1-4:剣戟は洞窟に木霊す

GM : 皆さんは話し込んで、夜はすでに深夜。盛り上がった笑い声がほんの一瞬途切れる瞬間があって……。

GM : 少し、違和感を感じます。その違和感の正体には、すぐに気が付くでしょう。

GM : 音が、聞こえません。


GMのその一言で、流れていた穏やかなBGMと雨音のBGSがピタリと止んだ。


シエル : 演出!

ソレル : リアルに干渉してくるとは、恐れ入った。


それまで笑い声の切れ間には、波のさざめき、風の音、そしてなにより降り注ぐ雨音が心地よく響いていた。

しかし今は、不自然な程の静寂。

お互いの、息づかいのみが聞こえてくる。


カルミア : 「……?」

アル・ウリーミア : 「雨……、あがったんですかね?」

リズ : 「あら……、見に行ってきますか?」

カルミア : 「そう、ですね。見に行きましょうか。雨が上がったなら、きっと星も見えますよ。この島から見える星空、とてもきれいですから。皆さんと一緒に見たいです!」

GM : そういって、君たちは立ち上がり、洞窟の外に向かって駆けていく。


----

■外


先ほどまでの風雨が嘘のように、洞窟の外は静まり返っていた。

耳を衝くような、痛いほどの静寂。

風が止み、雨が止んだ。それだけでは説明がつかないような静寂の正体は、目の前に広がる海原にふと、視線を向けて気がつくだろう。

───海から、一切の波が消失している。海があったはずのその場所には、鏡のように平らかな水面が広がってた。星空と、煌々と光る月が映りこみ、まるで水平線を挟んで夜空が二つあるかと錯覚してしまいそうなほどの、完璧な鏡の水面。


GM : 貴方たちの目の前で、ちかりとその一部が瞬いたかと思うと、不意に、流星が、空と海と両方に線を引きました。

GM : 流星は1つだけではなく、2つ、3つ。4つ。5つ。やがて、数えきれないほどに。


GMの描写に呼応するかのように、セッションルームの画面にも、流星雨が降り注ぐ。光の尾が降り注ぎ、PCは、PLは感嘆の声を上げる。


アル : 本当に凝ってますね……。

リズ : 演出、綺麗です!

GM : 瞬く間に、空一面を、流星が描く曲線軌道が埋め尽くします。

GM : 星自体が燃え尽きた後も、その煌めく軌道は消えずに、焼け付くように空に残り……夜空に、徐々になにかの文様を描き出します。


PL達の見つめる画面に、PC達の見上げる夜空に描き出された紋様。それは、まるで──……


カルミア : 「流星で描いた魔法陣……」

GM : みなさんの背後で、カルミアが小さく呟いたのが聞こえました。


アル : 「きれいです……」

ソレル : 「初めて見た……」

シエル : この魔法陣、あの見えない壁にあったのと同じだ……。

GM : 魔法陣は空一面に、この島を覆うドームのように広がっていきます。それとともに、微かな虹色の揺らめき。


GM : 彼女───カルミアは、静かに星空を見上げています。どこか呆然とした顔で目を開いて、独り言のように、あるいは自身の言葉によって記憶を掘り起こしているかのように、微かな囁きを続けています。

カルミア : 「……見たこと、ある。わたくしこれ、前に見たことあります。あの夜。夜空の写し鏡みたいな海、流れ星の魔法陣、それから……それから……」

シエル : 「カルミア、記憶が戻ったのかい?というか、今の状況の説明が欲しいかも。もしかして僕たちヤバイ?」

カルミア : 「……」

GM : さて。


と、ここでおもむろにダイスを振るGM。選ばれたのは……。


GM : 皆さんが夜空を見上げている間……、洞窟の奥から、がたん!と何かしらの音が聞こえてきます。

GM : そちらをみると、とらねこがひょっこり。口には、器用にサーペンタインガン咥えてます。

リズ : 「え……あれ!?」

GM : 猫はくるくるとその場で回った後……、驚くほど身軽な身のこなしでみなさんの足元を潜り抜け、銃を咥えたまま駆け去っていきます。走り去っていった先は、海岸洞窟の奥です。

