第20話 情報収集と昼ご飯

魔物の発見報告書を確認していると、シロロが横から聞いてきた。


「なあ、ダンジョン産の魔物かどうかって、全部倒して確認してるのか?判断するには、魔晶石を落として消えるかどうかしかないだろ。倒すのが面倒くさいヤツとかだったらどうするのだ?」


当然の疑問だろう。

魔物の中には物理攻撃が効きにくく、魔法攻撃でないと倒しにくい、あるいは倒せないものもいる。兵士の中には専門の魔法兵もいるが、数は少ない。

見つけた魔物がダンジョン産かどうか確認するために片っ端から倒すとしたら、時間も手間もかかることになる。だが。


「その心配はないんだ。【鑑定の眼鏡】っていう、対象のステータスを確認できるアイテムがあるから、それで確かめているんだ」


「【鑑定】スキル持ちも世の中にはいるが、数が多くないし商人とかになるのが普通だ。軍としてもスキル持ち一人に頼るより、誰でも使えるアイテムの方が使い勝手がいい」


「まあそういうわけで、ダンジョン産かどうかは見るだけで分かるんだよ」


「ふーん」


今ので納得したようなので、話を続ける。


「それで西と北の砦はダンジョン産の魔物が来てるみたいだな」


「はい、西はアリを中心とした虫系の魔物が。北はパペット等の人形系の魔物が見つかってます。どちらも半年前の大規模調査では見つかっていないので、比較的新しいものだと推測できます。まあ心配はないでしょう」


とても明るい顔で言われた。


その後も細かい説明を聞く。魔物の特性はダンジョンごとに違い、同種の魔物でも全く違う動きをしてくるものもいる。この資料は観測された魔物の特徴を絵も交えてまとめてあり、かなり分かりやすくなっていた。


「なるほど、だいたい分かった。参考にさせてもらうよ。攻略を急がないなら、俺の仕事はダンジョンの捜索だな。見つけたらまずこっちに知らせた方がいいのか?」


「そうですね。冒険者ギルドでもいいですが、ダンジョン討伐についてはこちらが主導することになってます。有用なダンジョンだとしたら勝手に潰されると困りますし、報酬もこちらから出すことになりますからね。よろしくお願いします」


「了解だ。それじゃあシロロ、行こう」


声をかけるが返事がない。目をやると机につっぷして寝ていた。どうりで静かだったはずだ。


「こうして見ると普通の少女に見えますね。バーンさんはこういう子が好みなんですか?」


「違う。俺はもっとこう、大人しくて気配りができるのがいい。こいつは真逆で、勝手に突っ走っていくから追いつくのが大変なんだよ。こっちの苦労を少しは分かってもらいたいんだが、言っても聞いてくれないから困っているんだ」


「へえ、そうなんですか」


何が面白いのか、ニヤニヤ笑っている。なんとなく、これ以上ここにいたくないのでシロロを強めに揺さぶった。


「おい、起きろよ。そろそろ腹が減ってるんじゃないのか?飯を食いにいくぞ」


「ワレはイカのマルカジリ!……はっ、ここはどこだ!」


「警備隊の本部だよ。昼飯は魚料理にするか?イカはないだろうがな」


「魚料理なら、良い店を知ってますよ。案内しましょうか?」


「場所だけ教えてくれればいい」


「ええー、いいじゃないですか。理由がないと外に出れないんですよ。奢りますから、生きましょう、さあ!」


「バーン、人の金で食う飯はうまいらしいから行こう」


そういうわけで、魚料理の店に行くことになった。



案内されたのは、なかなか立派な店だった。店内は清潔で、従業員たちも明るく受け答えをしている。

シロロはメニューを真剣な顔で見てから言った。


「刺身はないのか?生の魚を一口サイズに切ったヤツ」


「サシミ?そんなの聞いたことないな。寄生虫がいるから生では食べられないぞ」


「がーん、だ。タコもないしイカもない。じゃあワレは何を食べればいいんだ!」


「自分はランチセットのエビフライにします。バーンさんは?」


「俺は焼き魚の方でいい。で、シロロはどうする?」


「デカいエビ!」


「デッドロブスターかあ。まあ奢るって言ったのは自分ですし、いいですよ」


お高いものを注文されて、ライアンがため息をついた。






「【ブルー・ナイツ】ですか?知ってますけど、また何かやったんですか?」


ライアンに、ギルドで起きた事件の話をした。どうやらそれ以外でも問題を起こしているようだった。


「問題って言っても、彼らは内輪のことだからって介入させてくれませんけどね。自分が聞いたことあるのは、使いっ走りの少年が誰かに殴られたとか逃げ出したとか、そういうやつですね。以前はけっこうあったんですけど、最近は少なくなりました」


「なくなってはいないんだな」


馬小屋で見たアレックスたちを思い出す。彼らは細かな傷は多かったが、ダンジョンで受けたらしきものばかりだった。殴られたようなアザは、見える場所にはなかった。

たとえ暴力がなかったとしても、怒鳴られるのはイヤだろう。生きるために仕事をしているのに、死にたくなるほど辛いなんて間違っている。


「冒険者はギルドに守られているので、自分たち警備隊は手出しができないんです。市民の中にも下働きの子供たちに同情的な人はいるんですが、特に何ができるとかはないんですよ。なので、バーンさんが何かやるって言うんなら手伝ってくれる人は多いと思います。もちろん自分もできることならやりますよ」


「それは助かるよ。そうだな、もしまた何か問題が起きたなら、子供の方を保護しておいてくれるか?街のことはライアンの方が目が届くだろうから、よろしく頼むよ」


「ええ、任せてください」


ライアンは力強く請け負った。




支払いを半分もつと言ったが、大丈夫だと返された。


「自分もあの子供たちのことは気になってたんです。でも冒険者同士のことなので、手を出すことができなかったんですよ。なので、バーンさんには期待してます。よろしくお願いしますよ」


そう言って、仕事へと戻っていった。

どうしてあそこまで俺を信頼してくれるのか、よくわかっていない。だが、あそこまで期待されたのなら、それに応えるべきだろう。


「俺も頑張るしかないな。シロロ、行くぞ」


「うむ、腹ごなしだな。いいだろう。うまい飯に免じて、働いてやろうではないか」


とりあえずするべきことは、市民への聞き込みだろう。

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