第23話 新人冒険者とシロロの活躍

冒険者の仕事は色々な種類がある。

今回俺が提案した街の外での活動は、領主代行と冒険者ギルドにとってはそれほど重要なものではない。


クレイタールは魔晶石の産地として有名であり、それ以外はそこそこといったところだ。

冒険者ギルドで魔物の討伐や採取の依頼を出していたりもするが、重要視はされていない。


なのになぜ今回の件を許可してもらえたのかと言うと、費用の半分近くを俺が出しているからだった。


先日のダンジョン攻略によって、クレイタールは鉱石や金属製品を大量に確保することができた。おかげで遠くの街から買い付ける必要がなくなり、兵士の装備の更新も安く済んだとロバートが喜んでいた。

そのため俺に回ってきた報酬も多く、余裕があったので投資することができた。


はっきり言って、今のクレイタールの冒険者ギルドは好きじゃなかった。稼げるクランが魔晶石の採取を牛耳って、他はその顔色をうかがうしかない。

そんな状況ではあらゆる場面で腐っていくと、過去の歴史が教えてくれている。


新人冒険者たちがダンジョン以外で稼ぎを得ることができるようになれば、彼らを安い労働力として使っていた【ブルー・ナイツ】は別な方法を探す必要が出てくる。

例えば他の冒険者を雇うなら、しっかりとした報酬を支払う必要が出てくる。そうして相場が確立されれば、新人を卒業した者たちも安定して活動できるだろう。


クレイタールを腐らせたくないのは、領主代行であるロバートも、冒険者ギルドも同じだった。


ロバートは一時的に魔晶石の採取量が減ることを受け入れてくれた。

冒険者ギルドは、【ブルー・ナイツ】がこの後起こすであろう問題から新人冒険者を守ると約束してくれた。

だから俺が、すぐには使う宛てのない金を出すくらい惜しくはなかった。




そうして新人冒険者が街の外で仕事を始めて数日、彼らは順調に依頼をこなしていた。

さすが若いだけのことはある。最初は危なっかしい場面が多々あったが、俺や兵士が指導をすれば、すぐに改善されていった。


「見てみてバーンさん。俺たちだけで魔物を倒せたよ!」


「すごいじゃないか、頑張ったな。教えたことをちゃんと守れたな。偉いぞ」


「当たり前だよ。先輩の言うことを聞かないヤツは、ダンジョンでは生き残れないんだ。勝手に先走って罠にハマっても、誰も助けてくれない。それが分かってるから、オレたちは生きてこられたんだ」


少年が胸を張って言う。

【ブルー・ナイツ】の指導は、かなりのスパルタだったのかもしれない。自分たちの都合のいいように扱っていただけかもしれないが、ちゃんと言うことを聞くようになっている所だけは評価できる。


現在は関所の周囲の探索を少しずつ進めている。

人数がいると言っても、彼らは初心者だ。森の歩き方も、気をつけるべき所も知らない。

まずは宿舎で基本を教え、実地でそれを確認させる。それをくり返すことで、自分がやることの手順と意味を憶えさせている。

最終的には、彼らだけで安全に探索できるようになるのが目標だ。


山の外側は人の手がほとんど入っていないので、木の生え方はバラバラで地面もデコボコだ。食べられる木の実や薬草もあれば、毒キノコや天然の落とし穴などある。なにより危険な魔物がうろついている。

