第22話 新人冒険者集合
三日後、俺たちはクレイタールの北トンネルの入り口にいた。この向こうに関所を兼ねた防衛用の砦があり、その外側は魔物がうろつく未開の地だ。
アレックスたち新人冒険者には正午の鐘に合わせて集合するよう前日に声をかけておいたが、その前に全員集まったようだった。
正午の鐘が遠くから聞こえてくる。
新人冒険者たちの前に出ると、何が起こるのかと期待と警戒の混じった視線が集まった。
「よく来てくれた。最後の確認だが、キミたちは【ブルー・ナイツ】のやり方に納得がいかないからここに来たってことで間違いないな?」
「ああ、そうだ」
「それだけじゃないぞ!あいつらに一泡吹かせられるって聞いて来たんだ」
「ボクはここに来ればお金がもらえるって聞いたんだけど」
同意する以外にも色々な声が上がる。【ブルー・ナイツ】への不満がよほど溜まっていたのだろう。
「キミたちの望みはよく分かった。今日俺が提示するものは、その望みの大半を叶えることになるだろう。キミたちが努力すればするほど、その効果が高まることも約束する」
セリフの途中でわき上がった歓声に遮られる。若くて元気がいいのは良いのだが、最後までしっかり聞いてほしい。
顔をしかめていたら、シロロに脇腹をつつかれた。
「黙らせればいいのか?」
「大人しいやり方でできるんなら、頼む」
シロロは頷くと、両手を大きく広げて打ち合わせた。
パンッ!という音が大きく響き渡り、何事かと驚いた少年少女が固まっている。
すぐ近くにいた俺もびっくりしたし、耳の奥がキーンと鳴っている。静かになったので、片耳が聞こえにくくなっている違和感に耐えながら、言葉を続けた。
「黙って最後まで聞くように。次はしゃべったヤツのすぐ近くで今のを鳴らしてもらう。いいね?」
少年少女は黙って頷いた。
「まずキミたちには、新人冒険者としてとある依頼を受けてもらう。これはクレイタールの領主代行からの依頼であり、報酬もしっかりと支払われる。そして……」
後ろの方で、隣と話そうとした少年を見つけた。彼は俺の視線に気づくと、慌てて口を閉じた。
「そして、仮ではあるが宿舎も用意してもらった。大部屋が二つあるから男女で分かれてもらう。それと朝晩二回の給食がある。日中は商人が来るから、足りないものは各自そこで買い足すことができる。それから……」
周囲につつかれて、アレックスが恐る恐る手を上げる。
それに待つようにジェスチャーを返しながら、話を続けた。
「待ちきれないようだから、説明は簡単に済ませよう。キミたちの仕事は、トンネルを抜けた先、クレイタールの外側での調査、採取などの活動だ。本来は兵士の仕事だが、キミたちの事情を説明して仕事の一部を回してもらった。後で会うことになるから、それぞれお礼を言っておくように」
少年少女の反応は、驚きと戸惑いが半分。残りはよく分かっていなかったり、しりごみしていたりのようだ。
「兵士の仕事と言っても、危険な仕事をやらせようというわけじゃない。さっき言ったように、調査と採取がほとんどだ。山の向こうには森が広がっていて、そこには色々な資源があるし魔物がうろついている。兵士は安全確認のために定期的に調査をしているが、それをする手は十分じゃない。そこでキミたちに代わりにやってもらおうというのだ」
訓練を積んだ兵士がやるような仕事を、連携も何もできない少年少女に丸投げしたりしない。もちろん護衛兼指導役の兵士を数人つけてもらうし、しばらくは俺も同行する予定だ。
「これは冒険者ギルドを通した正式な依頼なので、キミたちの評価にも繋がることになる。仕事の結果によっては、さらにボーナスがつく事もある。キミたちにとってとてもいい話だ。簡単な説明は以上だ。何か聞きたい事はあるか?」
アレックスに向けて聞くと、おずおずと口を開いた。
「報酬とか、どれくらいもらえるのかを知りたい。あと、仕事の詳しい内容とかも」
「まあ当然だな。聞かれると思って、この木板にまとめてある。いくつかあるから、回して読んでくれ。読めない場合は、近くの者に教えてもらうように」
木板を手渡すと、数人でそれを囲んで見始めた。しばらくそこでワイワイ話し合っていたが、分からないことがあったようで一人の少年が質問に来た。
「この仕事を受けたら、ここから出られないの?街の中心とか行ったらダメかな」
「別にそんな縛りはない。仕事をしない日は自由に休んでいい。いや、いいんだが、しばらくはキミたちだけで街に行くのはやめたほうがいい。その時は、兵士の誰かに同行してもらうように」
「えっ、なんで?」
「キミたちは今日ここに来る時に、【ブルー・ナイツ】に何て言って来た?」
「別に何も言ってこなかったけど」
首をかしげる少年をフォローするように、アレックスがやって来て続けた。
「何も言わないでこっちに来るよう、オレが指示したんだ。言ったら絶対に止められるし。だから今頃、あいつら怒ってると思うよ。いまも向こうで何人か働かされてるヤツラもいるんだけど、そいつらにも後で何も言わずにこっちに来るよう言ってある。……もしかしてダメだったか?」
なるほどこれは【ブルー・ナイツ】の自業自得だろう。連絡すると怒られるんなら、何も言いたくなくなるに決まっている。情報が入らなくなったら、困るのは自分たちだろうに。
「礼儀という意味じゃ褒められないが、まあこの場合は仕方ないかな。それならなおさら、街には行かない方がいい。必要なものならここに来る商人から買えばいいし、仕送りや手紙も仲介してもらえるよう話をつけてある。どうしても街に行かなきゃいけない用事があるなら、前日までに言ってくれ。護衛が必要だろうからな」
「わかった」
少年が大きく頷いてから戻っていった。
続けて数人が質問をしてきたので、それに答えていく。ときどきアレックスが補足してくれるので、すぐに納得させることができた。
「だいたい分かったかな?依頼を受けるつもりになったなら、ここに一列に並んでくれ」
並ばせた先に用意してある机に、冒険者ギルドの女性職員がやってきた。彼女もまた定期的にやってきて、新人冒険者たちのギルドカードの更新などの各種手続きをしてくれることになっている。
「依頼の受領手続きを終えたものから、宿舎の方に行くように。あとで設備の案内と、明日からの仕事の説明をするから、それまでは休憩しておけよ」
「「「はい!」」」
少年少女が元気の良い返事をする。
仕事と報酬に納得し、明日から先の未来に希望が出てきたのだろう。
すべきことの第一段階はうまくいった。俺もしばらくは彼らと一緒に行動し、面倒を見ていかなければならないだろう。
これが上手くいけば、彼らにとってもこの街にとっても、そして俺にとってもいい事につながっていくはずだ。
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