ノエルとデート、卵の行方
部屋にできた時空門は開いたまま運用することにした。
どうにも、この時空門と呼ばれる超絶すごい技は、一度使って、空間のねじれを開いてしまえば、追加の魔力無しでも維持できるらしい。
常により多くの儲けを欲している俺としては、この仕様は大変ありがたい。
ゆえ3,000ララも払った手前、すぐ閉じるのはもったいないと考えて、そのままにした。
まあ、厳密に言えば、戻し方もわからないのだが……。
「我が師?! 部屋が雪だらけなのですが!!」
時空門を放置していたところ、あっけなくノエルにバレたので、事情を説明する。
「そうですか……いや、全然そうですか、って感じの案件ではないですが」
「どうすべきか、貴族令嬢の意見を聞かせてくれ」
ノエルは可愛らしく顎に手をあて、うーん、と唸る。
「まずは扉をつけるのですよ! 暗黒の十字が刻まれた金属扉がいいです」
「それはお前の趣味だろう。ただ、ずっと吹き込まれても困るから、それは良いかも」
俺たちは一緒に市場へ、扉を探しに出かけることになった。
──しばらく後
ノエルといっしょに家具屋へと赴く。
「こほん。我が師、我が師」
「どうした、ノエル」
「ちゃ、ちゃんと光栄に思ってますか」
「光栄? 何のことだ」
「この幽界の姫といっしょに街を歩ける、ということをです」
「あー……もちろん」
ノエルの黄金に輝く髪の毛が本当にきれいだ。
それこそ、本物の姫のよう。
実際、貴族令嬢なので、細かな所作も身につけ、教養もあり、平民とは違うな、と思えるオーラが漂っている。
「ノエルとデートできて光栄か、どうかで聞かれたら確かにめちゃ光栄でではあるか」
「っ!? で、デート!」
「あ、ごめん、調子に乗ったかも……」
ノエルは顔を真っ赤にして怒っていらっしゃる。
敬いの言葉は使わなくて良いと言われていたので、フランクに話しているのだが、流石にまずかったか。
「ふ、ふーん! そうですか、そうなのですか、我が師のなかでは、これはデートであると!」
「ご、ごめんなさい」
「まあ、いいでしょう! これをデートとカウントする事を許すのですよ!」
「申し訳ないからいいです」
「っ、だ、ダメやがれなのです!」
「へ?」
「これはデート、なのです。我が師、これはデートとカウントしましょう。ええ、そうするのが賢明であり、姫の譲歩はありがたく受け取るのが礼節だと、覚えてほしいのです」
なんて良い子なんだ。
師匠である俺に恥をかかせないために、わざわざ、自分が恥を被るとは。
「さ、さあ、着いたのですよ!」
「良い扉が見つかるといいな」
「……良い扉を見つけたら、いっしょに取りつけて、いいでしょうか、我が師」
「? いや、面倒だろう。俺が勝手に作った時空門だし、こっちで勝手にやるよ」
「むむ。気が変わりました、勝手に我が領土の改造をされては困ります。だから、私と共同作業しやがるといいのですよ、我が師」
「監視されてる……?」
帰宅後、俺たちは時空門に扉をつける共同作業に取り組んだ。
わりと楽しかった。
──しばらく後
ノエルの稽古を終えて、再び、騎士団本部の騎士団クエスト窓口へやってきていた。
夜のバイトのお時間だ。
「あ、アイガさん! 昨晩は本当にありがとうございました!」
受付の女騎士に満面の笑みでお礼を言われる。
「あれからどうだ?」
「はい! おかげ様で、私のミスが明るみに出ることはなく、私の失態は永久に闇に葬られました!」
「それはよかった」
挨拶を終えて、騎士団クエストを探す。
「ん、資材調達クエストの報酬がやけに良いな」
「あ、それは、騎士団本部が恒常的に必要としている物資ですね」
モーリアを守護する奔放騎士団は、この国の様々なトラブルを解決したり、モンスターや野盗などから人々を守ったりしている。
近年は、冒険者に憧れる者が増えて、騎士になる者が減って来ているため人手不足が深刻らしい。
物資の調達をクエストに出すくらいなので、かなりピンチなのだろう。
「まあ、俺には好都合だけど」
物資の内訳を見てみる。
俺が近場で調達できそうな物なら、最強の運搬能力である、時空剣の収納空間で、いっきに大量搬入してやれるだろう。
「ん? これは……!」
びっくりすることに、物資要求の項目に、モンスターの卵があった。
俺はピンときて、収納空間にしまっていたフロストドラゴンの卵を取り出す。
「これ……売り方が分からなくて困ってたんだが」
「はええええええええ!!!?? ななな、なんで、フロストドラゴンの卵がああ!!」
「この前、北の山脈に行ってきた時、ついでに全部拾ってきた」
「そんな、道端のキレイな石拾ってきたみたいに?!」
「で、騎士団本部なら、この卵、買い取ってくれるんじゃないか?」
一応、アイテムショップには持って行ってみたが、竜の卵ほどのものを適正価格で買い取ることができないと言われて断られてしまっていた。
【テイマー】のスキルホルダーの下へも足を運んでみた。
が、そもそもドラゴンの卵の孵化させる方法もわからなければ、育て方もわからず、生まれても餌にされるだけだろうとの事だった。
竜というだけで、その運用難易度は、民間の個人でどうにか出来るレベルではなくなるのだ。
「ごくり……モンスターの卵は、その種類によって値段が変わります。ドラゴンは竜騎士隊の備品として常に不足してますから……」
受付嬢は怪我した足をさすさすしながら「えーと、確かここのへんに……」と戸棚を探している。
「ありました、モンスターの卵の買い取り早見表です」
「ほう、それで、フロストドラゴンの卵はいくらになる?」
「……5,000ララです」
「はうッ、ご、5,000……!」
この晩、俺は卵をすべて騎士団に納品し、20,000ララの報酬を受け取った
この場にはお金が無かったらしく、フロストドラゴンの卵はひとつ余ってしまい、それは手元に残すことにした。
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