第8話 コアの破壊とダンジョンクリア

魔人シロロが従者となり、ダンジョンコアを破壊するための障害はなくなった。

コアを破壊する時になってシロロが抵抗したが、アーシアに部屋の外に連れ出してもらうことで問題を解決した。


コアを破壊すると、ダンジョン特有の気配が消えた。ダンジョンが死んだのだ。

これからゆっくりとダンジョンのモンスターが死滅していき、ダンジョン自体も崩壊していくだろう。


部屋から出ると膝をついたシロロにアーシアが寄り添っていた。


「コアを壊されたから力が抜けた。心臓を壊された気分だ。つまり気持ちが悪くて動けない」


「シロロちゃん、本当に気持ち悪そうなの。どうしよう?」


シロロの顔色はあまり良くなかったが、今すぐ死にそうには見えない。ここに置いていくわけにもいかないので、背負って運ぶことにした。


「こんなことになるとは屈辱だ。クッコロ」


「しゃべる余裕はあるみたいだな。ところでコアを壊そうとした時に、ダンジョンマスターにならないかとコアから勧誘されたが、お前はアレを信じたのか?」


「む、どういう意味だ?ダンジョンコアは魔力さえあれば、あらゆる望みを叶えてくれるんだぞ。ワレも初期配布と地脈から回収したのを使って、ダンジョンに魔物を配置したのだ。マスターをやってない貴様は知らないだろうが、王様のような暮らしをしているダンジョンマスターもいるのだぞ」


背中でシロロが威張った。


「……そうか、お前はダンジョンの中のことしか知らないんだな」


俺はあの時のことを思い出した。



シロロが連れ出された後、コアを壊すために台座に近づくと、頭の中に声が響いた。


『ダンジョンマスターとのリンクを確認しました。コアのゲスト操作権が付与されます。正式な操作権を取得するには、眷属登録またはマスター更新を行ってください』


ダンジョンコアの前に、透明な板のようなものが浮かび上がる。手には持てないのに、指で表面をなぞることで操作ができる。

そこに示されたのは、ダンジョンマスターを運営することで得られる利益の数々だった。

老いることのない肉体や、あらゆる病を治す神薬などは序の口。ダンジョンを運営し魔力を集めることで、いずれは神のような力や王族でもうらやむような暮らしができるようになる。コアがそう訴えかけてくる。


『あなたの望みは全て叶えられます。素晴らしい未来も楽しい毎日も、全てはあなた次第です』


なるほどこれは素晴らしいものだ。シロロをはじめとしたダンジョンマスターが運営を続けたいと思うわけだ。


ただ一点だけ問題がある。

それは、これらは絶対に手に入らない幻想だということだ。


ここにあるものを手に入れるためには、幾千、幾万の人の命が必要になる。最高位のものひとつだけ目指したとしても、手に入れるには何年もかかるだろう。

それを達成するまでに俺みたいな冒険者や兵士に見つかり、ダンジョンごと討伐されることになる。


今までの歴史で、それが証明されている。

ダンジョンマスターが世界を支配したという記録は、どこにも残っていないのだ。


『あなたならできます。さあ、栄光への一歩を踏みだしましょう』


その言葉を無視して、俺はコアを破壊した。



「……というわけで、ダンジョンコアが見せたのは幻なんだ。シロロが言っているダンジョンマスターはおそらく、どこかの国で管理されてるマスターなんだろう。こんな場所にダンジョンがあったって、国は管理できない。俺が来なくても、一年たたずに討伐されてただろうよ」


背負った腕に、すこし力が加わった。


「なんだそれ。それが本当だとしたら、説明不足のクソゲーじゃないか。それじゃあ今回のマスターたちも、ほとんど生き残れないってことかよ。……まあそっちはどうでもいいけど」


