第5話

やはりなにかを感じて振り返ると、あの女がいたのだ。


「おい」


「ああ」


二人同時にそう言うと、女を見るのをやめて歩き出した。


頭の中ではいろいろな想いがぐるぐると回る。


あの女から感じる不気味さや恐怖。


俺にはもうあの女は女子高生なんかじゃなくて、人外の化け物のように思えていた。


卓也もおそらく同じだろう。


暑くもないのに額に汗をかいている。


そういう俺も同じく汗をかいていた。


学校まで二人ともいつもよりも早足だった。



「どうした、けんかでもしたのか?」


休み時間に同級生からそう聞かれた。


俺と卓也はいつも二人でおしゃべりをしているのに、今日は二人とも自分の席から動かず、黙ったままだったからだ。


「いいや、そんなことない。けんかなんかしてないよ」


俺はそう答えた。


同級生は「そうか」とだけ言った。



その日の放課後、俺は卓也と一緒に学校を後にした。


帰りもいつも卓也といっしょなのだが、その日はいつもと違っていた。


俺の家まであと少しのところで、俺はそれまでに何度となく感じたなにかを感じて振り返った。

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