6-3:少女の告解
葬儀が終わり、拠点とするイグナチオ家別邸に戻った後も、騎士団の中には重苦しい沈黙が蔓延っている。
ところどころで囁き交わされる小さな呟きを耳で拾うところ、「まさか、この任務で殉教者が出るとまでは思っていなかった」というのが実情のようだ。
正確には、戦場でない場所であんな形で騎士が散るとは思っていなかった、というべきか。
ミラージより公的に派兵された誇り高き精鋭であるがゆえに、日常の裏で人知れず始末されるというような……「称えられるべき勇猛な死」ではないものが傍にあることを知り、恐れをなしているようだ。
リズ : 「しかし……噂話ではないですが、いつ、どうやって、あんなことになったのでしょうね」
ソレル : 「わかんない、何も……」
アル : 「ぼくたちがセルフィさんを探してた間もセルフィさんは……うぅ……」
シエル : 「彼女が行方をくらましたのは、ちょうど一週間前の夜の事でしたっけ?」
リズ : 「ええ、たしかそのくらいだったかと。特に何事もなかったのですよね。交代のはずが来なかった、くらいのお話でしたし」
ナンディナ : 「…………あの時に……」
GM : ぼそりと呟いて、不意にディナは座っていた補佐机から立ち上がります。周囲の騎士たちが突然の動きにぎょっとする中、レイダーの前まで歩み寄る。
ナンディナ : 「レイダー様。進言いたします」
レイダー : 「なんでしょう」
ナンディナ : 「此度の任務、騎士団による葬送戦と位置づけるべきです」
「セルフィは高位のティダン司祭です。単独行動も認められる強き騎士であり……この場にいる騎士の中でも上位の実力者でした。その彼女が、あのような形で敗北する相手となれば……並大抵の覚悟では討伐しえないでしょう」
GM : 具体的に言うと、セルフィは7レベルのティダンプリーストでした。セージ技能とレンジャー技能もあったようです。
リズ : 強い。騎士様ですからね。
GM : ナンディナは更に、遺体から血が抜かれていたこと、ブラッドサッカーが出没していたことを話します。高位のヴァンパイアの介入を、疑ってしかるべきでしょう。
ナンディナ : 「まさに、神殿の総力を挙げて叩き潰―――神殿の総力を挙げて対処するに値する相手ではありませんか」
レイダー : 「(少し考えるように)……確かに、そうですね。遺体の状況からしても、吸血鬼の存在は警戒すべきでしょう。……少々、分かりやす過ぎるきらいはありますが」
GM : 「葬送戦」についてこの場では詳しく説明しませんが、あの白い装束とか使う、「特別に儀礼的な意味をもつ戦闘」にしましょうって感じです。
SGM : ではレイダーは暫しディナの目を見つめていますが……ゆっくりと頷きます。
レイダー : 「……良いでしょう、葬儀とは故人を送り、遺された者が前に進むための儀式です。それが、貴方の弔いになるのなら。手続きは任せますよ、ディナ」
ナンディナ : 「……はい」恭しく礼をする。
レイダー : 「……しかし、そうなると問題はあの壁ですね」ふーむという顔。
ソレル : 「あ、そういえば。昨日戦った時はあの壁なかった気がするんですけど。今の話だとずっとあったんですよね? 警護中も」
レイダー : 「……その通りです。ディナ、貴方は気づきませんでしたか?」
ナンディナ : 「……申し訳ありません。昨夜は……昨夜は、気が動転していて……。ただ、壁はずっとあった筈です」
シエル : 「壁は見えないから、しょうがない所はあると思うよ」
ナンディナ : 「……お気遣いありがとう、ございます。しかし、昨夜、ソレル殿の言う通り壁がなかったとすれば、もしや、壁があるときとないとき、条件が―――」
「か、『壁』の破り方、わたくしが存じております!」
GM : と、突然部屋の入り口の方から声が聞こえてきます。振り返ると、声の主はピンク髪の少女。カルミアさんです。
アル : 「カルミアさん……!」
シエル : 「……カルミアさん?(まさか、裏切りって……)」
リズ : このループだと初めて会うのでしたっけ。
アル : ずぶ濡れで運び込まれてたはずです。今は確か、お屋敷で寝てるはず?
ソレル : そうだね。このループだと2回目、かな。
GM : はい。これまで昏睡状態だったはずのカルミアが、入り口の扉に寄りかかるように佇んでいました。
レイダー : 「……ご息女殿? お身体は宜しいのですか?」
カルミア : 「だい、じょうぶです。いえ……いえ、たとえ大丈夫でなくとも、伝えなくてはなりません。ですから騎士様がた、どうかお助けください……!」
少女は寝たきりで萎えた足を引きずるように、騎士と冒険者たちの前に歩み出る。
「昨夜の話、父母から聞き及びました。わたくし、わたくしは……。その、吸血鬼のもとより、逃げ帰ってまいったのです……」
GM : 震える腕で自身を支えながら、カルミアは嗚咽混じりに告白します。
カルミア : 「……も、もっと早く、お伝えできていれば……」
ナンディナ : 「……」慌てて体を支え、ソファに座らせつつ「ご息女殿、お話をお聞かせ願えますか」
ソレル : カルミアかわいいな……(現実逃避)
リズ : かわいいですけど、でもこれどうなっているんでしょう。
アル : カルミアさんが「全部分かってたのに」みたいに言ってたのってこれだったんでしょうか?
