第19話 少年少女とバーン
ギルドを出てから少し歩いたところで、人影が立ちふさがった。すさんだ目をした少年がこちらを見ながら、ゆっくりと近づいてくる。
シロロが俺の前に出て威嚇した。
「ワレらに何の用だ。む、キサマはギルドにいたな?さてはゴリラがやられた仕返しにでも来たのか?なら今度はワレが相手をしてやるぞ」
シュッ、シュッと素振りするシロロに、少年は慌てた様子で首を振った。
「ち、違うよ。逆なんだ。あんたら強いんだろ。だからオレたちを助けて欲しいんだ」
◇
アレックスと名乗った少年に案内されたのは、街外れの農場だった。そこの厩舎に十人ほどの少年少女が集まっている。
全員が暗い顔でじっとこちらを見つめていた。
「今いるのはこれだけだ。残りはダンジョンに行ってる。俺たちは【ブルー・ナイツ】でこき使われてる、フリーの冒険者だ」
「
「所属してない。下働きをやらされて、成果を出さないと正式に所属できないんだ。クランに所属してないからって、報酬も少ししかもらえない。おかげでオレたちはずっと馬小屋暮らし。装備も十分にそろえられない。奥で寝てるアイツは、故郷に仕送りしなきゃいけないから普段の食事さえまともに食えてない。そのうちどっかで倒れるだろうし、それがダンジョンの中だったら死んじまうだろう。オレたちが生きるには、【ブルー・ナイツ】をぶっ壊さなきゃならないんだ」
アレックスは肩をいからせながら言った。
「落ち着けよ。ぶっ壊すってのは大げさだ。簡単にできることじゃない」
「じゃあオレたちは死ぬしかない。今もダメになったヤツから死んでいってる。この街で冒険者をやるならアイツらに従うしかないし、オレたちには他の街へ行くなんてできない」
「だから落ち着けって。お前たちを見捨てるとは言ってない」
「なら……!」
「何度も言わせないでくれ。最後まで俺の話を聞くんだ。いいな?」
目を合わせて言うと、不満げながらもうなずいてくれた。そのまま座らせると、全員に聞こえるように話し始める。
「俺は領主からの依頼で、この街で仕事をすることになった。それはダンジョンに関する仕事だが、【清浄なる泉のダンジョン】ではない」
「他のダンジョン?」
首をかしげる少年少女にうなずきを返す。
「そうだ。詳しい内容はまだ言えないが、ダンジョン以外にもやらなきゃいけない仕事がある。それを冒険者ギルドを通して、キミたちに依頼しよう」
その場の全員が、まだ理解していない顔をしていた。その中で座っていた一人が声を上げる。
「ダンジョン以外の冒険者の仕事って、いくらやっても大した金にならないぜ。ダンジョンに入ってた方が、まだ稼げる」
「一般の依頼が宿に泊まれないほど安いなんて、どこの街でも聞いたことがない。……だがそう言うならそうなんだろうな。わかった。俺の仕事を受けるなら、毎日の食事に困らない分の金になることは保証しよう。無駄遣いしなければ、すぐに馬小屋暮らしから抜け出せるはずだ」
それぞれが顔を見合わせ、何かを話し合っている。
俺の言葉が本当かどうか信じられないのだろう。それぞれ意見が割れているようだ。
「アレックス。俺に声をかけてきたキミがリーダーをやるんだ。依頼を受けたいメンバーの名前を、この紙に書いておいてくれ。それから、これが準備金だ。全員にまともな服装をさせるんだ」
俺のギルドカードから、アレックスのカードへ金を送った。
「ええっ、こんなに!?これだけあれば、一年中ずっとまともなパンを食ってられるぜ」
「お前だけじゃなくて全員分だ。そんなボロ着はすぐにダメになるからな。しっかりした服を買うんだぞ。いいな?」
「わかったよ。で、余った金でパンを買ってもいいか?」
「全員に分けるならな。それと、依頼を出せるまでに数日かかる。そのことも考えて使うんだ」
「おう、まかせてくれよ」
アレックスは金が入ったギルドカードを掲げて見つめている。他の少年少女も顔を近づけてのぞき込んでいる。
彼らは喜んでいるが、あの人数で分けたら半月も保たないだろう。助けるなら、早く話を進めなければならない。
街へ戻る途中で、シロロに聞かれた。
「あんなこと、勝手に決めてよかったのか?」
「あいつらを雇うことか?ダンジョンの捜索も攻略も、俺一人だと手に負えないからな。誰かを雇うことにはなっていたさ」
「一人ではない、ワレがいるであろう。前のように雨を降らせてくれれば、森の中でもダンジョンの中でも駆け回ってやるぞ」