リズ : 「ああああああー!!!私の、私の銃!!!」と、全員に聞こえるように悲鳴をあげます

アル : 「リ、リズさん?」

リズ : 「トラが!トラが咥えて走ってっちゃったー!」

GM : それと同時に、カルミアが突然ふらふらと走り出します。

カルミア : 「そっか。そうだ。行かなくちゃ……!」とこちらも、合わせて洞窟の奥の方へ。


ソレル : 「まとめて追いかけよう!」とハンサに乗って後を追います

シエル : 「ちきしょう、いったいこの島で何が起こってるんだよ!?」と走って追いかけます

アル : 「みなさん、待ってくださいー!」


---

GM : 洞窟の奥。


軽やかな足取りで駆けていく猫と、覚束無い足取りながらも走る桃色の髪の女性。

彼らはすぐに、シエルが昼間見つけた『見えない壁』までやってくる。しかしそこには最早不可視の壁などなく、銀に光る神々しい魔方陣がその行く手を塞いでいた。


GM : カルミアが自然な動作で魔法陣の中央に触れると、中空に、大きな銀の渦と目を象った文様が浮かび上がります。

GM : ……次の瞬間、魔方陣は跡形もなく消え失せました。

カルミア : 「……あれ、わたくし、どうしてここに」

とらねこ : 「みぃ!」

アル : 「まってくださいー……!」お、おいつきました……!

リズ : 「銃返してー!!それがないと……私、私、また役立たずになっちゃうからー!!」

GM : とらはその様子を見ると一言鳴いて、追いついてきたリズさんの足元に銃を差し出します。ごめんね、というように体を掏りつけながら。


ソレル : 「カルミアさん、大丈夫?」

カルミア : 「は、はい? はい。大丈夫ですけど」

シエル : 「見えない壁が消えて……、先に進めるようになってる?」

GM : なにがなんだかわからない、と騒然とする皆さん。壁が消え、その向こうが見通せるようになっています。瞬間───。

GM : 黒い影が数体、ふわりと皆さんの周りを取り囲みます。同時に感じる殺気。壁の向こうに閉じ込められていたものが、あふれ出てきた。そんな印象を受けます。

とらねこ : 「みん!」

GM : とらはそのまま奥に駆け去り、黒い影たちは残されたみなさんに襲い掛かってきます!


戦闘である。

ソードワールド2.5は複雑なデータ処理を行うことで、綿密な戦闘模様を表現することができる。

が、このリプレイでは戦闘の様子全てを書き起こすことはせず、ダイジェスト程度にとどめることをあらかじめご容赦願いたい。


シエルの魔物知識判定の結果、黒い影は3体のインプであることが判明した。低レベル帯の敵ではあるが魔神の一種には違いなく、そのデータは同レベルの魔物と比べ強力なものとなっている。決して、油断して良い相手ではない。

先制判定は危なげなく成功し、PC達の先手だ。


■1R目:PC側

先ずはシエルが《フィールドプロテクション》を唱え、防備を厚くする。続くアルが【切り返し】による攻撃を行うが、どちらも失敗。空を飛ぶインプの姿を捉えることができない。

アル : これ、後々大丈夫なんでしょうか……?


この時既に感じていたように、今後アルは幾度も命中判定に苦悩することとなる。勿論、そのための【切り返し】なのだが。


リズ : 「てめぇ、うちのご主人に手ぇ出すな!」


まだ手は出してない。

アルの後詰めとばかりに放たれた、リズの《クリティカルバレット》。なんと、いきなりのクリティカル。インプを一撃で撃ち落とすファインプレーを決めた。


アル : 「リズさん……すごいです……」はわー


残るソレルは【挑発攻撃】を宣言。インプ一体の挑発に成功する。ダメージこそ伸びないものの、挑発されたインプは次ラウンド、回避に優れたソレルを攻撃しなくてはならなくなった。ハンサも続くが、攻撃はあえなく回避された。

これで、PC手番が終了。敵エネミー側へと手番が移る。


■1R目:エネミー側

GM : 挑発されてるインプはソレルへ攻撃。されてない方はランダムに……(ころころ)、アルさんを狙います。


この攻撃に、ソレルは余裕の回避。飛行で命中+1があるとはいえ、高い回避力をもつソレルに当てるのは至難の業といえよう。残るもう一匹のインプは、アルへと攻撃する。


アル : 回避は失敗!8点受けて……うぅ、HPが半分くらい減っちゃいました。

GM : さらに、インプは攻撃が命中した相手に麻痺毒を与えます。生命抵抗に失敗すると、命中と回避にマイナス修正を与えますよ!

