新しい仕事


 

 俺は冒険者ギルドを見上げる。

 

 剣の腕で稼いぐには、やはりここがベストな選択肢だろう。


 先程の騒動の熱が冷めぬ通りを横切り、冒険者ギルドへと足を踏み入れた。


 ──しばらく後


 冒険者ギルドに仲間募集の張り紙をだして、俺はギルドを後にする。


 冒険者パーティを結成するには、パーティの役割や、状況への対応力を考慮した結果、最低でも3人メンバーを集める必要がある。


 仲間が見つかる可能性は低い。

 まだ、俺は『肩透かし野郎』のレッテルを貼られたままだろうから。


「冒険者になって稼げるようになる前に、仕事を見つけないとだな」


 時空剣は燃費が悪い。

 これは疑う事なき事実だ。

 使い続けるためには魔力が必要である。


 そのため、俺はララを稼いで貯めて、いざと言う時にだけ時空剣を抜くということにした。


 よって、普段はS級の時空剣ではなく、D級の安物のナマクラ剣を使うことにする。


 ──2週間後


 剣術学校の非常勤講師としての職を得た俺は、毎日数時間、学生たちに指導をすることになった。


 俺は剣で、教官を負かしたところ、実力を認めてもらえて採用してくれた。


 教えてる生徒たちはおおむね10歳〜14歳だ。つまり大きくて、俺と同じくらい。


 ここは見習い冒険者たちが、本格的に冒険者稼業をはじめるまで鍛える場所なのだ。

 

 俺は剣術学校の敷地外に見える、スミヌス率いる『紅の剣士隊』がクエストに向かう姿を眺める。


 『紅の剣士隊』はそのメンバーを4人──やけに顔が良い女性冒険者ばかり。ムカつく──まで増やしている。


 等級も、1週間でブロンズ級からシルバー級と、凄まじい早さで昇級しており、いまや期待の新人として活躍してるらしい。


 俺もはやく冒険者になりたい。

 だが、まだだ、まだ貯金が足りない。


 最低でも森を禿げさせる、時空剣としては小技の部類にあたる大技を使えるくらいララを貯めなくては。


「あの」

「ん?」


 高い声に振りかえる。

 そこにはフードを被った同じくらいの背丈の者がいた。


 フードをチラッとめくり、その者は綺麗な顔を見せてきた。


 金髪に蒼瞳。やけに整った顔立ちだ。

 十字の模様が入った眼帯や、全体的に暗めの衣装。変わったファッションをしている。


 こんな子、生徒にいただろうか。

 

「あなたがアイガ先生ですか?」


 彼女は意志の強そうな瞳を向けてくる。


 先生? やっぱり生徒かな。

 アイガには違いないけど。


「あってるぞ」

「ユニークスキルを持っているって言う、アイガ先生、ですか」

「そうだ」

「ふっふふ、なるほど、分かりました」


 彼女は「こほんっ」咳払いをしてマントを少しめくり、黒いドクロの装飾がついた禍々しいな剣を、誇らしげに見せてくる。


「私は闇より生まれ、暗黒を身に宿す者、名はノエルシュタイン、幽界への帰還を志す者なり!」

「……」

「幽界卿アデオンロードの調べにより、モーリア最強の剣士10選のうち、10番目に強い剣士として、名前をあげられし剣豪よ!」

「10番目かよ」

「冒険者でも騎士でもないのに、その実力、賞賛に値すると私は見たのですよ!」


 なんか変なのに絡まれたな。


「上位9人の方は話しかける事すら戸惑われるので、仕方なくお願いさせて頂きます! 何卒、私を弟子にしやがるといいのです!」

「……。そのお願いの仕方ですると思う?」


 俺はため息をつく。


「ほら、自分の授業に戻れよ。お前、俺のところの生徒じゃないだろ」

「あっ、ちょ、待ってっ! なんでもします。私、立派な騎士になるため剣の修行を!」

「忙しいんだ。ここで真面目に働いてはやくまとまったララを貯めないとなんだから」

「む、ララに困ってるんですか? では、私の専属の先生になってくれたら、相応のララを払いましょう!」

「……」

「私は、こう見ても貴族家の令嬢なのです。ララはたくさんあるのです」

「……ほう?」

「月に3,000ララくらいならば、わたしのお小遣いからでも払えるのですよ!」

「……その話、詳しく聞かせてもらおうか」


 俺はこうして、少し変わった貴族令嬢、ノエルシュタイン・ダークミスト・ブラックプリンセス(以下略)を、月3,000ララ──庶民家庭の生活費1,200ララ/月──という破格の報酬を約束に弟子とした。


 時給9ララの剣術学校は翌日に辞めた。

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