その6

 ひかり『はじめまして! 私達はーーせーの』


 全員『『『『エレメンタリーです』』』』


 ひかり『リーダーの不知火ひかりひかりです! デビューしてまだ半年なんですが、このメンバーでいつか武道館ライブしたいなって思ってます。身体は小さいけれど、夢は大っきいんです(笑) よろしくお願いします!』


 美緒『白水美緒で~す。美緒の事は~、みおにゃん♥️って呼んでほしいな~。みんな仲良し~がモットーで~す。よろしくね~』


 瑠紫亜『…………』


 美緒『ほらほら~、るーちんもご挨拶しようよ~』


 瑠紫亜『……風音瑠紫亜です』


 陽『って、それだけー?  もっと何かないのー? 目標とかやりたいこととか趣味とか』


 瑠紫亜『私の趣味……?』


 美緒『え? えっと~、るーちんの趣味は~。……あ、紅茶淹れることとか?』


 瑠紫亜『違うと思うわ』


 美緒『あれ~? 』


 優奈『ど、どーも、土浦優奈でーす。……が、頑張りましっ』


 ひかり『ちょっとー、優奈ったら緊張しすぎだよー。顔もこわばってるし、落ち着いて。リラックスリラックス』


 優奈『こういうの慣れねーんだよ……』


 美緒『ゆななんは恥ずかしがり屋さんだもんね~』


 優奈『ああ?(アイドルらしからぬ表情)』


 ひかり『はいっ、それじゃあ今から新曲「極北のペンタクルス」を歌います! 4人で頑張って練習してきたから、みんな応援してね♪』



 キレかけた優奈とカメラの間にひかりが素早く割り込んだ。

 その場を強引にまとめると、曲のイントロが掛かってきた。スタジオのライトが落とされ、その間に4人はそれぞれの立ち位置につく。


 私は4人のトークを見て不安になった。

 ひかりと美緒は良いとして、瑠紫亜の気のない返答はもうちょいなんとかならないだろうか。アイドルってやっぱり笑顔が大事だと思う。優奈にいたってはアイドルの皮がさっそく剥がれてたし、もはや放送事故だろう。


 プロデューサーが言っていたようにだからこんな感じでも通用するということなのか。素人の私が何を言うのかと思われそうだが、アイドルとは可愛いだけで売れるような甘いものでもないだろうに。



『冷たい夜にきらめくーー』


 だけど、再びライトアップされたステージで歌い始めた4人を見て、私の懸念は消えてなくなった。


 なにこれ、目が離せない。


 歌い出しはリーダーであるひかりのソロパート。鈴を転がすようなキュートで繊細な歌声が耳に心地よい。眉間にシワをよせていない《アイドルの不知火しらぬいひかり》はとても愛らしくて庇護欲をそそられる。

 ひかりちゃん、きゃわいい。ぷりちー。ひかりちゃんのためなら私なんでもしてあげられる気がする。てゆうかなんでもする。


 続いて瑠紫亜と優奈が前に出てユニゾンを披露する。

 静と動。まったく違う性格のため、からんでいる様子は無かったが、練習の成果なのか息ぴったりである。そして驚くことに、2人はその端正な顔に微笑みを浮かべていた。


 いや、アイドルだから笑顔は当然なのだが、素の言動とさっきの無気力トークの後だとギャップが凄い。そして笑うと美少女が際立ってもう駄目、まぶしくて直視できない。でもずっと見ていたい。こっち向いてくれないかな。


 今度は美緒がセンターに出て4人でサビを歌う。全員、歌唱力もあるが、ダンスも息がぴったりでキレが良い。


 知っていたことだが、美緒は身振り手振りがいちいち大げさで可愛らしく女の子らしい。それを意識しているのか、振り付けも他のメンバーよりあざとい。

 くるりとターンして、ウインク。あ、今の私にやってくれた。絶対そうだ。だって目があったもん。



「わわ、わー、みんな可愛い! 凄いなー、なんだかんだ言ってもやっぱりアイドルなんだなぁ」


 もはや私はマネージャーではなくただの観客になっていた。アイドルのステージってこんなに楽しいものなんだ。知らなかった。


「一流のアイドルってのは強烈にファンを惹き付けて、その視線を奪っていく。一度見たらね、もう駄目なんだ。また見たくなる、何度でも会いたくなる魅力があるんだ」


 ステージに見入っていた私の隣に、いつの間にかプロデューサーが立っていた。


「あの子達は全員がだ」 


…」


「この業界では逸材が現れると1000年に一度の美少女とか言ったりするんだけど、それが一気に4人も集まっている。同業の間では《4000年に一度の奇跡》なんて言われてるよ。このまま上手く活動していけば日本を代表するアイドルグループになるだろう。あの鬼女島ジョデイがごり押しするだけはある。あの人は良いものを見つけ出すのが上手いからね。大女優の風音聖良かざね せいらを旅行先の道端でスカウトしてきた話は有名だよ」


 べた褒めである。滅多に見られない美少女ばかりだと思っていたが、そこまで話題になるほどの存在だったなんて。


「そんな凄い子達だとは知らなかったです。『エレメンタリー』というアイドルグループがあることを知ったのもつい昨日の話でして……」


「ハッハッハ、何も知らないでマネージャーやってたの? そりゃ良いね。彼女達は貴重なダイアモンドだから傷つけないよう丁寧に磨いてやってよ」


 プロデューサーは面白そうに大笑いしている。

 私は背負わされた責任が想像以上に大きい事を知って不安を覚えた。


「はあ……、私はなんかがマネージャーで大丈夫なんですかね。正直なところマネージャーは未経験ですし、そもそもアイドルなんて興味が無かったし」


「興味ないわりには、ずいぶんと楽しそうに観てたじゃない」


「思っていたより可愛かったので、つい夢中になってしまって」


「なら大丈夫さ。君はもう彼女達のファンなんだよ。そんな君はあの子達が成功していく様を特等席で見ることが出来る絶好の立ち位置にいるんだ。俺達みたいな裏方の役割は演者が最高のコンディションで輝けるようにサポートすることだ。自分の育てたアイドルがドームを満員に埋めるところを想像してみなよ。ワクワクしないかい?」


 気付けばステージが終わろうとしている。


「あ、そうそう、俺は君のことも応援するよ。あの鬼女島ジョデイに気に入られるなんてきっと君はただ者じゃない。頑張ってね、新米マネージャーちゃん」


 バチンとウインクしたプロデューサーは自分の名刺を取り出した。


「困ったことがあったら相談にのるよ。……個人的な事でも大歓迎だからさ」


「ありがたく、いただきます」


 胸元に熱い視線を感じながら、私はプロデューサーから名刺を受け取った。せっかく良い話をしてくれたのに台なしだ。

 とはいえ激励はありがたく頂戴しよう。


 変に期待されても私はただの一般人なのだが、一生懸命に踊る『エレメンタリー』を観て心にある想いが芽生え始めていた。


 私もあの子達が大勢の観客の前でステージに立つ姿を見てみたい。この可愛さをもっと大勢の人に知ってもらいたい。


 なし崩しにマネージャーになったけど、4人が輝くために出来ることがあるのなら、私もその手伝いを精一杯やりたいと思った。

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