きもダメし

ta-KC

きもダメし

「ただいま」

扉を開けた隙間から光が入り込み玄関を照らす

まだ暗い部屋に声は吸い込まれる

特に誰に向けたわけでもなく、意味などない行動

幼いころからの習慣の一部、ある意味儀式を行い玄関に足を踏み入れる

バイト終わりのつかれた体はだらだらと廊下を過ぎ

リビングの電気をつけるため手を伸ばす

すこし広めの1LDKに灯がともる

一連の行動を終えるとそのままシャワーに向かいとりあえず汚れを落とす。

やっと一息つくころには午後11時を回っていた。

「ふぅ、ではではっと」

PCに電源を入れ、同時にタブレットをスワイプする

動画サイトのアプリをタップしたあと大学で出されたレポートを片付けるためPCに向かう

「えーっと・・・うん・・・」

カタカタ、カタカタカタ

キーボードを軽快に鳴らしながらその作業をサポートさせるべく動画サイトを再生する

大学→バイト→宿題・・・

特に何もないときはこれの繰り返し、その中の些細な刺激

動画サイトをみること唯一の楽しみである

動画サイトでは配信者がさまざまな思考を凝らしいろいろな動画をあげている

その中でも心霊系動画は僕のお気に入りだ

『今音しなかった?え?ヤバい!?』

動画内で廃墟を探索しながら怯えたように男性は挙動を乱す

【ほらほら、いい感じになってきたここからが見どころだな】

心の中でテンションが上がってきたころ突然スマホが鳴る

このタイミングに少し驚きながらも液晶を確認

そこには“よしき”と表示されている

小学校のころからの幼馴染いろいろやらかしてきた悪友

確認後電話にでる

「もしもし?たかしバイト終わったか?」

すこし間延びした気怠そうな声がきこえる

「終わったよ。どうした?」

いつも同じ、慣れた感じで返事を返す

「お疲れ~、今度の日曜日空いてるか?輝明(てるき)と翔太(しょうた)、そんで佳奈(かな)と集まって遊ぼうって」

遊びのお誘い、ありがたいことにバイトは休みだ

「OKだよ!」


「了解!!じゃ今度の日曜、時間はあとで送るわ」


「はいよ~」

じゃ!っと返事をした後電話は切れた

予定が出来たことに喜び、心が弾む

動画の見逃したシーンへ戻しPCに向かう

さてレポートを終わらせよう日曜日が楽しみだ


日曜日 午後6時

集合時間の約10分前に到着

まだ誰もいない・・・

「早すぎたな」

苦笑いする

吉貴とは小学校からの付き合いだが

輝明と翔太は中学から仲良くなった

好きな音楽、その当時流行ったゲーム

それぞれの要因が僕たち4人を結び付けこの年まで続いてる

佳奈さんは吉貴の彼女で

2歳年上で今は読者モデルをしてる

かなり美人で高校のころ吉貴と付き合ったのだが

あいつにはもったいないって3人で笑いながら話してた

ある程度固定されたメンバーで居心地がいいし

なにより楽しいのだ

「よっ!!はやいな~」

距離の少し離れた場所から声がする

輝明が小走りしながら寄ってくる

「うぃ~す」

手を挙げて答える

「まだ、たかしだけ?」


「うん、ちょっと早くついたからな」


「そっか、翔太は仕事終わってからだから少し遅れるって」


「了解だよ~」

一連の流れを終えて二人で大学の話をする

輝明は大学も同じで校内でも会う

学部が違うので毎度というわけではないがメンバーの中ではよく顔を合わせる相手だ

翔太は高校卒業後就職して働いている

唯一車を持っていてドライバーとしてみんなをいろいろなところへ連れて行ってくれる

午後6時少し過ぎ

吉貴と佳奈さんが歩いてくる

「おまたせ!」

吉貴が手を挙げる

「たかし君!テル君!」

吉貴の横で佳奈さんも手を振る

それに輝明と僕は手をあげて答える

「大学生コンビははやいな」

吉貴が笑いながら言う

「お前も学生だろうが!?」


「たしかに」

笑いながらツッコみに答える

吉貴は服飾系の専門学校に通っている

もともと服などのオシャレに興味があり

佳奈さんともそれがつながりになって付き合った吉貴には似合いな選択だと思ってる

そんな二人だからか他所から見ると形になってるという感じである

「そういえば翔太から連絡あってもう少しで着くって」

