優しい世界が見つかった

ネルシア

優しい世界が見つかった

遠い未来。

動物が人間のような進化を遂げ、二足歩行するようになり、思考もするようになった。


人間と獣人。

ありとあらゆる動物と人間は共存する世界だが1つ問題があった。

獣人と人間の間にできた子供だ。


彼ら彼女らは獣人の言葉も聞きづらく、人間の言葉も聞きづらい。

そのため、捨てられたり虐待されて亡くなったり、売られたりするしか無かった。


またある一家でも同じような事が起こっているようだ。


「ユ※は※※※い※子※※。」


人間のお父さんが私の頭を優しく撫でてくれる。

でも上手く聞き取れない。


玄関のドアが空く音が聞こえる。


「※だ※※。」


お母さんだ。

迎えに玄関まで行くが私のことは無視される。

いつもの事。

別に寂しくはない。

当たり前のことだから。

そして始まる大喧嘩。


何言ってるかは分からない。

でも耳を塞ぎたくなる。


「※イ※本当※※※子だ※。」


次の日も優しく頭を撫でてくれる。

でもお父さんの顔が日に日に疲れてしまっている。

心配……。

でも私には伝える手段がない……。


そしてまた母親が帰ってくる。

また大騒ぎ。

繰り返し、繰り返し。


数年後、お父さんがまた優しく撫でてくれる。


「ごめんな。」


はっきり聞こえた。

どうして?

何がごめんななの?


母親が帰ってくる。

またうるさくなる。


次の日、私の頭を撫でてくれる手は無かった。


お母さんは私を無視して知らない同じ種族である猫型の獣人の男の人を連れ込むようになった。


お腹空いた。


そう言えばご飯いつ食べたっけ……?


