第35話 シロロなりの贖罪
無事にモンスターハウスを殲滅できた翌日、ダンジョンの入り口広場の隅で、シロロが頬をふくらませていた。
理由は、隠し部屋のスイッチを押した後も、シロロへの【命令】を解除しなかったからだった。
「ふんだ。隠し部屋を見つけて、魔晶石を大量にゲットできたのはワレの手柄だろう。だのになぜワレがあのような仕打ちを受けなければならなかったのだ。納得できん」
「だから何度も言ってるだろ。ダンジョンにはどんな危険があるのかわからないんだ。斥候系のスキルがないのに、ヘタにスイッチをいじるのは危険なんだよ。それをお前が勝手にいじろうとしたから、力ずくで止めたんだ。全員の安全のためだ」
「だが結局は問題なかったであろう。中にいたのが魔物は貴様があらかた倒した。残った死にかけどもの殲滅くらいは、ワレの出番があったはずだ。なのになぜ、ずっとワレを放置し続けた!アルテナが加わったことで、ワレが不要になったのか!?」
語気を荒くしたそのその顔は、少し涙目になっているように見えた。
「そんなわけはない。だが、例えばあの部屋の中にもう一つスイッチがあったとしたら。お前はそれを押さないでいられたか?」
「それは……」
押さないと断言してほしかったが、言いよどんだのでついため息が出てしまった。そんなところがあるから、【命令】を解除できなかったのだ。
「だ、だが、魔晶石が大量に手に入ったのはワレのおかげだろう。ならば、それについて感謝の言葉があってもいいのではないだろうか」
「それはたまたま運が良かったからだ。もし俺があの集団を倒す方法を持っていなかったら、逃げることしかできなかった。そうしたらどうなっていたかわかるか?魔物の集団が迷宮に放たれて、他の冒険者たちまで危険にさらすことになるんだ。だからまたお前が勝手にスイッチを押そうとしたらならば、なんどでも【命令】して止めるからな」
にらみ合う俺たちを、アルテナがおろおろしながら見ている。だがここを譲っては、シロロはまた同じ事をくり返すだろう。
ダメなことはダメなのだと、今のうちに教えておかなければならない。
「でも、ワレなら、ブレインイーターくらいなら倒せる」
「モンスターハウスだったんだぞ。一匹や二匹じゃない。五十匹はいたんだ」
「回収した魔晶石から考えて、通常のブレインイーターが四十二で上位種が三。それとその他が十二ほどいたと思われます」
「詳しい数字をありがとう。そんな風に沢山の魔物を相手にできるわけがない。だから……」
「わかった」
急な返事の意味をつかみかねて、思わず聞き返してしまう。
「わかった、っていうのは?」
「その数の魔物を、ワレが一人で倒せると証明する。それならいいだろ」
「あのなあ……」
そういうことじゃないと言おうとしたが、アルテナに肘を引っ張られた。
「たぶんシロロは、シロロなりに
言われて、そうだったのかと納得する。
シロロが正直じゃないのはいつものことだ。素直にごめんなさいと言えないが、何かの形で許しを得たいのだろう。
今回は他人に被害が出たわけじゃないので、俺たちだけで決着をつけることができる。本人が望むようにさせてもいいだろう。
「わかった、それでいい。いま言った数をお前一人で倒せれば、今回の責任をとったことにする。自分でやるって言ったんだから、途中で投げ出すなよ」
「当たり前だ。ワレの生き様をよく見ているがいい」
そう言って拳を突き出してきた。
◇
殴り倒されたブレインイーターが、塵となって消えていく。あとには魔晶石だけが残った。
「ぜえぜえ。アルテナ、今ので何匹目だ?」
「ブレインイーターが七匹目。その他は九匹目だよ」
「うへえ、まだそれだけなのか。めんどうくさいなあ」
ダンジョンに入って六時間くらいは経っただろうか。魔物寄せの鈴を鳴らしながら歩いているので遭遇率は上がっているが、シロロがすでにバテはじめていた。
このまま続けても泥沼の殴り合いになるだけだし、そろそろ潮時だろう。
「今日はこれくらいで切り上げておこう。昨日の成果があるから、しばらくは無理する必要がないしな」
「だが、このペースでは終わるまでにあと五日はかかるであろう。ワレはそんなに時間をかけたくないぞ」
「それはあきらめろ。これ以上続けたいなら、俺たちも参加する。自分の限界を認めるのも、冒険者には必要だ」
「でも……」
「お前が頑張っているのはわかってる。少しくらい力を抜いていいだろ」
「……しかたないな。じゃあ手伝ってもらおう」
「微妙に偉そうだな。本当にしっかり反省しているんだろうな?」
「せっかく手伝ってもいいって言ってるのになんで怒られなければならんのだ。納得がいかんぞ」
「もうちょっと反省してる態度をしろと言っているんだがそれを」
「ちょっと二人とも、ケンカはやめてください!ダンジョンの中ですよ!!」
シロロが少し反抗的になった気もするが、魔力を渡す必要が減ったために【血の契約】の効果が薄れてきたのかもしれない。
扱いが少し面倒になったかもしれないが、こっちのほうがシロロにとっては自然なのだろう。ならば
これでいいかと思える。
そんな風に騒がしくしながらも、俺たちはうまくダンジョンでの毎日の仕事をこなしていった。
だがそんな日々の終わりがすぐ近くまで来ていることを俺たちはまだ知らなかった。
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