6-7:約束の日へ
手にした羊皮紙に目を落とし、ナンディナは粛々と読み上げる。
「『葬送戦を許可する』」
「『規定により騎士団正装に身を包み、個を捨て軍として在るべし』」
「『敵対者を全て殲滅せよ。責任はすべて騎士団長、レイダー・ファランクスが負う』」
「『明確な敵対者でなき者は速やかに拘束し、本土へと移送すべし』」
「『なお今回、殲滅戦であることを考慮し、希望者には高揚の薬酒を配布する。作戦一時間前に服用すべし』」
ナンディナ : 「……伝達事項は以上である。これは本土、ライフォス・ティダン合祀神殿よりの命令である。従えぬものは速やかに聖印と剣を置き、船へと戻るがいい。後日、本土より迎えが来るだろう」
GM : 読み上げた後、一拍おいて補足のように続けます。
ルフラン島に潜むヴァンパイアが何者かは未だ不明だが、可能性が高いのはここ数か月消息不明である以下の吸血鬼と目される。
・”彫刻家”ユリシズ
・” 赫涙騒乱”ライオネット・ティア
・”偽魂愛づる毒姫”セルトトーニャ
ナンディナ : 「最悪の事態を想定しての葬送戦、かつ殲滅作戦である。騎士団支給の正装を必ず着用せよ。以上、質問を許可する」
GM : 「すべての責任は騎士団がとる」と締めくくり、騎士団の希望者に《高揚の薬酒》というアイテムが支給されます。みなさんも、欲しければどうぞ。
アル : 「えっと……これは?」おそるおそる
ナンディナ : 「……精神を高揚させる薬酒です。端的に言いまして……麻薬、ですね。人としての個を捨て忠実に職務に励むことができるようにと、神殿からの慈悲です。……おわかりですか?」
ソレル : これを渡しておこう 苦痛に耐えきれぬ時のむがいい。
GM : 本当にそうなんですよね。
シエル : 「......” 赫涙騒乱”ライオネット・ティアについて、教えていただけませんか? ほかの、二体も時間の許す限りお願いします」
ナンディナ : 「……ライオネット・ティア……ですか?」ちょっとぽかんとして。
メイン
シエル : 「……敵対する可能性のある対象は事前に知っておきたいので」
ナンディナ : 「……正式な資料がここにあるわけではないので、我々の記憶の限り、ということになりますが……」レイダー様を見つつ「そうですね。できる限りはお伝えしましょう」
そう前置きし、ナンディナは以下のことを教えてくれた。
・”彫刻家”ユリシズ:芸術家気質のヴァンパイア。アンピュルシオンの氏族であると伝えられている。かつてはバジリスクだったと言われている。人体を使用した構造物で住居を埋め尽くすことで有名。
・”赫涙騒乱”ライオネット・ティア:フラウの氏族であると伝えられている。プライドが高く、不死者以外の存在を「獣」と蔑み、実際に家畜やペットのように扱うことで有名。1年ほど前に、氏族仲間と共に討伐されたと聞かされているが、唯一灰がみつかっていない。
・”偽魂愛づる毒姫”セルトトーニャ:フラウの氏族であると伝えられている。ルーンフォークやゴーレム、妖精など「魂を持たぬもの」に異常な愛着を見せることで有名。
GM : こんな感じです。……では、皆さんよろしいかな?