吉貴が僕たち二人に教えてくれる

「そうなんだ!それで今日はなにすんの?」

僕は吉貴の連絡に答えながら質問した

「特には考えてなかったんだけど・・・なにしたい?」


「なんだそれ?なにしたいって・・・」

吉貴のとぼけた答えに輝明は答えた

すこしの間のあと僕は

「カラオケとか?」

無難なラインを提案しかし

「この前も行かなかった?もっと違うのにしない?」

輝明は言う

「そうだった?じゃあ~・・・」

吉貴は頭をひねる

その横で佳奈さんも、う~んといったように考える顔をする

「そうだ!!」

輝明が声を大きくした

「この前たかしに教えてもらった動画!!あれみたいなことしよ!!」

「あれって?」

吉貴が疑問を輝明に返す

「たかしに心霊の動画教えてもらったんだ!!それがおもしろくてさ~」

その場にいたメンバーが少し面をくらう

「でさ、その動画みたいに肝試し!しよ!!」

輝明はナイスアイディアだと自信満々に提案する

「いや、肝試しって・・・もう秋だぞ?それに・・・」

吉貴が隣に目をやる

横では佳奈さんが困惑した表情で立ってる

「そう!!そこも大事なポイントなんだよ!!」

輝明は補足を付けたし始めた

「佳奈さんって霊感あるんでしょ?ならさ、幽霊とかあえるかもじゃん!!」

輝明が力説しているがそのようすを佳奈さんはさらに困惑した表情で見てる・・・

佳奈さんは霊感があるそうで小さいころから不思議な体験をしていたことを、ある時僕たちメンバーに教えてくれたことがある

あの時はたまたま流れでその話になり細かな描写にそういう力というか世界があるんだなっと思っていた

その間に吉貴も少し困惑、そして怒りが顔に滲み始めた

その様子を見て

「でもさ、そういうのはね・・・嫌がる人いるしさ・・・翔太にも聞かないと・・・」

輝明は別に佳奈さんをおちょくってるわけじゃないのはわかるが空気が悪くなるのを感じ口を出す

それと同時に吉貴に目配せし落ち着くよう促す

だがしかし、輝明は

「いままで肝試し?そういう感じのしたことないじゃん?一度はやりたくない!?」

悪びれなく輝明はつづける

「しかも佳奈さんがいればさ、本当に危なかったら教えてもらえるし安全じゃん!それに翔太も大丈夫だよ!!」

その言葉に吉貴はあきれつつさっきの僕の目配せを理解し冷静に

「佳奈は気乗りしてないぞ」

そういい隣を見る

佳奈さんはいまだに困惑してるといった顔をしている

輝明もそれを見て我にかえったのか少しテンションが落ち着く

「う~ん・・・いいアイデアだと思ったんだけどなぁ・・・」

すこし未練がましく言い放つ輝明、その様子に吉貴はしょうがないといった様子で

「佳奈?どうする?まぁ~本当に嫌なら嫌っていっていいからな?」

佳奈さんに問いかけた

しばらくの沈黙ののち

「正直嫌なんだけど・・・どうしてもっていうなら・・・」

その言葉に

「ほんと!?よし!!じゃ決定!!」

輝明の声が弾む

吉貴はその様子を見ながら

「本当に大丈夫か??」

心配そうに佳奈さんを見る

「うん、もし私がいることで危険が回避できるならついていきたい」

不安の色は残しながらも笑顔で答える

なんか、輝明に動画のことを教えたせいでこんなことになった気がした僕は罪悪感に駆られて吉貴と佳奈さんにむかい

「ごめんね」

と告げる

「べつにお前が誤ることじゃないし」

吉貴は僕に向かい言う。

「うん、そうだよ。それにみんなとなら大丈夫そうだから」

佳奈さんも笑いながらいう。

事なかれ主義の僕的にはすこし後味は悪いがその場の空気を換えようと話を切り出す

「翔太まだかな?」

「そうだなそろそろじゃね??」

吉貴が答える

そのあと、テンションの高い輝明と平然を取り戻した吉貴と佳奈さんとで少し話をする

数分後

「おまたせ!!ごめんよ~」

翔太が到着したそして

「肝試し??わかったよ~」

さっきのドタバタが嘘のようにすんなり決まり僕たち4人は車に乗り込み、心霊スッポトへと向かう


「じゃ、どこいこうか?」

運転席の翔太が尋ねる

「やっぱ、ここは友和の滝でしょ!!!」

後部座席で輝明が勢いよく答える

「友和の滝ね~了解~」

翔太が答える

“友和の滝”