アル : それは厳しいですが、なんとか……(ころころ)う、出目3!?抵抗失敗、しびれちゃいます……。

リズ : ご主人ー!?

ソレル : か弱いなぁ……。


インプはアルに麻痺を与えるなど十分善戦したが、最早勝負は決しつつあった。回避盾であるソレルは常に一体のヘイトを稼ぎ続け、喰らったダメージはシエルが回復、後衛のリズが火力を出す。オーソドックスかつPC達にとって理想的な展開が続き、そして最後はアルが威力表を回してインプをたたき伏せた。


GM : 君たちの勝利です!おめでとうございます。

アル : 「はぁぁ……ありがとうございます……」

リズ : 最後に跳ねましたねー。

シエル : 「ぴゃあああああ、剥ぎ取りがうまい!!」

GM : とらちゃんはいっちゃいましたが、カルミアはここにいるので10分は猶予があることにしましょう。休憩もしないといけませんしね。


カルミア : 「…………」

GM : ぼうっと奥を見つめているカルミアは、何とも言えない顔で自分の手を見つめています。

カルミア : 「皆さま、先ほどは大変失礼いたしました。なんだか、頭がぼうっとして……。とらちゃん、行ってしまいましたね」

ソレル : 「一息ついたら探さないとね」

カルミア : 「……はい。それに可能なら……わたくしも、とらちゃんがいった奥の方に向かってみたいのです。頭がぼうっとしている間、あちらにいかなくちゃと感じていて」

ソレル : 「それなら一緒に! きっと何かわかることがあるよ!」

アル : 「外の魔法陣も気になりますけど、とらちゃんも立派なぼくたちの仲間ですもんね!」

カルミア : 「ありがとうございます……」


GM : では、君たちは体勢を整えたあと、洞窟の奥に向かいます。そこには明らかに人工的な、岩を削って作った階段があります。濡れた足で歩いたからか、とらの肉球の跡が点々とついています。

GM : ……のぼりますか?

ソレル : のぼる!

GM : ではあなたがたは階段を上り、狭い通路を抜け……やがて、星灯の差し込む出入口を見つけます。


階段を上りきるとそこは崖の上―――島の中央に続く森の中だった。しかしこの周囲だけは妙に開けている。何故かと周囲を見回すと……、周囲の木々が、焦げたまま立ち枯れている。炭のようになった真っ黒な木々が、無数の、墓標の如く周囲に突き立っていた。


GM : ……すぐに、火事の後だということが見て取れるでしょう。


そしてその立ち枯れた木々の中、一軒の廃墟が横たわる棺のように佇んでいた。

かつてはそれなりに整った屋敷であったのだろう景観は、今や見るも無残な有り様だ。屋根は風雨に晒され続け、最早元の色すら分からない。蔦や雑草は壁を、床を喰いちぎり、ひび割れた壁の隙間には、小さな蜥蜴が我が物顔で鎮座している。


GM : ……それだけであれば、ただ放置された建物でしかない。しかし奇怪なのは、その出入口。窓という窓は木板で執拗に打ち付けられ、入り口の扉も、バリケードのようなもので閉じられているのです。まるで、中の『何か』を閉じ込めようとでもしているかのように。

カルミア : 「…………」


―――しかし、ふいに冒険者たちの目の前で、扉のバリケードがぱきん、と音を立てる。その音を皮切りに、バリケード全体が音を立てて崩れ落ちる。支柱を欠いた積み木細工のようにバリケードは崩れ落ち、朽ちていく。

最早瓦礫の一部と化したバリケードの向こう。館の扉が、きぃ……と小さな音を立てて開く。

冒険者たちを、歓迎するかのように、


GM : バリケードの残骸を踏み越えていけば、容易に中に入ることが出来そうです。

ソレル : 「なんか、嫌な雰囲気……」

アル : 「カルミアさん?無理しなくても……」

リズ : 「そうです、中に何がいるかわかりません。危険では?」

カルミア : 「……いえ。入らせてください。わたくしは、中に入らなければ」

カルミア : 「そうすれば、思い出せる気がするのです。……それにこの屋敷は、危なくないです。大丈夫です」

カルミア : 「『わたくしたち』には……彼らも、危害を与えはしないはずですから……」

シエル : 「彼ら?」

GM : シエルの言葉に、カルミアは曖昧に微笑んで、館の扉に手を伸ばします。


冒険者たちは、屋敷の中に進んでいく……。

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