全員 : はーい
ナンディナ : 「……それではレイダー様。配置につく前に、一言激励をいただけますか」
レイダー : 一歩前に歩み出て「……敵は吸血鬼とその眷属。他、立ちはだかるものは躊躇なく打倒しなさい。責任は私が取ります。……総員、準備を」
そうしてレイダーは愛用の兜と白い面頬を身に着けて、ティダンの聖印が刻まれた大楯を掲げ、宣誓する。
レイダー : 「調和と太陽と、我らが友に。この戦いを捧げましょう」
GM : 「はっ!」と一言掛け声を残して、騎士団の面々は三三五五に散っていきます。ちなみに、薬酒を望むものはそれなりに多いようです。殺人が云々というよりも、明らかな格上に挑む恐怖を減らそうという人もかなり混じっているようですね。
ソレル : 怖いでしょうよ。
シエル : ヴァンパイアなんて相当の大物だろうからね。
GM : 騎士団のトップ3に入る人が殺されてるんだもの。
リズ : そりゃ怖いでしょうよねえ
GM : さて。みなさん気になっているであろう装束ですが……純白のローブと、白い目深のフードですね。フードを完全に下すと、顔が見えなくなります。シルエットは三角形。
SGM : レイダーさんの兜と面頬は、ファランの不死隊の兜をイメージしてください。
シエル : 渡された装束を握りしめながらわなわなと震えています。
リズ : 「ちぃ、こんな衣服では、ご主人様を見失うではないですか」
アル : 「一緒にいれば大丈夫ですよ!……多分」
リズ : 「せめてなんかこう……わかりやすくリボンとかトップに巻いといていいですかねえ」
ナンディナ : 「『個を殺して軍となる』ですからね」
ソレル : 「えっと……ハンサは?」
ナンディナ : 「……うーん……軍馬扱いですから、白布を鞍かけましょうかね……。すみません、ライダーは想定されていなくて」
ソレル : 「ありがと。それで十分」
ナンディナ : 「それと敵の前に出るまではフードは上げていてもよいですが、戦う際は顔を完全に隠してください。規則ですので。もし仕留め損なって逆恨みされても『調和と太陽の騎士団』を恨むように、という配慮ですね」
アル : 「……らしいです」
ソレル : 「なるほど、意外とちゃんと考えられてるんだ」
リズ : 「そういう理由でしたら、まあ、仕方ないですね……獣変貌の際邪魔にならないといいのですが」(名残惜しく髪をもふもふもふ)
アル : 「邪魔にはならないと思いますよ……これも多分ですけど」もふられながら
ナンディナ : 「……まあ、それと。あなた方には関係ないかもしれませんが、人は、個ではなく群として自らを認識するとき。一番『効率的』な挙動ができるのですよ。……騎士には、必要なことです」
GM : さて、そんなわけで…… そろそろ出発いたしましょうか。
いそいそと、支給された白装束を身に着ける冒険者たち。なお、本当に立ち絵データとして配布されたので、折角だからと全員の立ち絵が↓になった。その結果……。
-白装束-
https://drive.google.com/file/d/1O0z4yCMV-bc_ChSdIwaJ2S9ojiO9-iHh/view?usp=sharing
GM : PCリスト怖い。もう誰が誰かわかんない。
リズ : 恨みを買わないようにね!
アル : さて今喋ってるのは誰でしょう?
シエル : これでばれないね。
GM : では気を取り直して……君たちは白い装束に身を包み、夜闇にそっと身を滑らせる。
森の中の無言の行進は、数時間にも及んだ。
壁の前にたどり着き、星空の下、君たちは静かに『その時』を待ち続ける。
フードを外し、静かに空を見上げていたディナが、ふと何かに気が付いたように顔を上げる。
ナンディナ : 「……ああ、初雪ですね……」
GM : 白いものがちらほらと、蒼黒の天から舞い降りてきています。
アル : 「雪なんて見るの初めてです……」
ソレル : 「そっか、そうだよね」
シエル : 「そうなるんだね」
リズ : 「……? どうなさいましたか」
レイダー : 「各員、足元に気を付けるように。スパイクの用意を」
GM : そっと舞い降りる初雪にそれぞれの記憶を重ねつつ、時はゆっくりと過ぎていく……。
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……おはよう。誰もいない部屋の片隅に、そう囁く。
そうして何回目かの朝が来た。
うららかで穏やかな、それ故に有難き朝だ。
夜も明けきらぬ静寂の中、私は一人、神に日供を捧げ奉る。
幾度となく繰り返した所作。
幾度となく紡いだ祭詞。
―――これに神への懺悔が加わったのは、いつの頃からだったか。
子ども一人導けぬ、未熟な自分をお許しください。
神の理想に応えられぬ、脆弱な自分をお許しください。
されど、この身は貴方の従僕なれば。
せめて歩みだけは止めぬよう、どうかお見守りください。
差し込む朝日をこの身に受けて、愚かな私は、今日も一歩を踏み出した。
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