それはこの辺では知らないものはいないといっていいほどの心霊スポット

滝つぼに身投げした人の霊がでるや

設置された公衆トイレで焼身自殺したものがいてその霊が出るとか

そういう類の話には事欠かない場所で実際、心霊動画の配信者やホラー番組を作るテレビ関係者がここを訪れさまざまな不可解な現象にあった

そんな噂が絶えない場所である

「友和の滝なら程よく遠いし軽いドライブだな」

助手席の僕はいう

「そうだな」

後部座席中央にいる吉貴は落ち着いて返してくれる

「・・・」

その横で佳奈さんは無言だった

車を走らせること1時間ほどたったころ

車内は最近あった話題などで盛り上がっていたが徐々に薄暗く民家のなくなった山道を通り始めたころから緊張の糸が張っていくのと同時に話題は少なくなっていく

その間、佳奈さんは一言もしゃべることなく目的地に近くなるほどに重く深い空気が彼女を中心にできていたように感じた

「そろそろだな」

さっきまでは元気だった輝明でさえその空気に押され、おそろおそろと話した

山道を登り大きい道から小さな横道へ

闇はさらに深く車のヘッドライトだけが先を照らす

するとその先に突如開けた土地が見えそこには街灯もちらほらと灯ってる

駐車場である・・・友和の滝へ到着した

「ここが・・・」

言葉をすこし詰まらせたながらつぶやく

話には聞いてたが実物を見るには初めてだった

広い駐車場に止まってる車はなく

噂にある公衆トイレが駐車場の奥で煌々と明かりを照らしてる

車の中の空気も静まり返る

「着いたよ」

翔太が滝の入り口近くに車を止め一同に伝える

沈黙を破るその言葉を皮切りに車の中の空気も動き出す

「やばいな・・・実際来ると雰囲気があるというか・・・」

輝明が言う言葉に

「そうだな・・・」

と吉貴が返事した

「ふぅ~せっかくだから外に出ようか?」

翔太はエンジンを切りながら言う

そのまま翔太は車のドアを開けて外にでる

続くように次々に外に出る

一人一人の顔を見渡す

翔太は冷静に

輝明はこわばりつつ

吉貴は緊張が

佳奈さんは少し青ざめてるように

それぞれの思惑が顔に映し出される

重い空気が肩にのしかかっているように感じはみんな同じだろうか?