そう言ったきり、黙ってしまった。


捕まっていた村人たちを連れて、ダンジョンの入り口まで戻ってきた。光が見えた時点でアーシアが真っ先に駆け出した。

ダンジョンの外へ出る前に、シロロが声をかけてきた。


「なあ、もしもここがダンジョンを運営するのに最適な場所だったら、バーンはダンジョンマスターになってたか?」


問いかけに、考えるまでもなく首を振る。


「やらないよ。他人の命を奪って宝物を手に入れても、ちっともうれしくないからね」


「ちっ、甘いヤツだな。人生は戦いだろ?力を示さないと、奪われるばかりだ。平和も幸福も、奪わないと手に入らないんだぞ」


「それこそ弱いやつの理論だよ。本当に強い人間は、戦う必要がないんだ」


俺が尊敬する父や兄のような強くて優しい人たちは、不幸にも屈っせず不運にも負けていなかった。

理不尽にも背筋を伸ばして立ち向かい、困難な状況もなんとか乗り越えようとしてたのを近くで見ていた。

だから俺もまた、あのような人たちのように成りたいと思っている。


「ふん、それこそ幻想だ。貴様が言う強さを、誰もが持っていると思うなよ」


「お前が今それを持っていなくても、いずれ持てるようになれればいいと思うよ。俺が手本を見せてやるから、それを見てマネすればいい」


くだらない、というつぶやきが背中から聞こえ、また黙ってしまった。



ダンジョンから出ると、多数の村人たちに出迎えられた。

アーシアたちを助けたことを感謝され、歓迎会を開いてくれることになった。


シロロはダンジョンに捕らえられていた旅人ということにした。服をしっかり着ていれば、只人とほとんど区別がつかない。


「ワシのサメ肌が見たいのか?主人として命令でもするつもりか?」


「別にいい。見せるな、脱ぐな」


俺の背中で寝ているうちに、動けるようになったようだ。服を着替えると、歩き回って動きを確認している。

逆に魔力と体力を吸われたのか、俺の方がダルくなっている。


「というかお前は何の魔人なんだ?ダンジョンからして、海と関係があるみたいだが」


「は?知らずにワシを従者にしたのか?なんだそれは、ワシをバカにしているのか!契約したのならステータスが見れるだろ。まさかワシのステータスを見てないのか」


「見てないな。お前から聞けばいいと思ってたし」


シロロは苦い物を口に入れたような表情をした。


「先に確認しているワシが悪いのではない。こいつがバカなのだ。そうに違いない」


「いま俺のことバカとか言ったか?」


「言っとらん、いや、言った。貴様はバカだ。だから望み通りワシの口から直接教えてやる。ワシこそ海と空と陸の全てに潜み、リア充と悪を喰らい尽くす者。血のニオイをかぎ分け、鋭い牙で斬り裂く怪物、【サメ】の魔人である!」


シロロはババーン、とポーズをとった。


「へー。サメは本でしか知らないが、そんな凶暴な生物だったんだな。どうりで強かったはずだよ」


「くっ、期待したリアクションではなかったが、まあ良しとしよう。何よりまだワレは魔人として成長途中。レベルが上がればもっとすごいことになるからな。その時になったら恐れ怯えてひれ伏すがいい!」


カッコイイポーズのつもりかもしれないが、背伸びをしている子供のように見えたのは黙っている方がいいだろう。


しばらくして、歓迎会の準備ができたと呼ばれた。


数時間後。時間を忘れて飲み食いするうちに、眠気が強くなってきた。

思わず出た大あくびを見られてしまい、歓迎会はお開きとなった。


村長宅の一室を貸してもらい、寝ることにする。

シロロと部屋を分けてもらおうとしたら、同じ部屋にしろと言われた。


「どうやら貴様と離れていると、魔力がうまく供給されないようだ。寝ているうちに動けなくなるのは困る。近くで寝るのを許してやるから、絶対に触るなよ」


「触らねーよ」


口調がうつってしまった。



名前 :バーン・ハント

種族 :只人

備考 :ハント男爵家四男

    フロルゲン砦の元隊長


スキル :カリスマ  E

     投擲    C

     魔術適性[天] C

     武芸百般  C


ステータスは平均型。



名前 :シロロサララ

種族 :魔人[モデル:サメ]


スキル:水中適性 A

    身体強化改造 C

    フィニッシュアタック C

    魔術適性[水] E


元ダンジョンマスター。コアから切り離されたため、能力値は大幅に低下している。

ステータスは攻撃力偏重型。

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