第18話 シロロのギルドカード
冒険者ギルドの中に戻ると、個室へと案内された。
「いやあ、災難でしたね。ユーザンさんは【ブルー・ナイツ】というクランの武闘派メンバーで、たびたびああいう騒ぎを起こすんですよ。今回のことで、懲りてくれるといいんですが」
案内してくれた女性職員が苦笑しながら言った。
「ギルドの方から注意はできないのか?あんなのがたびたびあったら、他の冒険者の迷惑になるだろ」
「それが、ブルー・ナイツは魔晶石を一番多く持ってきてくれるクランなんですよ。他にも新人冒険者の教育とか他の冒険者との調整とか、無償でいろいろやってくれているんです。なのであまり強く言えないんです。あ、だからって何も言ってないわけじゃないですよ。ブルー・ナイツのクランマスターとかには、ギルドからのお願いという形で伝えてあります。そのかいあって、今くらいにまで落ち着いているんです」
「アレで落ち着いているのかよ。その前がどうだったのか、想像したくもないな」
ひとつのクランが大きすぎるせいで、そこの権力が強くなってしまっているようだ。
詳しく聞くと、新人を今回みたいな強引な手法で引き入れているから、対抗できるクランが育たないらしい。
「やっぱり、【清浄なる泉のダンジョン】には近づかない方がよさそうだな」
「ええっ、領主様がブルー・ナイツをなんとかするために呼んだ冒険者さんじゃないんですか!?」
「なんでそう思ったんだよ。俺は管理できない野良ダンジョンを討伐するために呼ばれたんだ。管理できているダンジョンについては範囲外だよ」
「そんなあ」
職員があからさまに残念そうな顔をする。
そんな顔をされても困る。俺一人に何ができるというのだ。
「いつまでくだらない話をしている。早くワレのギルドカードを作って来い!」
我慢できなくなったシロロに、職員がニコニコ笑いながら水晶玉を差し出した。
「ごめんね。じゃあまずはあなたのステータスを計測するから、これに魔力を送り込んでね。ゆっくりでいいからね」
水晶玉に手を置いたシロロが、ニヤリと笑う。そして魔力を送ると、水晶玉が光り始めた。
「わあ、すごい。こんなに光ったのは初めて見たよ。シロロさんはすごい魔力を持っているね」
感心する職員に、呼吸を荒くしたシロロが応える。
「ふー、ふー。そうであろう?ワレの実力に恐れおののいたか?」
「うん、うん。すごいね。じゃあ計測結果をまとめてくるから、この書類に記入をしながら待っててね」
職員は水晶玉を持って出ていった。
シロロは置いてあった紙とペンを持ってじっと見つめた後、こちらへそっと差し出してきた。
「バーン、書いてくれ」
「自分のギルドカードだろ。終わったらチェックしてやるから自分で書いてみろよ。頑張って作ったものの方が、なまけた時よりも気分いいと思うぞ」
「……わかった」
しぶしぶと書類を書き始める。
シロロは読み書きができる。これはダンジョンコアから与えられた知識らしかった。
農民や市民の中で文字が理解できるのは、半分もいない。貴族は書類が読めないと仕事ができないから家庭教師を雇うが、貧乏な場合はそれができないこともある。
俺はもちろん家庭教師に習っている。だから読み書き計算は
「できたぞ。チェックしてくれ」
「はいはい。……うん、大丈夫じゃないか?」
「当たり前だろう。なんたってワレは天才だからな」
「さすがだな」
威張るシロロを褒めておく。この程度で素直になってくれるのなら、安いものだった。
シロロは自分で書いた書類を見ながらニコニコしている。
そのまま待っていると、やっとさっきの職員が戻ってきた。
「お待たせしました。こちらがあなたのギルドカードですよ」
シロロは渡されたカードを感動したようすで眺めている。そして、うれしそうに俺に見せてきた。
「よかったな。でもまだ終わりじゃないぞ」
「そうです。次はその書類の情報をギルドカードに記入していきます。なのでカードと書類を貸していただけますか?」
シロロが書類とカードを手渡すと、書類を平たい箱の中に入れた。箱には四角いくぼみがあり、そこにギルドカードをぴったりとはめこむ。
職員がはこの表面を操作すると、ギルドカードが薄く光った。
「はい、これで終わりです。このギルドカードに、シロロさんの情報が記録されました。新人冒険者として、これから頑張ってくださいね」
「うむ、任せるがよい。ワシがいれば百人力だ!」
再び手にしたギルドカードを掲げてドヤるシロロ。小さく拍手をする職員は、完全に子供を見守るお姉さんの顔だった。
「それでは、他に何かご用はありますか?無ければこれで……」
「いやちょっと待ってくれ。俺の用事がまだあるんだが」
「えっ、あっ、そうでした。失礼しました。あんな騒ぎがあったから、つい頭から抜けちゃってました。」
最初に受付でギルドカード見せたら誰かに話を聞きに行っていただろうに。職員がそれでいいのだろうか。
職員はまた慌てて部屋から出て行き、すぐに何枚かの書類を持って戻ってきた。
「ええと、商隊の護衛依頼と警備隊からの緊急依頼の報酬がありますね。ええと、両方とも同行者ありになっていますが……」
「もちろんシロロのことだ」
「へー。シロロちゃん、もう仕事してたんですね。すごいねえ」
「すごいのは当たり前である」
シロロを眺める職員に、仕事をするように言う。
「失礼しました。では、ギルドカードをお借りします。シロロちゃんもいいかな?」
先ほどの箱に書類を入れて、上に俺とシロロのカードを置いて操作をすると、カードが二つとも薄く輝いた。
「はい、ありがとうございました。情報の記入が終わりましたので、お返しします」
返却されたカードを受け取ると、シロロが首をかしげた。
「あれ?カードのラインがさっきと違ってるようだが」
「はい、今のでシロロちゃんのランクが上がったんです。ブロンズの茶色から、アイアンの黒に変わりましたよ。おめでとう」
「さっそくランクアップしてしまったか。さすがワレだな。ふむ、今はDランクだから、前はEランクだったのだな。ところでバーンは何ランクなんだ?」
「Cランクで色はシルバーだ」
「なんだ、ワレと一つ違いではないか。これならすぐに追いつけそうだな」
「あっ、でもCランクに上がるにはそれなりの実績が必要で……。あと今回は緊急依頼があったからポイントが高かったから……」
「シロロならすぐに追いつけるだろ。俺も手伝ってやるから、頑張ってくれよな」
「うむ、当然であるぞ!」
イスの上に立ってガッツポーズしている。この調子でこれから活躍してもらうとしよう。
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