輝明が口を開く

「じゃ、肝試しスタートしようか・・・まずはあそこからにしようか?」

輝明が指さす

その先は焼身自殺があったと噂の公衆トイレ

少しの沈黙

「よし、行こうか」

僕は促した

行く前はみんなのこととか考えて慎重な意見を出したが

実際の空気を感じた今

心が躍っていた

画面のむこうの世界がここにある

そう思うと妙にうれしくなっていた

青ざめた顔をしている佳奈さんには悪いと思いつつ先頭を歩き公衆トイレに近づく

少し後方に翔太、輝明の順に並び最後尾は吉貴と佳奈さんが手をつないで歩いてる

公衆トイレ前に立つ

「ここだよな、焼身自殺の話あるトイレ?」

僕はみんなに問いかける

「うん・・・」

この問いかけに輝明が答える

「佳奈さん?何か感じる?」

立て続けに輝明は佳奈さんに対して問いかけた

みんなの視線が佳奈さんに集中した

「特には・・・」

その答えとは裏腹に佳奈さんの顔色はよくない

吉貴は彼女のことを心配そうに見つめ

「まぁ~心霊スポットなんてこんなもんだろ?」

場を和ませようと言葉を発する

その言葉で少し緩い空気が流れたのをきっかけに僕は

「こういうのってさよく、トイレのドアをノックする。みたいな感じじゃん?やってみる?」

折角の肝試し。べつにカメラを回してるわけでもない

だが、それっぽいことをやってこそ楽しめるっと

一番はしゃいでいた輝明よりこの空気を楽しみはじめた

「いいな!なんかぽい!」

輝明が乗っかる

「誰が行く??」

翔太もノリノリで答えた

みんなの顔を見渡す

みんな悪戯をする子供のようにニヤニヤしはじめる

そのなかやはり佳奈さんの顔色は優れなかったので

出発前と同じく吉貴に目線を送る

「俺と佳奈はパスな、三バカトリオで楽しんでくれ」

「三バカとはなんだ!?わかったよ!俺たちの男気みてろ!!」

吉貴の発言におどけて僕は返す

翔太も輝明も空気を読み明るくおどける

「じゃ、だれがいく?」

「ここは肝試しっていいだしたテルでしょ」

輝明の質問に翔太は即答した

「え!?マジで!?」

驚いて聞き返す

「当たり前でしょ~言い出した本人が先頭切らないと~」

翔太、吉貴、僕の三人はニヤニヤしながら輝明を見つめた

「マジか・・・わかった!!行くよ!!」

「「「イエーイ!!!」」」

輝明の言葉に男三人は喜ぶ

しかし

「でも一つ条件がある・・・たかしは一緒に来て!」

「は?」

輝明の言葉にすっとんきょんな声を出す

「なんで俺?翔太もいるしょ!?」


「なんかたかしのほうがこういうホラー的なの慣れてそうだから・・・心霊番組みてたし」


「どんな理屈だよ、それ??」

輝明の突然の提案に苦笑う

「いいから!!な??いこう!!」

輝明が肩を押しながら言う

「わかったから押すなって!!行くから」

勢いに押され承諾する

後ろのほうでは男二人ではやし立ててた

その中佳奈さんは心配そうにこちらを見ていた

その視線が僕たち二人に向けられていると理解しながらも

「行こうか?」

好奇心には逆らえず輝明と共にトイレの中に入る

中は蛍光灯で照らされ、入ってすぐに鏡と洗面台が

そして左側に男性用の便器、右側に個室

よく見る公衆トイレがそこにはあった

個室は2つで手前が和式、奥は洋式という作り

ざっと中を確認して二人で個室の扉を見つめた

「・・・ノックしようか?どっちにする?」

輝明が質問してきた

「うーん・・・特にここの噂をよく知ってるわけじゃないけど、こういうのってやっぱり奥の個室が定番じゃない?」

「そうか・・・わかったじゃあ、奥の扉をノックだな」

輝明は言いながら顔をこわばわせる

「いくぞ」

覚悟を決めたのか扉に近づきノックする

《コンコン》

・・・

無機質な音が響いたあと蛍光灯から発するわずかな音を残し時間が流れる

・・・

《ジッジ・・・ジジジ》

・・・

反応はない

息を殺して動きを止めて数秒・・・

「なんか感じる?音聞こえるとか?」

輝明が小声で尋ねる

「いや、べつに・・・」

輝明につられて小声で返す

「今度たかしがノックして・・・」

「わかった・・・」

お互いに謎の空気に包まれながら小声で話す

足を一歩踏み出し扉の前に立つ

特に合図などは出さず手を胸の位置にセットする

そのままゆっくりと手を前に出し扉を軽くたたく

《コンコンコン》

・・・

意味はないが三回リズムよくたたいた後は先ほどと同じ

・・・

《ジジッジーー》

・・・

「・・・おーい・・・大丈夫かー・・・」

遠くから聞こえる翔太の声

その声に二人ともに驚く

「「おっわ!!」」

体が少し浮く

そして顔をお互いにみる

「「ふふ・・・」」

