどうしようか」


 騎士団本部からの帰ってきた俺は、部屋の中で開きっぱなしで、白銀世界の吹雪を吹き込ませている時空門と、ついでに竜の巣から拾ってきた5個のフロストドラゴンの卵を見下ろした。




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