第27話 ケインズ・ブルーの後始末
【ブルー・ナイツ】のクランマスターであるケインズの語りは、とても長いものだった。
シロロだけではなく、俺もまたその長さにうんざりしたほどだ。
要点をまとめると、新人冒険者たちへの補償をするのにクランの資金を使うのだが、それをするとクランの運営が立ち行かなくなる。なのでいっそのことクランを解散し、イチからやり直す。
ということらしい。
「話は分かりました。でもそれに反対する者は多いのではないですか?」
「当然反対はあります。ですが、今でなければ補償の機会は失われてしまいます。反対しているのは、自分の地位とそれが産み出す利益を失いたくない者たちばかりです。良心が残っている者はみな、解散に賛同してくれています」
「そ、そうですか」
ずいぶんあっさりと言うが、そんな簡単な話ではないはずだ。
【ブルー・ナイツ】が採取する魔晶石の量は、クレイタール全体の半分近くになる。
解散するということはつまりクレイタールの魔晶石採取量が半減するということになり、その輸出を主としている領地経営にも支障が出ることになる。
新人冒険者を【ブルー・ナイツ】から引き離すことで出る影響については、領主代行であるロバートには了解をとってあった。だが、魔晶石採取量が半減するのは、さすがにロバートも見過ごせないのではないだろうか。
それにクランを解散すれば、攻略組である彼らもダンジョンに潜り続けることができなくなる。ダンジョンへの侵攻も遅くなり、魔晶石採取量の増加も見込めなくなるだろう。
そんな様々な心配事が俺の頭の中を駆け巡っていたが、ケインズは全く気にしていないようだった。
「悪いことをしたならその責任を取るのは当然でしょう。補償にはクランの資金だけでなく、私の資産も使います。私はクランマスターなので、自分の身を切るのは当然です。バーンさんはこちらで新人冒険者たちの世話をしているんですよね?補償の説明を彼らにさせてはいただけませんか?」
言っているのはまともなのだが、考え方が少しズレている感じがする。こんな人間をどこかで見た気がするのだが、思い出せない。
まともに取り合わない方がいい気がする。とにかく時間を空けて、冷静に判断した方がいい。
「ええと、その補償の具体的な内容は決めてあるんですか?私は以前ピーター管理官に、新人冒険者がもらうべきだった正当な支払いをするよう要求したことがあるんです。それの返事がまだなので、そちらからまずお願いしたいのですが」
「そうだったんですか。ではそちらの確認が先ですね。わかりました」
ケインズが隣にずっと座っていたミルシアに目をやると、静かにうなずいて懐から一枚の紙を取り出した。
「こちらに、私たちへの連絡手段が記載してあります。今日はこれで失礼いたしますので、何かあればこちらを使って連絡をください」
「わかりました。これから数日は私用で留守がちになりますので、次回は事前に連絡をいただけると助かります」
「えっ、明日にでもまたうかがおうと思っていたのですが、用があるなら仕方ありませんね。では三日後ではどうでしょうか?大丈夫ですか?ならそれまでに話をまとめておきますね。では、失礼します」
二人は去って行った。
いつまでも立ち尽くしてはいられないと思い直して振り返ると、同じくドアを見つめてうごかないシロロがいた。
「すごい二人だったな。さすが最大クランのトップだって思ったよ」
「……なあ、あいつら、ダンジョンに浸食されてたぞ。バーンは気付かなかったのか?」
「ダンジョンに?……ああ、そうか。どこかで見たことあると思ったら、鉱山のダンジョンマスターに似てたんだ」
言葉が通じるのに話が理解できない。
それはダンジョンマスターに共通する特徴だった。
「そういえば、第二書庫で読んだ本にあったな。ダンジョンにずっと囚われていた人間は次第に魂を浸食されていくとか。彼らは補給されながらダンジョンにずっと潜っていたから、囚われていた人間と同じように浸食されたのか」
なるほど、あまりにも長くダンジョンに留まりすぎると、ああなってしまうのか。