「「ハハハハハ~」」

なぜか笑えたお互いに恐怖という緊張から解かれ安堵が浮かぶ

「なにもなかったな?」

「そうだな・・・おーい大丈夫だーー!!!」

輝明に返事をした後外にむかって返事を返す

「はぁ~ヤバいくらい緊張したな!?おもしろかった~行こうか!?」

輝明は先とはうって変わって明るく僕に問いかける

「だな!」

軽く返事を返しみんなのもとへ帰る

トイレをでてすぐに翔太が聞いてくる

「なんかあったか!?」

「いや、なんもなかったよー!!」

翔太に返事を返す

佳奈さんが大きく息を吐き安堵してる様子が見える

他のみんなも心なしか緊張感が顔から抜けた気がする

五人が一か所に集まる

「さすが名所だけあって緊張感が半端なかったわ~」

緊張から解放された輝明が言う

「結局なにもなかったのは残念だけどな」

輝明と同じく緊張から解放された僕も軽口をたたく

「よかった・・・」

佳奈さんのつぶやきが聞こえた

場の様子をみて吉貴が

「そろそろ帰るか!」

この肝試しをしめようとしていた時

「滝つぼは??せっかくだから行こうよ!!」

「「えっ??」」

吉貴と佳奈さんは驚き目線を輝明にむける

特に佳奈さんはさっきの安堵が嘘のように心を乱してるようだった

「トイレは何もなかったし、滅多に来るところでもないしさ、軽い観光的な??」

トイレのいっけんで自信をつけたのか気軽にいう

「でも・・・滝つぼの方は・・・危ないと・・・思う」

佳奈さんが消え入りそうな声で発言した

その様子をみて吉貴は

「いや・・・本来佳奈が嫌がってたのを無理やり来たのにわがまま言うなよ!!」

険悪なムードが流れる

その様子を見て翔太が

「なぁ、テル今回はもうやめないか??」

本来この状況になるとブレーキをかけるのは僕の役目だった

しかし、このスリルが僕自身かなり楽しく感じていたため輝明を止めることをためらってしまった

そして浮かれてしまった僕は提案する

「あのさ、吉貴と佳奈さんは駐車場に残ってさ、俺たち三人でぱっと行ってすぐ帰ってくるみたいな?」

この提案に吉貴は驚いたようだった

「て、なんで俺もカウントされてるの?」

笑いながら翔太がつっこむ

翔太なりに空気を変えようとしていたようだ

輝明はさっきの空気で少し反省していたが僕の提案に

「たかしが言ったみたいに少しだけで終わるから、そしてもう肝試しもしないし」

と言って僕に同調した

「・・・ふー・・・」

吉貴が深く息を吐く、空気は重い、だが僕の方をみて

「まぁ、たかしがいうなら仕方ないか・・・いつもは俺たちの顔色伺って好きなことさせてなかったしな」

「たしかに珍しいからな、たかしのわがまま」

笑いながら翔太がいう

さっきのピリついた空気は消え、すこし和やかになった

だが佳奈さんの表情は硬く

「でも・・・危ないよ・・・」

泣きそうな声で話す

それを打ち消そうと僕は

「大丈夫!!すぐ帰ってくるから」

努めて明るく話す

佳奈さんからは不安が消えたわけではないだろうが何も言えないと言ったような雰囲気がこぼれていた

「よし!!ぱっと行って速攻戻ってきます!!行こう!!」

佳奈さんの不安を振りほどくように翔太、輝明に声をかけて滝つぼへ歩き出す

「あっ・・・」

佳奈さんが言葉をこぼす

それに気づきながら暗闇へと歩を進める

滝つぼへは階段を使いむかう道はうす暗く下へと続いてる

さほど長いわけではないが途中に踊り場がありそこを折り返しさらに下った先に滝はある

階段はしっかり管理されているのか危険がないように舗装され柵もある

階段の一段目

そこに三人で立ち

「それじゃ、行こう!!」

先頭を歩く、正直この三人の中で一番浮かれているのかもしれない

さっきのトイレでの出来事が大きな自信になっていた

その証拠に僕の声は弾んでいた

「暗いから気をつけろよ」

後方から翔太が声をかけてくれる

「おいたかし!!早いって」

一番後ろを輝明が歩いてるようだ

暗闇があたりを包む、水の音が聞こえる

人の気配はもちろん動物すらいない、まるで僕たち三人しかいないような空間だ

一段降りるたび気持ちは昂る

水の音は少しずつ近くなる

一足先に階段の踊り場に到着

折り返そうとしたその時

「それ以上いったらダメ!!!!!」

必死な女性の叫び声が暗闇に響く

「「うわー!?!?」」

後方を歩いていた翔太、輝明は驚きの声を上げ

あっという間に駐車場がある上へと駆け上がっていった

そんな中ぼくは驚くことすらせず、余裕を持っていた

【なんだよ?全然大丈夫だぞ?みんな怖がりすぎだろ】

心のなかでつぶやき二人を呼び戻そうと振り返る


その瞬間


「チョット・・・マテヨ・・・」


えっ??