基本知識の授業を嫌がる冒険者は多いのだが、彼らは自分から積極的に学んでいた。


「バーンさん!向こうに大きなクマの魔物がいたよ!!」


「バカ、声が大きい。前にも怒られたの忘れたの?」


周囲を警戒していた二人がやってきた。

怒られた方の少年は目端が利いて素早く行動できるのはいいが、目の前の一つの事だけしか見えなくなる悪癖がある。今もまた足を滑らせて、隣にいた少女に助けられていた。


「いてて、うっかりしてた。あ、そうだ。向こうに魔物がいたんだよ。大きいクマで、敵意マシマシのヤツ。怖かったから早めに離れたけど、こっちに近づいてきてたよ」


「色は赤くて大きかったか?それならおそらくレッドベアーかな。乱戦になるとやっかいだから、全員砦の方へ移動しておくんだ」


「敵か?やっとワレの出番だな!さあ、ワレの強さをしっかりとその目に焼き付けるがいい!」


「あっ、待ておい!勝手に行くな!!」


シロロが走って行ってしまったので、慌てておいかける。遠くから威嚇して追い払った方がいい。必要のない戦闘をして、怪我を負うのはバカだろう。


「クマの類いはどれも手強いから、今のお前でも苦戦するはずだ。戻れ」


「いやだ、いいかげんワレにも戦わせろ!勉強ばかりで退屈すぎるのが悪い。ここで戦わせてくれなきゃ、砦の兵士どもを組み手に付きあわせるぞ!」


「……ああ、くそ。分かったよ。だが俺も援護するからな。無茶な戦いはするなよ」


新人の訓練を始める時に、実力を見るために兵士に頼んで組み手をしてもらったことがあった。

日々訓練を積んでいる兵士に少年少女が勝てないのは当然なのだが、見た目だけなら新人冒険者に見えなくもないシロロもいつの間にか順番待ちの列に並んでいた。


そこで悲劇は起こった。

兵士はシロロのことを新人冒険者だと思い、軽い気持ちで「本気で打ち込んできていい」と言った。

幸いシロロはその言葉を本気には取らなかったが、だがなめられたと思ったようだ。

結果、その兵士は肉体的には無事だったものの、装備と心に大きな傷を負ってしまった。


「何なのこの子!普通じゃないの?ねえ、オレは何と組み手をしたの!?」


「すみませんすみません、こちらの監督不行き届きです。悪気はないんです、装備も弁償します。本当にすいません」


兵士は見た目よりもタフだったようで数日後には復帰してたが、あの時のことを思い出すと胃が締め付けられるように感じる。

あれを繰り返すよりか、熊と戦わせる方がマシだ。



報告にあった場所の近くで、新人冒険者たちを待機させる。戦闘を見るのも訓練のうちだ。


「見つけた!」


シロロが立ち止まった先に、赤い毛並みのクマがいた。森の中で目立つその毛色は、自身が強く危険な存在であることを主張している。

エサが少なく飢えているのだろう。巨体からはこちらを襲おうとする気迫のようなものが感じられた。


「シャハッ、なかなか強そうではないか。そうでないとつまらんよな。バーン、地面を濡らしてくれ」


「ダメだ。今はそこまでする必要ない。やるなら自分でやってくれ」


「なにっ!?ワレの小遣いだけでは十分な魔晶石を確保できんのだ。援護してくれるのだろ

う?いいではないか」


「俺の魔法は細かい事に向いてないんだよ。あいつ一匹に中サイズ以上の魔晶石を砕けるかっての。援護だったら他の方法でやってやるから、安心して行ってこい」


「~~~。くそっ、もういい。やってやる!」


後ろで見ている新人冒険者たちの視線を受けて、シロロはレッドベアーへ突っ込んでいった。向こうもまたそれに合わせるように、猛然と突っ込んでくる。

先に仕掛けたのはレッドベアーの方だった。シロロの突撃に合わせて前足を振り上げる。それを見たシロロは斜めに方向転換し、ギリギリで前足の振り下ろしをよけた。


一度目の衝突が不発に終わったところで、両者がにらみ合う。お互いに様子見に切り替えたのだろう。不用意には動かない。


そのまま数秒が経ったところで、シロロが動いた。

いつの間にか握り込んでいた小粒の魔晶石を砕き、魔法を発動させる。

開かれた手から無数の泡が飛び出し、レッドベアーの視界をふさいだ。

突然のことに驚いたのだろう。飛んでくる泡を前足を振り回して払いのける。その隙にふところに滑り込んだシロロが、胴体に向けて拳を振り抜いた。


「ボディが、隙だらけだっ!」


肉を打つい音が森に響いた。

レッドベアーは一瞬止まったが、次の瞬間に前足を振るった。

シロロはとっさに腕で受け、衝撃ごと後ろに跳んだ。


「くそっ、タフなヤツめ。ワレの攻撃を直撃して倒れんとは生意気な」


攻撃を受けたものの、シロロは平気そうだった。直前の一撃が効いていたから、反撃が弱かったのかもしれない。

いい攻撃をもらったからか、レッドベアーが怒りの叫びをあげる。迫力が増したが、つまり今はシロロしか見えていないということだ。


「よし、援護いくぞ」


鍛冶屋で用意してもらった、投擲用の槍を数本取り出す。皮と脂肪で防御が高いレッドベアーは、最初のテストには十分だろう。


「一投目。ふんっ!」


シロロへ近づこうとするレッドベアー目がけて、槍を投げる。

ブレながら飛んだ槍はレッドベアーの肩に突き刺さっただけで止まってしまった。


「二投目っ!」


意識の外から攻撃を受け、足が止まったところを狙う。

先ほどの失敗を生かして、今度は少し回転を抑える。遠く、狙いのその先を射抜くイメージで手を放すと、今度は先ほどよりも深くささった。

今の攻撃で、こちらを無視できなくなったレッドベアーが振り返った。


「貫通攻撃は痛かっただろ。でも、こっちを見ていていいのか?」


「お前の相手は、ワレであるぞ!」


よそ見をしたレッドベアーに、シロロが飛びかかる。


「【ウォーターボム】!」


手にした水球が放たれ、それがレッドベアーとその周囲を濡らした。


「からの、【メガロ・フリップ・ストライク】!」


相手の目の前に着地し、その勢いのままに蹴りを放つ。

水に適性が高いシロロにとって、濡れた地面は安定した足場に匹敵する。踏みしめた足から放たれた回し蹴りがレッドベアーの胸を打ち、濡れた毛皮にその衝撃の全てを伝えた。


結果、レッドベアーの巨体が宙に浮き、胴体があり得ない角度に曲がった状態で倒れた。


「どうだ見たか!ワレにかかればこんなものだ!」


シロロが手を突き上げて叫んだ。

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