第24話 ブルー・ナイツの管理官
新人冒険者たちが仕事に慣れてきたころ、数人が街へ行きたいと言ってきた。
「家族から手紙に、薬が欲しいって書かれてたんだ。でもウチの村で使ってる呼び方が、こっちの街でのとは違うらしくて、直接見に行く必要があるんだ」
「わたしは装備の修理に使う紐とか、普通の店では売ってないみたいだから……」
「オレは大家さんにお礼を言いに行きたい」
薬の手配はすぐにでもしたいらしい。家族のことなら、急な申し出でも仕方がない。
あいにく兵士はいそがしく、俺だけでは全員を護衛するのは難しい。シロロはどちらかといえば目を離せないので護衛対象側だ。
なので後日にしてもらったり他人に任せるなどの調整をして、街へ行くのはアレックスを含めた三人にまで減らしてもらった。
少年たちは久しぶりの街でも警戒しているようだ。しっかりと冒険者として成長しているようでとてもうれしい。
いくつかの用事は街の外側だったが、いくつかは中心部に行く必要がある。
警戒はしていても、トラブルはやってきてしまうものだ。
なにせ相手はクレイタール最大のクラン。メンバーだけでもかなりの数がいる。
「あっ、コラッ、テメエら。見つけたぞ!なにも言わずに急に消えやがって。今までどこに行ってやがった!テメエらのせいで、オレたちまで雑用にかり出されることになっちまったじゃねえか。おかげで仕事が増えたうえにダンジョンの方も手が足りなくなって、管理官がブチ切れてんだぞ」
店から出てきた少年たちを見つけて、
怒声に足をすくませるアレックスたちを庇って前に出ると、眉を寄せて睨み付けてきた。
「おう、テメエは何だ。邪魔だぞ、そこをどけ」
「断る。俺はこいつらの保護者だ。そっちは何の用だ?俺が代わりに話を聞くぞ」
「保護者だ?こいつらはオレたち【ブルー・ナイツ】の下働きどもだ。テメエなんかお呼びじゃねえんだよ」
「雇用契約書は?下働きなら、クランと契約してるはずだろ」
「んなもんお前に関係あるかよ」
「あるから言ってるんだ。もうすでに俺がこいつらと契約してる。こいつらと話をしたいなら、まず俺を通してもらおう」
「……っ!テメエら、小賢しいことしやがって。勝手なことするんなら、もう使ってやらねえぞ、オイ!」
「あいにく、彼らにはすでに適切な環境で十分な給与が支払われる仕事をしてもらってる。お呼びじゃないのはそっちってことだ」
断言してやれば、男は言葉を詰まらせて睨むことしかできないようだ。
何かを迷ったあげく、舌打ちをして一歩下がる。
「くっ、ちょっとそこで待ってろ。今からユーザンさんを呼んでくるからな。いいな、そこから動くなよ!」
どこかへ走って行くのを見送ってから、アレックスたちを振り返った。
「今のうちに早く用事を済ませてしまおう。行こう」
手早く少年たちの用事を済ませていき、残るは最後のひとつになった。
薬の調整のためにどうしても待ち時間が発生してしまい、待機していたら案の定【ブルー・ナイツ】の者たちに見つかってしまった。
「ああ、いた!待ってろって言ったのに、逃げやがったな!」
「こっちもヒマじゃないんだよ。それで、何の用だよ」
「何の用だじゃねえよ!ユーザンさん、こっちです。見つけましたよ!」
「おう、騒ぐなよ。他のお客さんもいるじゃねえか。よう兄ちゃん、ウチの若いのが失礼したみたいだ……な?」
大物ぶって出てきたユーザンが、俺の顔を見るなり腰を抜かした。
尻を地面にこすりながら、後ろ手で器用に後ずさる。
「お、おま、おっま。な、あん、なんで……」
「ユーザンさんどうしたんです!?」
様子がおかしくなったユーザンを心配する男に向けて、別の男が首を振った。
「お前はあの時はギルドにいなかったんだな。あのな、ユーザンさんはあの男にコテンパンにやられちまったんだよ。しばらく様子がおかしかっただろ?その原因はアイツなんだ」
「えっ、急に長い棒に怯えるようになっちまったのって、アイツのせいなのか!ゆるせねえ!おい、テメエ。オレと勝負だ!ユーザンさんの仇を取ってやるぜ」
「おいバカやめろ!」
男たちが騒ぐ中、やっと少年たちの用事が片付いたようだ。
終わったと耳打ちされたので、後はここから出るだけなのだが、どうしたものか。
「こんな場所で何を騒いでいるのです?他のお客様にご迷惑でしょう」
またヘンなヤツが店の中に入ってきた。
シワのないパリっとした服を着た、眼鏡をかけた男だった。丁寧な言葉遣いだが、眼鏡の下で冷たい目をしている。
「管理官!あいつが、ユーザンさんをあんな風にしちまったんですよ!」
「ふむ、貴方が領主に呼ばれてやってきた、監察官とやらですか。私のシマで勝手をしてくれていたようですが、それもここまでですよ」
監察官?どうやら俺を何かと勘違いしているようだ。
「何を言っているのかさっぱりだ。とりあえず俺たちの用事は終わったから、もう帰ろうと思ってるんだ。そこをどいてもらえるかな?」
いちおう聞いてみるが、こちらの話を聞く気はないらしい。
管理官とやらはポケットから白い手袋を取り出し、俺の足下に叩きつけてきた。
「【ブルー・ナイツ】の管理官として、貴方に決闘を申し込みます。本日これより、ギルドの修練場にて五対五の勝ち抜き戦をしましょう。大将は貴方と私。どちらか倒された方が負けです。もし貴方が勝てば、数々の無礼は不問としましょう」
「断る。俺への攻撃は全部反撃させてもらうから、勝手にやってくれ」
「ふーむ、分かりました。では【清浄なる泉のダンジョン】へ入る権利もつけましょう。どうです?やるきになったでしょう」
「全然。早くそこをどけ」
「ずいぶんと強欲なようですね。では、【ブルー・ナイツ】への幹部候補としての加入を検討しましょう」
「何一つとして興味ない。俺に勝負して欲しいなら、『コイツら新人たちが正当にもらうはずだった報酬を支払う』くらい言ってみろよ。それなら受けてやってもいい」
「イよろしい!それで決まりです。さあギルドへ参りましょう。すでに話は通していますよ。さあ善は急げと言います。早く行きましょう!さあさあ!!」
管理官は機嫌良く店から出て行った。
「なあバーン。本当に良かったのか?」
「まさか即決されるとは思ってなかったよ。ひょっとして有能なのか?」
「ワレが知るか」
シロロにあきれられてしまった。
あの契約を、まさか飲むとは思わなかった。何か秘策でもあるのだろうか。
負けるつもりはないが、勝っても口約束だとなあなあにされないためにも、しっかりと書面にしておく必要があるだろう。
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