男性の声・・・

声色などない冷め切った平坦な声・・・

背中越しにさらには耳元でつぶやくでもなくはっきりとした声量で・・・


一瞬の硬直そして次の瞬間には走り出していた

振り返ることなどできなかった

【そんなバカな!?ありえない!!】

考えが追い付かない

【ありえない!ありえない!!】

混乱の中でもたしかにわかるありえないこと

まず前提として僕ら以外の人間はいないはず

いや、それよりももっとありえない

なぜなら僕が背にしていたのは柵

さらにいうとその先は滝だ

人が立つことなんて・・・

さっき降りてきた階段が嘘のように長く感じる

そんな中でもありえないという思いが延々と頭を駆け巡る

「はぁはぁはぁ・・・」

階段を上りきるとうそのように息が切れていた

手を膝につき階段をあがりきったことに安堵しながら下を向き息を整える

すこし落ち着き顔を上げる

先に階段を駆け上がった二人に吉貴と佳奈さんが走り寄っている

二人に声をかける吉貴と佳奈さん

四人が集まってる場所とすこし距離がある

だが今そこに駆け寄っていけるほどの余裕はなく人がいるという真実だけが僕に安心をくれる

四人で何かを話している

だが、混乱している頭には何も入ってこない

そのなか、佳奈さんと目が合う

すると佳奈さんの顔から一気に血の気が引いていく

その様子は他の三人にも伝わったようで

次の瞬間四人が僕の方へかけてくる

「大丈夫か?」

「うん・・・」

吉貴の質問に生返事で答える

その間に佳奈さんが

「私が・・・ちゃんと止めてれば・・・こんな・・・こんなことに・・・」

声が震えてる・・・泣き出しそうな声でつぶやく

ただ事ではない、そう思わせるには十分な状況

「ごめん・・・」

輝明が言う

「俺が調子にのってこんなこと・・・」

輝明はつづけた

空気は最悪、さっきまでの余裕は嘘のように流れ去り夜の闇と同じくのしかかる

「とりあえず、地元に戻ろう」

翔太が頭を切り替えて話を進める

それに吉貴は

「そうだな」

と一言・・・佳奈さんの肩を抱き車に乗り込む

それに輝明、翔太が続く

「たかしも・・・いこ」

翔太が声をかけてくれた

そのあとを追い車に乗り込んだ


車の中いちように口は重い

佳奈さんのすすり泣く声が聞こえる

誰も何も言わない、いや言えない

佳奈さんは最初から乗り気ではなくむしろ無理に連れてきて警告を無視して進んでしまった・・・

輝明は自分を責めてる

だが、実質最後の警告を押し切ったのは僕だった

それぞれがそれぞれに対して自責の念をもちながら車は地元に走る

無言の車内

地元にもどるまで誰も口を開かなかった・・・

街灯が並び明かりが多くなる

地元の街に帰ってきた

翔太はそれぞれの家に送るという

みんなその言葉にうなずき家まで送ってもらう

そのころには佳奈さんは泣き止み落ち着いていた

車は吉貴のマンションの前に止まる

「到着」

翔太が言う

言葉という言葉は友和の滝を出て以来ひさしぶりに発せられた

「ありがとう」

吉貴が翔太に向かい感謝を伝えた

佳奈さんが吉貴のあとにつづく

どうやら今日は吉貴の家に泊まるようだ

「ごめん」

佳奈さんに向かい輝明が言う

「佳奈さんが嫌がってたのに肝試しして・・・そして怖い思いさせて・・・」

佳奈さんは首を振る

「私は大丈夫、逆に心配させてごめんね・・・」

輝明含め他のメンバーにも向けられていた

その言葉で少し空気は和らぐ、輝明はまだ引きずっているようだが

吉貴に‘ポンポン`と肩をたたかれ表情を崩す

男メンバーは佳奈さんが落ち着いたことに安堵し

とりあえず、今回のことは終わったっと思っていた

しかし

佳奈さんは僕に目線を向けると

真剣な顔でいう

「たかし君・・・友和の滝で何かなかった?」

「え?」

驚きながら言葉がこぼれる

「たかし?確かにお前も結構顔色悪かったけど、なにかあったのか?」

吉貴が目をこちらに向けた

その視線で僕に全員の注意が集まる

「・・・」

言葉に困る

いや、説明に困っていた

たしかに何かあった・・・平たく言えば

【ありえないところから男に話しかけられた】

言葉にすればかなりシンプルだ

だが、言葉に直した通り

【ありえない】のである・・・

自分でも信じれていないことをみんなに伝えるか・・・?

