コツコツの勝利



 ──翌日


 今朝のモーリアでは、郊外の森が謎の大規模破壊されたニュースで話題は持ちきりだ。


 俺は腹を空かせながら、冒険者ギルドの建物が見えるベンチで途方に暮れる。


 スミヌスが出てきて顔が合う。


「お前生きてたのかよ」

「【時空剣】、解放したぞ」


 昨日、召喚した剣を見せた。

 スミヌスは目を見開き、すこし怯んだようだった。


「嘘つくんじゃねえよ。昨日の今日で、4年間使えなかったスキルが覚醒するわけねーだろ」

「本当なんだけどな」

「『紅の剣士隊』に戻りたいからって……証拠見せろや雑魚、マジでダセェ野郎だな」


 証拠が見たいか。


 俺は数メートル先の、冒険者ギルド前の街路樹へと視線を移した。


「──収束斬」


 木の枝を狙って剣をふりぬく。


「あっ? 何してんだ、お前?

「今、ここの″空間を遅くした″」

「は????」


 俺は斬撃を加えた箇所を指差す。


 数秒後、突如として突風が吹いた。


 突風は街路樹の木を撫でる、

 かと思われた瞬間、木の幹が、木っ端微塵に斬り刻まれて弾けた。


 通行人たちは、いきなり爆発した木に驚いている。


 威力調整を間違えな。

 まあ、いいか。


「なっ、何しやがった……、なんだよ、なんで離れたところの木が……」

「証拠を見たかったんだろ。これが時空剣の証明だ」

「お前……っ、まさか、本当にユニークスキルを支えるようになったのか?!」


 俺は剣を時空の裂け目にしまう。

 そして、スミヌスを冷めた目で見つめる。


 彼は焦りをうかべた表情で、あたりをキョロキョロ見渡し、こっそりと声を潜めた。


「やったじゃねーか! 流石は『紅の剣士隊』の斬り込み隊長だよ! 信じてたぜ!」

「……」

「アイガ、謝らせてくれ。昨日は悪かったよ、酷いこと言って。でも、俺たちは同郷の幼馴染だろ? 一晩悩んで、俺も、これじゃダメだ、って考えを直したんだ」


 ペラペラと言葉を並べて、スミヌスは俺の肩を手をまわして置いてくる。

 

「アイガ、俺たち村で会ってから長くなるよなぁ? お前の気持ちわかったよ。お前は、ちゃんと俺の期待に応えてくれた。だから、いいぜ、俺の『紅の剣士隊』に戻ってこいよ」

「はははっ、まじかよ、スミヌス」

「ああ、もちろんさ! お前は親友だからな、いつだってお前の席は──」


 ふざけんなよ、この野郎。


「舐めてんのか?」

「いっ、いやいやいや、俺様は本気でお前のこと許してやろうと──」

「はははっ──笑えねぇよ。スミヌス、お前馬鹿なのか? 死ぬのか? いつまで自分の立場が上だと思ってんだ?」


 俺はスミヌスを突き飛ばす。

 それだけで、彼の体はたやすく壁に叩きつけることができた。


「テメェ! ユニークスキルが覚醒した瞬間、調子乗りやがって!」

「今までお前が調子に乗っていただけって自覚はないのか?」

「理屈っぽいこと言ってんじゃねーよ!」


 スミヌスは剣を抜いて、刃に火炎を纏わせる。


「てめぇこそ、忘れちまったんなら、思い出させてやるよ、俺様の凄さをよ!」

「レッドカットか、面白い、試してみよう」


 『炎剣』の二つ名を持つスミヌスの必殺技のひとつ、それが──レッドカット。


 『紅の剣士隊』で稼いだ報酬で作った、火属性と相性の良い剣に、スミヌスのA級スキル『紅』が加わり、できあがった魔法の剣。


 冒険者ギルド前通りを行く市民たちが、火炎を増幅させるスミヌスと俺に注目する。


 俺は時空剣を再度、空間の裂け目から取りだす。


「焼き切れ、レッドカットッ!」


 雄叫びとともに、灼熱剣が振り下ろされる。


 俺は時空剣で普通に受けとめた。


 刃と刃がぶつかり、甲高い音が響く。

 瞬間、爆炎があたりをつつんだ。


「馬鹿がっ! 俺のレッドカットをマトモに受け止めるなんて、自分から剣を駄目にするようなもん──」


 肌を一瞬熱くした炎がおさまった時。

 スミヌスは言葉をそれ以上、発せられなかった。


 彼の顔は固まってしまっていたのだ。


「剣が駄目になる。確かにな」

「は、馬鹿な……っ、そんな、こと……」


 時空剣の黒い剣身は、紅い刃に食い込んでいた。


 俺は時空剣を握る腕を、力をこめて押し込み、力づくでぶった斬った。


 『剣姫』レイを目標に、何千日も剣を振ってきたので、スミヌスよりよほど身体は丈夫で、強靭なのだ。


 半ばで折れた灼熱剣の先端が、地面に突き刺さる。

 じゅーっと音を立てて、赤熱した刃が沈んでいくのを、スミヌスと、まわりの市民はぼーっと眺めて、声をだせずにいた。


「そん、な……俺の、レッドカットが、逆に、斬られる……だと…?!」

「時空剣のレアリティは少なく見積もってS級だ」

「ッ?!」

「お前の灼熱剣はせいぜいB級だろ? 鉄を焼き切るほどに、熱して、そんなに強く叩きつけたら、まあそうなるだろ」

「嘘だろ、S級……? それって、『剣姫』の伝説の聖剣と同等のランクじゃ……」


 スミヌスは「嘘だ……だ、嘘に決まってる……っ!」と、現実を認めず、市民たちが野次馬するこの場から、逃げ出した。


 俺は時空剣を空間の裂け目にしまう。


 昨晩、ゴールドからもらった黒い指輪を通じて空間に表示される映像を確認する。


 ──────────────────


 残高

 503ララ


 ──【時空剣】


 技名:抜剣

 コスト:-100ララ

 備考:異界に返還すると+100ララ


 技名:装備

 コスト:-10ララ/毎秒

 備考:装備中、継続して魔力消費

 

 技名:収束重撃波・小

 コスト:-8,000ララ


 技名:収束斬・小

 コスト:-1,000ララ


 ──────────────────


「思ったより、金かかるな」


 SSS級の武器を生み出す力は、生半可な魔力では使いこなせないらしい……。

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