剣は撃つもの


 なんと良い物件を手に入れてしまったのだ。

 月3,000ララも稼げれば、目標の1万ララまであっという間だ。


 浮かれる俺はノエルシュタインに連れられ、綺麗な豪邸へやってきた。

 

「んっん、では、アイガ先生、こちらを」


 俺はノエルシュタインこと、ノエルに木剣を渡される。


「ふっふふ、これからアイガ先生には、私が雇った傭兵団の方と戦っていただくのです!」

「あれ? そういう試験って師匠が弟子にするものじゃないか、普通」

「お喋りは無用なのですよ」

「えぇ……」

「これは本物を見極めるための試練なのですっ! アイガ先生が本物ならこの程度、そつなく倒せるでしょう!」


 ノエルは庭の端っこに立つ。

 屋敷の裏からぞろぞろと小綺麗な男たちが現れて、木剣をぬいて構えてきた。


「やるしかない、3千ララのためだ」


 俺はノエルに渡された木剣を握り直した。



 ──しばらく後



 俺は上着を拾い、芝生を払いながら、去っていく傭兵団たちに軽く頭を下げる。


 今しがたの試験は無事合格だろう。


 傭兵団らしい、現場仕込みの実直的な剣筋ばかりで、いろいろ学ばせてもらえた。

 だが、身体が温まってきてからは、ほぼ一方的にノックダウンさせる事ができたと思われる。日頃の訓練の賜物だ。


「あ、アイガ先生……正直、あまり信じていませんでした。私と同い年のあなたが、これほどの実力者だったなんて……」


 ノエルが演技臭いしゃべりをやめるくらい放心している。

 そんなに驚いてくれたのか。うれしいな。


「アイガ先生の噂は知ってます……最近、ユニークスキルが使えるようになったって……今の剣技がそうなんですか?」

「いや、今のはスキルのバックアップも何もない剣技だよ、田舎のな。俺のスキルはこれだよ」


 俺は時空剣を空間の裂け目から取り出す。

 ノエルは目を見開いて「す、すごい…なんですか、それ!!」と感激している。

 

「時空を操る剣だ。俺のサポーターに教えてもらったところ、いろいろできるらしい」


 ざっくり説明して、俺は時空剣をしまう。


 これは手に持ってるだけで、お金が減っていく呪いの剣でもあるからな。


 こわやこわや。


「わたしも時空剣使いたいです!」


 俺は思案して「もう一本作れるのか?」と疑問に思いながら、試して見る。


 時空の裂け目を作り、手を突っ込み、一本目をとりだし、二本目を手に取る。


「お、行ける──ちょっと、待てよ!」


 俺はあわてて二本の時空剣を裂け目にもどした。


 まずい、二本召喚したら、二倍の速さで口座からララが減っていくのがわかった。


 双剣なんてしたら一瞬で金がなくなるな。


「? アイガ先生?」

「そう、だな、お前が一流になったら考えておこう」

「やった!」


 木剣をノエルに渡す。


「これからよろしくな」


 木剣をぎこちなく持ち、ノエルはキラキラした眼差しでこちらを見つめて来た。



 ──3ヶ月後



 貯金は順調だ。

 日々積み立てている分もふくめて、俺の魔力の口座も、順調に成長してきてる。


 毎日、すこしずつララが貯まっている感覚が楽しい。積み立てコツコツこそ至高だな。


「号外だあああ! 号外だあああ!」


 ノエルの別荘の外から声が聞こえてきた。

 新聞を配っているらしく、風に乗って飛んできたそれをキャッチする。


「なに? 『剣姫』レイが冒険者デビュー? 旅する仲間募集中……選考会は、年末の武闘大会で……?!」

「どうしましたか、我が師よ、そんなに呆けた顔をして」


 俺は震える手で新聞をしわくちゃにする。

 

 来た。

 ついに来た。

 一生一代の大勝負の日が。


 しかし、だとしたらまだまずいぞ。


 武闘大会には俺より強い剣士がたくさんくるかもしれない。


 それに、たぶん大会は”連戦”だ。


 時空剣をもっと気兼ねなく、自由に使えないと、すぐにララがなくなってスタミナ切れを起こすかもしれない。


「?」

「ん……す、すまない、ボーっとしてた。続けてくれ」


 ノエルは練習を再開する。

 

 しかし、どうしたものか。

 俺には継続戦闘能力がなさすぎる。


 年末まで時間があるとはいえ、いまのままでは最大まで節約した生活をして、ララを貯めたとしても、使える技の回数が限られている。


 俺はゴールドにもらった黒い指輪で、資産と、時空剣についてのステータスを確認できる映像を映し出す。


 ──────────────────


 残高

 10,104ララ


 ──【時空剣】


 技名:抜剣

 コスト:-100ララ

 備考:異界に返還すると+100ララ


 技名:装備

 コスト:-10ララ/毎秒

 備考:装備中、継続して魔力消費

 

 技名:収束重撃波・小

 コスト:-8,000ララ


 技名:収束斬・小

 コスト:-1,000ララ



 ──────────────────


 現状、俺が【時空剣】で使える技はこんなところだ。


 もっとレパートリーを増やしたい。

 というか燃費のいい技が欲しい。


 考えろ、考えるんだ。

 ゴールドはなんて言っていた?

 

『空間能力において暗黒界一、二を争う吾輩に言わせれば、空間や時間に干渉しようとするほど、高くつくものですよォ~!』


 そういって教えてもらったのが収束重撃波・小を、さらにコンパクトにした収束斬・小だ。


 でも、収束斬・小でもまだ重い。


「空間に鑑賞して、物理法則を曲げようとするからコストが重いのか? だとしたら、もっとシンプルな技のほうが……」


 例えば、時空剣を──ぶつけるとか?


 俺が技をイメージした瞬間。


 俺の顔横の裂け目から、剣が飛び出し、練習するノエルの横をぬけていった。


 時空剣は屋敷の壁に深々と突き刺さる。


 俺は驚きながらも、ステータスを確認した。

 

 ──────────────────


 残高

 9,954ララ


 ──【時空剣】


 技名:抜剣

 コスト:-100ララ

 備考:異界に返還すると+100ララ


 技名:装備

 コスト:-10ララ/毎秒

 備考:装備中、継続して魔力消費

 

 技名:収束重撃波・小

 コスト:-8,000ララ


 技名:収束斬・小

 コスト:-1,000ララ


 技名:抜剣・射出 NEW!

 コスト:-150ララ 

 備考:異界に還元すると+100ララ


 ──────────────────


 消費ララ、たったの150だと?!


「あ、新技できたわ」

「我が師ぃ! 我が師ぃ! なんでしゅか、私、なにか怒られるようなことしましたかあ……っ! うぅ!」


 ノエルは泣きながら抗議してきた。

 俺はそんあ彼女に謝りながら、今の感覚をしっかりと記憶した。

 

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