たぶんみんな心配するだろう

正直もう心配させたくない

肝試しときわがままを通して空気を最悪にした手前なおさらだ

「いや、なにも!二人が置いていくから焦っただけ」

笑ってみた

「そうか」

その様子に吉貴やほかの二人も表情が崩れる

しかし佳奈さんの顔だけは今だ緊張を維持したままだ

「本当に?」

真剣な声にすこし押されそうになるが

「うん!」

和やかな表情を崩さず伝える

間が少しあり

「もし・・・もし何かあったらすぐ連絡して私でも吉貴にでも・・・」

ほかの三人はその言葉、その表情に不安と疑問を感じでいるようだが

「了解!了解!!」

いたって明るく軽快に答える

「じゃ、いこうか?二人ともおやすみ~」

翔太が切り出す

どうやら、男三人は先ほどのことは明るく答える僕をみて軽く流したようだ

「おう!おやすみ!」

吉貴が返事を返し手を挙げる

「うん・・・おやすみ・・・」

佳奈さんがその横で静かに言う

なんというか、後ろ髪を引かれたというのか

なにか思い残しをしているという感じがにじんでる

「「「おやすみ~」」」

車に残った三人は声を合わせていう

そして、車は動き出した

後ろを見ると二人がこちらを見送ってる

車は次の目的地へと向かう

車内では

「もう肝試しはなしだな」

「そうだな・・・悪乗りがすぎたわ・・・」

翔太の言葉に輝明が答えた

僕は

「そうだな・・・」

と一言

はしゃぎすぎたことに輝明と二人で反省していた

それ以降、特に肝試しの話題には触れず車内で軽く会話をかわし

車は僕のマンションの前に

輝明の家とはそこまで遠くないが何となく僕の家に先にきたというところだろ

僕は車をおり「おやすみ」と言葉を残し二人を見送る

車が見えなくなったころ自宅のマンションへと入った

・・・

ガチャ

「ただいま」

真っ暗な部屋にいつものように儀式を済ませる

そこからは普段通りの流れをこなし

PCの前で一息ついた

特に何をするわけでもない

ただただ席に座る

そして今日のことを反省していた

輝明がすべて責任をかぶったが実際はそうではない

途中から僕自身も楽しみほかの三人の反対を押し切るようにしていた

・・・

輝明に謝ろう

そしてまた機会に改めてみんなにも

・・・

そう心で決意した

そしてその流れでふと今日のことを振り返る

滝での出来事

男の声・・・

「チョット・・・マテヨ・・・」

あの時のあの声がまるで今も耳元で話しかけられてるかのように再生される

「まさかな・・・」

つい言葉がこぼれる

生きていて今までこんな経験はしたことなかった

幽霊とか妖怪とかいう類は信じてないわけではない

ただ自分に見えてないから実害はない

居たら見てみたいなぁ~・・・的な考えではあった

しかし、実際自分にその現象が起こると理解や現実その他もろもろのことがこんなにも頭の中でかき混ぜられ、受け止めることができないものかと一人考えていた

そして

【こんなこと誰も信じないだろうな・・・俺も信じ切れてないし・・・】

初体験の事象を飲み込めずとりあえずの着地点を心の中につけていた

とにかくもう寝よう

次の日の朝には忘れてるだろう

そう思って椅子を立ち上がる

すると

「あれ??」

何かの匂いがする・・・

しかもけしていい匂いではない

「なんだ?くさい!?!?」

形容すると臭いという言葉になるが

その匂いはその言葉だけでは足りないぐらいの異臭だった

鼻の奥に絡みつくような酸味・・・

よく中年の男性から発せられる加齢臭・・・

感じているのは鼻の中なのになぜかそこには油っぽい感じもある

「うっ!!」

つい胃液を戻しそうになる

どこから発生してるが検討がつかない

【窓!!窓だ!外の空気を吸いたい】

体は動く

速足で窓に近づいただが次の瞬間

フル・・・フルフルフル

「?」

揺れてる??

地震???

この状況でも感じる揺れ

【何もこんなときに】

そう思いながらも窓に手を伸ばす

しかし

フルフルフル、ガタッガタガタ、ガタガタガタガタ

揺れは強さを増す

【マジか!?】

大きな地震がきたと伸ばした手を止めた

【やばいな、とりあえず部屋の中央へ】

安産確保をしようとした・・・だが!!

スゥ

何かが動く気配

すかさず気配のある方に目を向ける

本棚

窓のわきに設置していた本棚がゆっくりとこちらに倒れこむ

「ヤッバ!?・・・」

言葉を最後まで出すことはできず本能的にその場に丸み込む

ドン!!!

大きな音

ズン!!

のしかかる重み

・・・・

意識・・・が・・・・・・


・・・

・・・・・

・・・・・・・・

「○✖△◇○✖△◇ょ!!!」

遠くでなにか聞こえる

「●×?●×△◇◇○●」

人の声??

「●×△△◇◇・・・・」

会話している?

誰かが???

「○✖△◇○✖△◇!!」

「●×●×△◇◇○●」

男?と女?

会話というか激しい言い争い??

ぼんやりとだが理解できることはそこまで

正直内容はまったくわからない

視界は暗く、体はしびれているような感覚

動かない

そんな中聴覚だけが生きている

しかし意識が遠いからなのか音も遠い

状況、状態その他あらゆるものが不明

【どうなってる??】

頭の中パニックであったが一瞬の正気

自分の置かれている事象に考えを回す

何とか心を落ち着かせる

すると先ほどの声も聞こえなくなっていた

【なんだ・・・これは・・・】

体を動かしてみるが先ほどと同じ

【くそ!!なんだ!?なんでこん・・・地震!!】

まったくの謎から一歩の前進

だが、まだこの状況を理解できてない

【あの時、本棚が倒れてきて・・・】

そこまでしかわからない

【もしかして・・・死んだのかな??死後の世界???】

滑稽のようだがこの状態だから一番最初に思いがそこにあたる

【・・・】

考えるのがつらくなったので無になる

すると

視界が少し開ける

目が開けれた??

でも、なにか違和感を感じる

その違和感を置き去りに映像が目に入る

しかし、映像自体も歪んでいて場所などを特定できるものではない

それと同時に

「○△◇×●●・・・」

声がまた聞こえ出す

情景などは不明瞭なことが多い中なぜか‘切なさ`というかなんというか・・・

そんな思いが胸に流れる

すると歪んでいた画面が動く

歪んだままだがすごい勢いで動いている

その瞬間と同時に

「ぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!」

迫りくる男性の絶叫

怖くなり頭の中で映像を切ろうと必死になる


「あ!!!・・・」

言葉が出た

そして背中に感じる重みと痛み・・・

目を開ける

手や足に意識を向ける

・・・

動く

「うぅぅぅ・・・」

体が床に押し付けられている

「痛っ」

どうやら本棚につぶされた

そのことを痛みと重さそして状態が教えてくれる

・・・間をおいて

「ふっ!!!」

気合をいれて動く

何とか自力で動ける

腕に力をいれ床を押し返す

本が床に散らばったことにより棚じたいは軽い

体をよじり本と棚のあった場所からずれて立ち上がる

背中に軽い痛みを覚えながらも立ち上がり周りを見渡す

【ひどいな・・・】

本が散らばり棚が倒れているさまを見て改めて思う

だが、違和感に気づく

【あれ?なんていうか・・・おかしい・・・】

目の前で散乱している本や棚とは対照的に部屋全体はきれい・・・

なにひとつとして動いていない・・・

あれだけの揺れがあったのに・・・おかしい!