お母さんにお腹空いたことを示すために自分のお皿を持っていくと爪で引っかかれた。

頬から血が流れる。


私はハーフで、猫の尻尾と耳は着いてるし、人間の耳もある。

でもそれだけ。


お母さんから見たら気持ち悪いのだろう。

そこにあるから、と指さされ自分で袋を開き、お皿に入れて避難する。


また数日後、今度はお母さんが私を乱暴に外に連れ出した。


泣き叫んでも意味も持たない言葉しか発せない。


「う、ご、く、な。」


1文字1文字口を動かし、私でも理解できるように言ってくれた。

最初で最後の気遣い。


ダンボール箱の中に座り込みただ動くことを止めた。


1日、2日、3日。


渡された餌の袋の中身も半分を切った。


街ゆく人々は私を見ても笑い種にするか、ヒソヒソと話すだけ。

近寄っては来ない。


餌の袋の中身も底を着きかけ、日数を数えるのを忘れた頃、1人の人間の女性が近づいてくる。


ダンボールの中に屈んでる私にわざわざ視線を合わせるために自らも屈む。


すっと手を差し伸べてくる。


どういう意図か分からず手と顔を交互に見る。

にこりと笑いかけるその顔に安心感を覚える。


恐る恐るその手を取ると、ゆっくりともう片方の手を私の頭の方へ伸ばしてくる。


何かされるんじゃないかと身構えるが、ただ優しく頭を撫でてくれた。


「※チの※※なる?」


何か言ってくれているが聞き取れない。

首を傾げるとメモ帳とペンを取りだし、何かを書き始める。


書き終わると私に見せてくれるが字が読めない。


また首を傾げるとうーんと考え始めてしまった。

どうしていいか分からずおろおろしてしまう。


「お、い、で。」


ゆっくり丁寧に発音してくれたおかげでやっと聞き取れた。

コクコクと頷き、その人について行く。


部屋に入ると清潔……ではなかった。

ゴミは散らかり放題、服は脱ぎっぱなし。

食器も溜まっていた。


部屋に向かって指をさしてその人を見ると笑いながら頭を搔いた。

許してくれる?と言っているように思えた。


とりあえず寝室に案内されるとぽんぽんと手で合図をされる。

ここで寝てねと言いたげだ。

分かったと返答のために頷くとその人はいつの間にか寝てしまっていた。


まだ眠くないため、暇になってしまった。


お部屋のお掃除でもしよ。


家事はよくお父さんのために手伝っていた。


ゴミをまとめ、袋に入れ、洗濯するものはカゴに入れておく。

食器も洗い、床を雑巾がけする。


一通り部屋が綺麗になって満足するとふわぁと欠伸が出る。


指示された場所はお姉さんの隣。

モゾモゾと布団に潜り込み、お姉さんの胸元へ近づく。


久々に誰かと一緒にいる感覚。

暖かくて心地いい。

すぐに眠りについた。


次の日からお姉さんは仕事があるのにも関わらず、私に文字の読み書きを教えてくれた。

そのおかげで少しずつ聞き取れたり、読めたり書けたりするようになった。


その代わりと言ってはなんだが、私は家事をこなすようになった。

料理、洗濯、掃除、家事全般だ。

でもまだ外に出るのは怖い。


数年後。


「ほら、起きて結。」


「んー……まだぁ……。」


「こんなんじゃ遅刻しちゃうってば!!」


「ユイの意地悪……。」


このだらしないお姉さん、私を拾ってくれたお姉さんの名前は結。


そして私の名前もユイ。


たまたま同じだった。


「私が餓死してもいいの?」


ふざけたように言うと結が飛び起きる。


「それだけは絶対いや。」


「帰ってきたらよしよししてあげるから頑張って?」


「無理……可愛すぎ……尊……。」


「はい、ほら着替える。」


私を拾ったのは何で?

と聞いたことがあった。

単純に可愛かったからだそうだ。

でも私と暮らしていくうちに私の性格も気に入ってくれて今ではいないと死ぬとか言い始める始末。


私はお姉さんが大好き。

だらしないけど、可愛くて、私を大好きでいてくれて。

恋人になれればいいのにと思わずにはいられない。


「んじゃいってきまーす。」


「はい、いってらっしゃい。」


おでこにキスをしてあげて見送る。


「……いつになったら付き合えるのかなぁ。」


それだけがモヤモヤする。

でも獣人とハーフの私と順人間の結。

結ばれてはいけない訳でありまして、えぇ。


「まぁいいや……家事こなそ……。」


一通り家事を終え、帰りを待つ。

チク、タクと壁時計の音が響く。


「まだかなぁ……。」


時計の進みが遅い。

もっと早くなれと願うが非情にもそうはならない。


「あ、そうだ。」


棚の中に裁縫道具があったのを思い出し、取り出す。

小さなぬいぐるみでも作ろっと。

余った生地をかき集め、気が進むままに針を進める。


「……結ができた。」


無意識で作ったのにも関わらずその人形は結に似てしまった。


「……はぁ好き。」


結の小さな人形を抱きしめて再び帰りを待つ。

ウトウトしていたためかいつの間にか寝ていたようだ。


「ただいま。」


キスと言葉で目が覚める。


「んぁ、おかえりぃ〜。」


「よーしよしよしよしよし。」


喉をさすられ思わずゴロゴロと鳴らしてしまう。


「ストップ、可愛すぎ、無理、死ぬ。」


「もー、結そんなんじゃすぐ死んじゃうよ?」


「だって……ユイが可愛すぎるんだもん……。」


「今日もお疲れ様。」


その言葉を合図に結が私が座っている横に腰掛け、頭を膝の家に乗せてくる。

よしよしと頭を撫でる。


「……ねぇ、ユイ。」


珍しく真剣な声のトーン。


「何?」


ガバッと結が起き上がるとポケットから小さな四角い箱を取り出す。


「……私と結婚してください。」


開かれたその箱の中には綺麗な指輪。

しかも私の好きなニボシのデザイン。

嬉しさと困惑で涙が勝手に溢れめくる。


「……結、ダメだよ……私……捨て子だし……ハーフだし……。」


「ユイは私と結婚したくないの?」


「……そんなわけないよぉぉぉ。」


わんわんと泣き出す。

結婚したいけど、許されない。

好きだけど、許されない。


そんな私をきつく抱きしめてくる。


「私がユイと結婚することを許してるんだから、後はユイ次第だよ?」


ピタリと涙が止まる。

もう、許されていいの?

本当に?

結がそう言ってる。

私は許されていいんだ。


「……。」


黙って左手の薬指を結に差し出す。

その手を取り、丁寧にリングを嵌めてくれる。


「結、いいの?」


「ユイ以外ありえない。」


「ふふ、ありがと。」


生まれて初めての本当のキスはとても幸せな味がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

優しい世界が見つかった ネルシア @rurine

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説