借金を背負った元OLがアイドルグループのマネージャーをやる話

はごろも

プロローグ

 「君には俺の知り合いがやってる事務所でアイドルグループのマネージャーになってもらうよ」


 色付きサングラスに浅黒い肌、高そうな白スーツを着て、履いている革靴は爪先がするどく尖っている。そんないかにも業界人風な男がにこやかに言った。


「……かしこまりました」


 私、小森めいこは従順に頭を下げた。それ以外に道はないからだ。


「知り合いに泣き付かれちゃってさー。元秘書課のOLだっけ? スケジュール管理とか得意でしょ? 期待してるからねー。なんでもそこの事務所のアイドルは癖の強い子ばかりで、なり手が居なくて困ってるらしいよ。君みたいな上玉を譲るのはもったいない気もするけど、だいぶ借りがある相手だからねー、しょうがないか」


 次の瞬間、男は柔和な態度を一変させドスの効いた声を出した。


「分かってるな? 逃げ出したらてめぇの父親がこさえた借金、そのエロい身体で返して貰うことになるぞ。……そっちの方が俺はそそるがなぁ」


 男は下卑た笑いを浮かべて、私の肢体を、特に胸元を無遠慮に眺めまわす。

 強い嫌悪感を感じたが男の機嫌を損なうと心変わりしてしまうかもしれない。表情に出ないよう耐えた。今言われた方法で借金を返していくはめになるのは死んでも避けたかった。


 父親が連帯保証人になっていた知人が行方不明になり、借金取りに追われるはめになったから逃げろ。

 スマホに送られていたメッセージを確認できたのは会社帰りにさらわれ、この場所へ連れてこられた後だった。


 法律上、私が父親の借金を返済する義務はないはずだが、この男は一般常識を言って通じる相手ではない。いかがわしい目に合う予定がアイドルのマネージャーで勘弁して貰えたのだ。最悪の道はまぬがれたと思って受け入れるしかないだろう。


 私は今までの人生を振り返った。


 そこそこの大学を出て、外聞的にも収入的にも申し分ない大企業に入社して、女性社員に人気な花方部署である秘書課に配属させてもらえた。エロい身体と言われるくらいだからスタイルには自信があるし、顔も中の上はいくだろうと自負している。

 そろそろ婚活して、30過ぎくらいにはマイホームを建てて、子供は男の子と女の子両方欲しいなー、なんて将来を夢見ていた。


「ま、せいぜい頑張ってね。体売るのに比べたら多少はマシな仕事だと思うよ」


 また、にこやかな笑顔を浮かべた男は私の肩をポンポンっと叩いた。


「……頑張ります」


 25 歳にして私の人生はドン底に落ちてしまった。 人生なにが起こるか分からないとはよく言ったものだが、ほんとに勘弁して欲しい。

 それにしても、アイドルのマネージャーって、一体なにをすれば良いのだろうか。

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