製材所のキムラ
残ったフロストドラゴンの卵は、自室のタンスの中に入れておくことにした。
卵の殻の中には、未熟な生物がやどっている。そのため、もし卵を収納空間にしまう場合、空間のルールによって、収納空間を完全に閉じれない障害となってしまうためだ。
これはいつでも5,000ララで売れるので、今ら焦って換金する必要もないだろう。
もしかしたら、将来的には卵の需要が上がって、より相場が高くなっているかもしれないしな。
俺は卵を丁寧にタンスの奥にしまい、一息つく。
そして、今度は黒い指輪の情報を閲覧する事にした。
思わず頬を緩む数字が並ぶ。
──────────────────
残高
20,345ララ
──【時空剣】
技名:抜剣
コスト:-100ララ
備考:異界に返還すると+100ララ
技名:装備
コスト:-10ララ/毎秒
備考:装備中、継続して魔力消費
技名:収束重撃波・小
コスト:-8,000ララ
技名:収束斬・小
コスト:-1,000ララ
技名:抜剣・射出
コスト:-150ララ
備考:異界に還元すると+100ララ
技名:収納
コスト:-1000
備考:1m四方の永久空間を異界に開く
技名:時空門
コスト:-3,000
備考:直線100㎞の空間を直通させる
──────────────────
「ふ、ふふふ、ははは!」
最高貯蓄額、更新だ。
小金持ちになったとわかった瞬間、不思議と高笑いが漏れてしまう。
「まさか、こんなに良い金額で売れるなんてな。ふはは、笑いが止まらない!」
嬉しい、幸せだ。
お金、たくさん、たのちい。
俺はひとりで夜中、自室で踊った。
時空門の扉をくるくる回りながら。
楽しむ乱舞してると、ふと、さらなる妙案が天から降ってきた。
「むむむ、もしかして、北の山脈にはもっと貴重なアイテムが眠っているのでは?」
悪魔的ひらめきだった。
俺はすぐさま、時空の裂け目へとつながる扉に手をかけた。
──しばらく後
俺は扉をくぐった先、青白い森の中で拠点づくりに勤しんでいた。
金目のアイテムを探したかったが、時空門のまわりが野ざらしならぬ、豪雨ざらしなのはいかがな物かと思った。
このまま放っておいたら、明日にでも雪で埋まってしまうかもしれない。
そしてら、せっかく開けた時空門が台無しだ。
ゆえに俺はまずは玄関まわりを整地することにした。
これから何度もの使うことになるのだろうからな。
時空剣ではない、C級相当の剣で木を切り倒す。
それを収納空間にいくらか回収する。
たくましい木々をしまうには、現在の収納空間は、少々手狭だったので、先行投資として8,000ララ分の魔力を使って空間を拡張した。
「梟の模様のでかくなったな」
相変わらず、なぞの梟マークが壁には張り付いている。
以前より、輪郭がはっきりしてきており、動き出しそうなくらいに繊細な造形に進化しつつあった。
いったい、何なのだろうか。
謎は深まるばかりだ。
「まあ、いいか」
特段、害はなさそうなので、気にすることなく、収納空間に木を丸々一本を詰めた。
そして、木を時空門の付近に持ってきて、枝を切り落として丸太にする。
寒いので、いったん作業を中止する。
別に雪山に縛られる制約はないので、自室に戻って温まることにした。
「あれ? というか、そうなると、雪山で作業をしなくてもいいのでは?」
最近、俺の頭は冴え渡っている。
俺は衝撃のひらめきを実行に移し、居候しているノエルの屋敷の庭に出て、丸太を取り出し、そこで作業を進めることにした。
──翌日
「我が師、大量の木材が庭に散らばっているのですが」
「ちょっと置かせてもらってる。すまん」
ノエルに渋々了解を得て、彼女が稽古している傍らで、俺は製材を進める。
「我が師はなかなかに手先が器用なのです」
休憩中、ノエルに隣で観察されながら、俺は丸太をちょうどいいサイズにカットする。
しかして、なかなかこれが難しい。
そもそも、剣での作業には限界がある。
時空剣は手にしてるだけでララが掛かるので、安い武器を使っているが、これには限界がある。
木を何度も叩き切っているうちに、刃こぼれしてきてしまった。
「製材って難しいんだな」
「それで生計を立ててるプロがいるくらいですから、当然なのですよ」
「プロか。……今はすこしララに余裕があるし、職人に頼むのもありだな」
俺はこの晩、製材所を探すことにした。
夜。
一日の終わりに、俺は騎士団本部の窓口へ足を運ぶ。
「あ! アイガさん、いつもお勤めごくろうさまです!」
「そっちもな」
暇そうにしていた、いつもの女騎士がはにかんだ笑顔を向けてくる。
「この時間帯って暇で仕方ないんですよ!」
「それはよかった。仕事を依頼したい。丸太を加工できる製材所を探してるんだが」
「製材、ですね! それなら、騎士団の工房でもできますよ!」
「本当か?」
「はい! 事業者向けの施設ですが、公金で運営の一部を賄われているので、お安く加工してくれます!」
これは良いことを聞いた。
──翌日
まだ朝日の昇りきらぬ早朝。
俺はねぼけ眼をこすりながら、女騎士に教えてもらった製材所へと赴いていた。
「あんたがキムラさん?」
「ん?」
大量の丸太が屋外に積まれている外庭にある、大きな荷馬車用の搬入路から、立派な面構えの製材所へ、足を踏み入れると、木くずだらけの作業着の人間がいた。
細い体、ノースリーブを膨らませるしなやかな膨らみ。上着を腰に巻いてるので、尚のこと、全体像が華奢に見える。
「女……」
「なにか問題でも」
「……なにもないです」
木くずを払えば、茶色い短髪があらわになった。
端正な顔立ちだが、寡黙そうで、愛想がない。
窓口の女騎士の幼馴染と聞いていたので若いとは思っていたが、年相応の華やかさにはまるで興味がないと言った顔つきだ。
こいつが騎士団工房製材部の主任、キムラだろう。
「木材の加工をお願いしたい」
「用途は」
「小屋を建てようと思って」
「それ建築の分野だけど」
「簡易的なのでいいんだ。というか、材木を作ってもらったら自分で建てる」
「そう。どこに建てるの」
「山? 寒冷地って、いうのかな」
「寒冷地? 妙なことを言うね」
キムラは少し歩いて、外庭に積まれている丸太を物色し始めた。
「寒い土地、暑い土地。その土地にあった木材を使うべきなんだけど──寒冷地なら、これかな、ホワイトオーク」
キムラは積みあがった丸太のひとつを指さす。
皮が白い木だった。
「ホワイトオーク?」
「そう。かなり高級品で、在庫は少ない。だから、尚のこと今の相場は高い。北の山脈でしかとれないから、ここまで運び込むのも大変なんだよ」
「ん?」
俺は白い幹と、キムラの言葉にひっかかり収納空間を開いた。
眠たそうな目をして、ため息をつくキムラは、突然、目を見開く。
「これホワイトオークか?」
「え……?」
俺は収納空間からごろごろと転がり出てくる丸太を指さしてそう言った。
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