「冬になったら、それができなくなる。雪の中でも走り回れないだろ」
「ふん、サメはどんな環境にも適応できる。今は無理でも、いずれ氷の下だろうがマグマの中だろうが泳いでやる」
「今は無理なんだな」
サメとはいったいどんな怪物なんだ。俺の知識を完全に越えている。
シロロの言うことだから信頼性は低いが、気合いで実行しそうなので余計なことは言わないでおく。
「それで、次はどこへ向かっているんだ?こっちは領主の家とは違うであろう」
「警備隊の本部へ行くんだ。ロバートから話が行っているはずだから、ダンジョンについての情報をもらいに行くんだよ」
◇
街の中心近くにある警備隊本部へとやってきた。
ここには魔物に関することだけではなく、クレイタールで起こったトラブルの情報が集まってくる。
受付に行くとすぐに奥へと案内される。小さな会議室で資料とともに待ち受けていたのは、かつての同僚であったライアン・フォレスターだった。
「バーンさん、お待ちしてましたよ!」
「おお、久しぶりだな。……って、なんでお前がここにいるんだよ」
「故郷の守備隊に入隊するって言ったじゃないですか。自分の生まれはここ、クレイタールなんです。最初は砦の守備をやるつもりだったんですけど、王国軍から出戻りしてきた読み書き計算ができる貴重な人材だと言われて、本部務めになったんです。書類仕事は肩が凝ってしかたがないです。自分は魔物と戦ってる方が性に合っているんですけど、やらせてもらえないんですよ。バーンさんがうらやましいです」
相変わらずさわやかな暑苦しさだ。
こいつを見るなり、シロロがなぜか俺の後ろに隠れてしまった。
「陽キャ怖い」とか「眩しすぎて消える」などよくわからないことをつぶやいている。
「そちらのお嬢さんが、ダンジョンで救助したという方ですね?どうも初めまして、バーンさんの後輩のライアンです」
笑顔で語りかけているが、言われた方は「シャー」と威嚇している。
「悪いが、人見知りしてるみたいだ。こいつはシロロ。色々と普通じゃないから、大目に見てやってくれ。さっそくで悪いが、魔物の情報を知りたいんだが」
「はいはい、準備してありますよ。こちらが各守備砦での魔物の発見報告です」
資料の束を見せながら、見方を説明してくれる。国境警備隊のものよりも見やすくて、自分もこれくらい見やすいものが作れたらなと思ってしまう。
「たとえばコレはバーンさんが昨日討伐した東砦のものなんですが、数ヶ月前から不死系魔物を見かけるようになったと報告があります。いちおう調査をしましたが、大した戦力ではないと放置されていました。そして昨日の襲撃ですが、これはある程度予想できていたので、おちついて対応することができました。さらにバーンさんのおかげでダンジョンも無力化され、特に問題になりませんでした」
「なるほど。本当は魔物を放出された魔物を倒してから乗り込むつもりだったのか」
「それが違うんです。戦力から分析した結果ですが、あのダンジョンはそれほど重要な場所ではないと見られていたんです。魔物の質も大したことないし、回収された魔晶石は驚くほど魔力が残っていませんでした。なので乗り込んで破壊するよりも、場所を特定したら立ち入りを禁じて枯死させる方針だったんです」
「おいおい、俺たちの苦労は無駄だったのかよ」
「そんなことありません。実際は鉱石が精錬済みと未精錬含めて大量にあったんですよね?おかげで装備の更新も早まりますし、とても助かりますよ。会計係が回収部隊と大量に招集するってはりきってましたから、報酬もすぐ支払えると思いますよ。期待しててください」
ダンジョンがダンジョンマスター解放されると魔物の発生が止まり、魔晶石がとれなくなる。それからおよそ半月かけて崩壊していくが、その代わりに他の資源を安全に回収できるようになる。
あの不死のダンジョンは地下深くに資源が集められていたので、回収するのはかなり面倒だろう。
「わかった。期待してるって伝えてくれ。他にはダンジョンは見つかってないのか?」
「はい、そうです。東側はそれだけですね。次に南側ですが、今のところ普通の魔物しか見つかっていません」
どうやら東と南は、ダンジョンがないようだった。
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