シエル : カルミアちゃん、一生後悔してればいいと思うよ。(一同笑)
ソレル : 強火だなぁ……。
アル : 風当りが強すぎる。
GM : ふふっ。カルミアは時々休息を挟みながら、以下のような内容を話します。
・カルミアは、ルフラン神の信徒である。
・壁の向こうにあるルフラン教の庵にもたびたび訪れ、そこに暮らす人々と交流を深めていた。しかしある時吸血鬼が屋敷に現れてから、みんな人が変わったかのようになってしまった。
・彼らは吸血鬼に言われるがままルフラン神の信者を地下室に閉じ込めては、吸血鬼の『食事』として差し出している。
アル : なんかそれっぽいツンデレさんがいたような……?
シエル : 窓に頑なに近づこうとしない子でしたね。
リズ : カーテン引いて欲しがってましたね。
SGM : やだなぁ、ただお肌に気を遣ってるだけかもしれませんよ?
ソレル : そうだね!(諦め)
GM : カルミアは当然反対し、止めさせようとしましたが……そのまま地下に幽閉されてしまった―――。そう語りながら、震える指でスカートの裾を開きます。太ももの内側、そこには痛々しい二つの穴が開いています。 今までの話の流れ的に、恐らく吸血鬼の牙によるものでしょう。
ソレル : 吸いやすいと思う。太腿の付け根か手首か首がおすすめ。
GM : 血管通ってますもんね。ふといやつ。
SGM : ぼくは手首派!
リズ : 手首派にもう一票!
シエル : 首だと、対象への致命傷になり得るんですかね?
アル : 何の話をしてるんですか……。
カルミア : 「……わたくしはひとりだけ、命からがら逃げだして。おめおめと一人だけ生き残りました。なんとかこの屋敷にたどり着いたところまでは覚えているのですが……眠りこけてしまっていたなんて…………」首を振る
リズ : (おい、聞いてた話と違うぞ? の顔でシエルを睨む)
シエル : リズさんは一旦スルーします。
カルミア : 「……わたくしが知っている限り、『壁』とは、ルフラン教の張る結界です。本来は悪しきものを遠ざけるために張るもので、警戒のために張っていたものだと思います」
GM : カルミアによるとその結界は一週間しか効果が保たないもののため、高位の司祭がその都度張り直していたようです。ただ行使に一時間かかるので、その間は無効化されている。
カルミア : 「わたくしが知っているころと変わりがないのであれば、日曜の午前2時から3時の間に、張り直しの儀式が行われているはずです」
ナンディナ : 「……今日は日曜ですね」
レイダー : 「なるほど。ちょうどその時間だったわけですか」
カルミア : 「……おそらく。ですので、その間に潜り込むことができれば、結界の心配はいらないかと。……どうか、騎士様方。お助けください……」
GM : そこまで話すと、カルミアは痛むかのように頭を抑えながら、ソファに身体を預けます。そこまで長くは無理でしょうが、いくつか聞きたいことがあればどうぞ。
シエル : 「……カルミアさん、いくつか質問があるんだけどさ。まず、その吸血鬼さんっていつごろ館に訪れてきたの?」
カルミア : 「おそらく、1か月ほど前……でしょうか? 自分が眠りこけていた時間が、いまいちつかめておりませんので、厳密にいえば間違っていたら恐縮ですが……」
シエル : 「ありがと。それと確認なんだけど、『カルミアさんは仲間だった人を説得しようとしたんだけど、地下につかまってしまい、吸血鬼に噛まれた』であってる?」
カルミア : 「は、はい。説得しようとした当初は普通に話を聞いてくださっていると信じていたのですが、気を抜いた瞬間に……首を絞められて……」
シエル : 「……吸血鬼の牙には噛んだ対象を魅了するの能力が備わっている。高名の冒険者でも抵抗が難しいほどの強力な呪いだ。ましてや一般人の君が噛まれたとなれば、奇跡でも起こらない限りまず魅了されているはずだ」
アル : 「シエルさん、疑うのは……!」
シエル : 「地下に囚われていた一般人のカルミアさんが、非常に幸運にも魅了されずに、さらに地下から抜け出すことに成功したというのはちょっと不自然にも感じるんだ。どうやって抜け出したんだい?」
カルミア : 「え……?」
シエル : 「ごめんアルちゃん、これはとても重要な事なんだ」
カルミア : 「ええ、と……必死だったので、細かいところはうろ覚えなのですが……もともと地下は、通路になっていて、森の方に抜ける道があったんです」
「ほ、ほかの方が連れていかれるときに……鍵が閉まらないよう、色々と鍵穴に詰めて……」
「部屋を出て」
「森の方に抜ける通路には、バリケードが作られてたんですけど」
「わたくし、体が小さいので……隙間から……」
「そのあとは、とにかくがむしゃらに森を抜けたことしか覚えてません……」
シエル : GM、嘘かどうか判断したい。達成値は(ころころ)……18か、指輪も割って、達成値20。
GM : では、カルミアが本当のことを言っていることがわかるでしょう。……ここで、ナンディナが口を開きます。
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