彼らは自主的にダンジョンに潜っていたので自業自得と言えるだろうが、だとしても最大クランのトップがああなるのはマズいのではないだろうか。
「問題が山積みだな。とにかく分かっていることだけでも、ロバートに報告しなきゃならない。まずは兵舎で通信機を借りて、ロバートに面会の予定を取りつけないと」
ダンジョンに浸食されたとしても、ダンジョンから離れれば少しずつ回復していく。それはシロロですでにわかっている。
彼らが後戻りできなくなる前にダンジョンから出てこれたことを、今は喜んでおこう。
◇
【ブルー・ナイツ】の解散騒動とその他もろもろについてロバートと相談した結果、大部分は彼が代わりの交渉をしてくれることになった。
ケインズたちがダンジョンに浸食されていることも説明し、時間をかけて話し合いをすると約束してくれた。
「後のことは任せてくれたまえ。その代わり、キミたちには別の仕事をやってもらいたい」
ということで俺は予定を大きく変更して、【清浄なる泉のダンジョン】へとやって来ていた。
「おいバーンよ。軽々しく引き受けて良かったのか?」
「新人たちへの教育はだいたい終わってたし、あとは警備隊に任せてきたから野外活動は大丈夫だろ。俺たちは外のダンジョンを潰すのが仕事だけど、見つからないと始まらない。探すのは警備隊と新人たちに任せて、それまではダンジョン探索の訓練をしようじゃないか」
俺たちが新たに依頼されたのは、【ブルー・ナイツ】が解散することによ魔晶石採取量の減少を少しでも食い止めることだった。
クランが解散したとしても冒険者が減るわけではないので、一気に半減することはない。
だが解散による影響は様々な面で出てくるので、安定するまでは採取に協力して欲しい、とのことだった。
「シロロもこのダンジョンには興味があったろ?」
「まあな。だが、ワレが気にしているのはそこではない。今回からワレらに同行する者がいるというところだ。ワレがいれば大丈夫だというのに、なぜ別な者が必要だと言うのだ」
「落ち着けよ。この【清浄なる泉のダンジョン】はずっと昔からあるせいで、大きく複雑になっているんだ。お前が強いのは分かっているが、それだけで安全に魔物を倒し続けられるわけじゃない。お前は攻撃力が高いから、雑魚よりも大物を狙う方が効率がいい。だからそのために必要な人材を紹介してもらったんだ」
攻略組のトップがいなくなったのだから、質の良い魔晶石の数が減るのは当たり前だ。
なので俺は量より質を選ぶことにした。
シロロなら、少し強い魔物相手でも倒すことができる。
少し心配なのは防御面なので、それを補うためにギルドでフリーの冒険者を探してもらった。
今日はその顔合わせを兼ねて、安全な階層へダンジョンアタックをする予定だった。
「それで、その新顔はいつ来るのだ?ワレらはもうずいぶん待っているはずだが」
「そうだな。約束の時間はもう過ぎてるはずだが、まだ来てないのかな?」
ダンジョン前の広場には、ダンジョンに向かう者と出て行く者。そしてそれら相手の露店で半分ほどが埋まっている。
広場の入り口の方をさっきから見ているのだが、それらしい人物は見つからなかった。
時間にルーズな人間は、あまり信用できないのでちょっと憂鬱だ。そう思っていたら、シロロに服を引っ張られた。
「バーン、あいつではないか?」
「えっ、どこだ?」
シロロが指さしているのは、俺が見ていたのとは逆、ダンジョンの出入り口の方だった。
そこにはフルプレートの鎧を身に纏った人物がキョロキョロしていて、兜の奥で俺と目が合うと、鎧を鳴らしながら走ってきた。
「バーンさんとシロロさんですね?遅刻して申し訳ありません。あ、兜をしたままでしたね。重ねて申し訳ありません。すぐ取ります」
騒々しい音を立てながら外れた兜の下には、輝くような金髪の、中性的な顔があった。
「自分はアルテナ・ウルフ、聖騎士です。冒険者ランクはDです。よろしくお願いします!」
アルテナはそう言って敬礼した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます