6-9:逃走劇

 戦闘である。ライティアはレイダーとナンディナが引きつけてくれているようで、冒険者たちと対峙するのはリコリスとサリュの2名のみだ。

 難なく魔物知識判定に成功して開示された敵データは以下の通り。なおリコリスのデータについては諸事情あって割愛するが、大体PCたちと同レベル程度であることを記しておく。


 サリュ : https://yutorize.2-d.jp/ytsheet/sw2.5/?id=F09gCM


 冒険者たちと同じペースで成長しているリコリスはともかく、9レベルシューターのサリュは強敵だ。戦闘特技射手の体術で、本来なら攻撃を当てることすらままならないだろう。【ディバインウォー】によって戦士系技能レベルが上昇しているとはいえ、厳しい戦いになることは間違いない。

 先制を取るも不安げな冒険者たちに、GMからギミックの説明が行われる。


 ◇戦線からの離脱

  2ラウンド目以降、PCは自身の手番に、補助動作で「銀髪の女性(リコリス)を連れて、自身の手番直後に戦線から離脱する」ことを宣言してもかまいません。

離脱方法は2種類です。

  ・説得:冒険者レベル+精神判定、目標値24(現在) ※なお、説得を行うPCに対するリコリスの感情値により、この目標値は増減する

  ・無理矢理連れだす:冒険者レベル+筋力、目標値16 文字通り、腕力にものを言わせて強制的に連れ出す。


 今回のループの元々の目的は「リコリスを生存させる」こと。なんとか1R耐えきれば、後はリコリスを連れて逃げてしまっても構わないということだろう。しかし、9レベルシューターが攻撃してくることに変わりは無い。冒険者たちが覚悟を決めたところで、戦闘が始まった。




■1R目 PC側

 まず、シエルが自身に【キュアハート】を唱え、ライティアから受けたダメージを回復する。

 続いてサリュと接敵したアル、ソレルの攻撃は出目も振るわず回避される。高い命中力をもつリズの攻撃は命中し、サリュに一矢報いたかたちとなった。


リズ : なんでしょうね、嫌な予感がします。

シエル : 僕もリコリスを連れ出せるように、制限移動だけど3mずつ近づいておくよ。

GM : ……いや、何故か自分の名前を知ってる見知らぬ他人が3mずつにじりよって来るの、怖いな(一同笑)。


■1R目 エネミー側

 リコリスはサリュに【ヴァイスウェポン】を唱え、それを受けたサリュが2丁拳銃の【クリティカルバレット】でソレルを狙う。

2発とも命中した弾丸は片方が3回転し、ソレルは瞬きのうちに戦闘不能となった。


 サリュ : 「まず一人」

 ソレル : 気絶で済んだけど、やっぱり【ディバインウォー】必要だったか……。ごめんね、地面に這いつくばっておく。




■2R目 PC側

 GM : さて2ラウンド目ですが……シエルさんとリズさんは聞き耳判定をお願いします。

 リズ : おや、なんでしょうか(ころころ)。

 シエル : (ころころ)……僕だけ成功だけど……。

 GM : ではシエルさんは、アルさんが小さな声でリコリスと会話していることに気が付きます。ただ、内容は聞こえない。

 シエル : ?……なんだろう。とにかく、自分とソレルを回復しないと……(3mにじり寄りながら)。

 リズ : 私とご主人さまはサリュさんに追撃です。(ころころ)……命中しますが、まだ50点以上残ってますね……。


■2R目 エネミー側

 続く2R目エネミー側。

 サリュの攻撃はシエルに向かうも、一発を運命変転にて回避する。そしてリコリスの視線は、にじり寄ってきているシエルに注がれていた。


 GM : リコリスは《鷹の目》もってないけど……にじり寄ってきたシエルならワンチャン殺せちゃうな……。

 シエル : 待ってた。最後の一発は頭でお願いします。

 リコリス : なんかにじり寄ってきて怖いし!(一同笑)。シエルに【リフレイン】!


 ルフランの特殊神聖魔法、【リフレイン】。

 直前の手番に行動したキャラクターの主動作を、使用者の魔法行使判定を達成値として再現する強力な魔法だ。なおこのとき再現するのが物理攻撃でも、対象は精神抵抗力で対抗する。

 再現するのは手番中の主動作となるために、サリュの2回攻撃などは2回とも繰り返すことになる。本当に強いんだこれが。




 リコリス : 「よくも、僕の友人を……っ!!」

 シエル : 「友人? 僕も―――」


 ソレル : リコリスに殺されるなら本望だよね?

 リズ : これは美味しい。

 GM : (ころころ)……一回目は抵抗抜いてダメージ24点……。2回目の行使、達成値19です。

 シエル : (ころころ)……精神抵抗、20。

 GM : 腕輪を割れば、か……。


 この時点で、シエルのHPは危険域だった。腕輪を割って精神抵抗を抜けば、生死判定を経ても死亡は免れない。腕輪を割るということは、ある意味「自分の意志で殺す」ということでもある。

 「純粋なリコリスが、襲撃されたとはいえ殺人を自らの意志で行うだろうか?」

 暫し考え込むGM、だったが……。



 リコリス : 友人を殺そうとする相手を……。僕が止めなきゃ、誰が止めるんだ!

 ソレル : 罪な男だよ、シエル。

 GM : 腕輪を割り、(ころころ)……ダメージ25点です。

 シエル : 生死判定……(ころころ)……失敗だ。


 ―――神の奇跡によって編まれた弾丸がシエルの脳天を貫き、鮮血が宙に飛び散った。


 シエル : リコリスの方に手を伸ばしながら、倒れます。悪は滅んだ。

 アル : 死前1時間の記憶は消えちゃうんですよね……。

 GM : リコリスは一瞬大きく目を見開き、後ずさりながら大声を出します。先ほどからリコリスに話しかけ続けている、アルさんに向けて。


 リコリス : 「……るさい……るさいうるさいうるさいうるさい! 僕は絶対に離れない! 絶対に……!」

 アル : 「きっと……きっとうまくいくんです……」

 リコリス : 「さっきから、なんなんだよ、お前……!!」

 リズ : ……?




■3R目 PC側

 アル : では、補助動作でリコリスさんを連れ出します! 筋力対抗……あ、《獣変貌》してなかった……。

 GM : いつもの。固定値乗せちゃってたし、してたでいいよ。

 SGM : ……《獣変貌》してたなら、交易共通語喋れてませんよね。


 全員 : あ。

 アル : ……ほんとですね。

 GM : ということは、ずっとリカント語で「ぐるるる」って言われてたってこと? こわ。そんなん泣いちゃうよ!(一同爆笑)

 SGM : ぐるる……「な、なんだよ」ぐるるるる……「なんなんだよ、お前!」

 シエル : これは怖い。




 閑話休題。

 判定としては、リズとシエルの恩寵を重ねてなんとか成功。殺人の動揺で身体が震え、抵抗もままならないリコリスを連れ出すかたちになった。


 GM : ではアルさんはそのままリコリスを連れて離脱。リズさんは、そうだな、サリュの追撃を一撃だけ受けたら、そのままアルさんを追って逃走して構いません。

 リズ : 分かりますた。では12点ダメージを食らって、ご主人様を追いかけます。

 サリュ : 「―――待ちなさいっ!」


 追いすがるサリュ。しかしその追跡を、小柄な白い影が押しとどめる。

 ナンディナ : 「想起せよ【ファナティック】。―――構えろ、お前の相手はこのナンディナだ」

 サリュ : 「……リコリス様。どうかご無事で」

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