アイドルのマネージャー始めました。
その1
次の日、私は姿見の前で身支度をしていた。
今いるのは自宅ではなく、あの業界人風ヤ◯ザから目隠しして連れてこられたワンルームだ。窓から外を見下ろすと地上がはるか彼方にある。現在位置は不明だが都内の高層マンションにいるみたいだった。
備え付けられた家具のセンスは良く、内装も悪くない。ヤ◯ザに連れてこられた場所でなかったら、なかなか素敵な部屋である。
室内には私が元住んでいたマンションの生活用品が丸ごと持ってこられていた。昨日の今日なのに仕事が速い。
朝になったら迎えに来るから支度をしておけと言い残してヤ◯ザはどこかへ行った。時計が見当たらないので今何時なのかは分からないが、ヤツがくる前に支度を終えていないと面倒なことになりそうなので言われた通りにそうしている。
クローゼットの中には見覚えの無い仕立ての良い黒スーツがずらりと掛かっていた。仕事着にしろということだろう。スーツなんて替えも入れて3着もあれば十分だと思うが、そこに文句を付ける理由も無いので適当に一着選んで着た。驚くことにサイズがピッタリだった。
タグを確認するとオートクチュールと記されている。既製品では無く私専用にあつらえられた物のようだ。何故、私の身体のサイズが知られているのか。業界人風ヤ○ザから向けられていた視線を思い出して背筋がゾワッとした。
昨日、目隠し移動の最中にヤ◯ザがべらべら話していた内容によると、私を買ったのはメサイアプロダクションという芸能事務所の社長らしい。 テレビでよく見る俳優や女優が多く在籍している大手である。
借金の肩代わりと衣食住全てを面倒見てもらうかわりに、私はメサイアプロダクションでアイドルのマネージャーとして粉骨砕身しなければならない。しくじればヤ◯ザの元に戻されていかがわしい夜のアイドル活動をやらされるのだ。
私がマネージャーをやるアイドルグループは最近のアイドルブームにのっとり試験的に運用を始めたものだという。滅多にいない美少女揃いで事務所の社長は大いに期待を寄せてるとのこと。
就職してから芸能ニュースをまめに追いかける余裕が無かったので世の中がアイドルブームだとは気付かなかった。
「アイドルって高校生くらいの子だよね。何を話せば良いんだろう。うるせーババアとか言われたらどうしよう、やだなー」
なんだか気分が沈んできた。私は自分の両頬をピシャリと叩く。
「よーし、がんばろっ」
嘆いても仕方ない。もうやるしかないのだから気合いを入れよう。
ヤ◯ザの差し金だがアイドルマネージャーも立派な仕事だ。社会人としてきちんと全うするべきである。
そろそろ迎えが来る頃だろうか。
まずは事務所の社長にご挨拶をして、それから担当するアイドル達との顔合わせだ。
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