PCやテレビ、食器や飾られていた小物までそのままの場所に収まってる

本棚が倒れるほどの揺れなのに!?

「なんで・・・??」

困惑する一方で考えは次にうつる

「テレビ!!確認すれば!!」

急いでテレビの電源をつける

・・・

テレビの画面にはドラマが流れていた

数秒まつ・・・

しかし、特に速報やニュースに切り替わることはない

ほかの番組にも変えてみるがどこも同じ・・・

【あれほどの地震、ニュースにならないのか??】

そんなわけがない・・・

あの規模の地震があれば速報どころかニュースに切り替わってもいいくらいの揺れだった

でも本棚以外の場所は異常なくそのまま・・・

本棚だけが倒れたのか?しかし、揺れを自分自身感じた・・・

【ダメだ・・・もう何がなんだか・・・】

肝試しからはじまった不思議な出来事・・・

いくら落ち着いてもまとまることない考え・・・

滝での男の声、部屋の異臭、そして地震のようなもの・・・

どれもこれも不明瞭で人に話しても信じてもらえそうにないことばかり

なにより自分自身が信じれてない

「これが・・・霊障ってやつなのか??」

その声とともにあふれる恐怖

なすすべなくとりあえずベットに潜る

布団を頭からかぶり丸くなる・・・

さきほどの背中の痛みなど忘れ

子供のころ怖いものを見た後のように

ただ布団の中に避難する

なにも見えなくなれば安心

そう思い必死に身を隠す

こんなこと多分意味などないだろう

だが、幾分か心は和らぐ

はやく朝になってほしかった

はやく今日という日が終わってほしかった

そして何事もない翌日がほしかった


ピピピっピピピっピピピっ

スマホのアラームが鳴る

【朝がきた・・・】

長かった・・・・本当に長かった・・・

これほど時間が凶器に感じることないだろ・・・

目をつむっても寝れることはなく

考えたくなくても思考は止まらず

堂々巡りが途切れることはなく

ここまで・・・

ここまで・・・

ここまで来ることがこんなにも苦しいなんて・・・

だが、朝だ・・・

もういいんだ・・・

ゆっくりと布団をめくる

光がゆっくりと目に差し込む

いつもはすこしばかり疎ましく感じる朝の光・・・

それがここまでありがたいものとは・・・

強い日差しに目が細くなる

だが、そこには感謝の念しかない

昨日までは夢だったそんな気をさせてくれることに

それは何も解決してないとしてもだ

昨日と同じ服、用意しておいたカバン

それらを身につけ足早に玄関にむかう

部屋の一角、ばらばらに散らばる本それに棚

目のはしでとらえるがそこに意識をすることなく

外に飛び出す

いつもならこんなに早くいくことない大学・・・人のいるところに避難したかった

・・・

大学構内、人がいることにまずは安堵する

ここまでの道のりはさほど覚えてない

ただまっすぐに大学へ

すれ違う人たちもいたがその人たちがいることに安心はできず

自分の日課、自分が信頼できるいわばテリトリーにはいることが一つの安心

そして思い描いたことがそこにあったというもう一つの安心

なによりも人々があたりまえの日常をそこでおこなってるということが安心だった

【よかった・・・本当に・・・よかった・・・】

ふいに泣きそうになる

周りからみたら多分不審者だろう

幾人の学生が行き交う中で一人泣きそうな顔をしてるのだから

・・・

「よっ!!」

時間がたちとりあえず輝明に連絡して大学の談話ルームで会う

「おつかれ」

「おう!おつかれ!!昨日は悪かったな」

輝明は返事に返答をかえしながら輝明は席につく

「いや、あれは俺も悪かったからさ・・・」

席についた輝明に話しかけた

「まぁ~・・・うん、お互い今度はな??」

「うん」

互いに思いはある、がとりあえず着地点をみつけて納得する

「それにしてもたかし?どうした?めちゃくちゃ疲れた顔してるけど?」

輝明は顔を覗き込み尋ねる

「いや、ちょっとな」

なんとなく誤魔化す、もう昨日のことを思い返すのが嫌だった

しかし、一つだけ確認したくなり輝明に質問する

「あのさ・・・昨日地震なかった??」

「地震??いやなかったよ。え?揺れた??」

輝明は不思議な顔をして答えた

「いや、なかったならいいんだ」

やっぱりという思いがよぎっていく

【あれはなにかの間違い・・・疲れて本棚と一緒に倒れた?みたいな感じだろう】

他にも説明できないさまざまなことはある

でもある程度のところで折り合いをつけてもう忘れたかった

「?」

輝明は不思議そうな表情を浮かべるがそれ以上は追及してはこなかった

「今度はさ~」

輝明は話を次に進めたとりとめない会話

次にみんなであったときのこと

普段の姿に日常が帰ってきたそう思えた

数分の会話ののち

「じゃ次、講義入ってるからいくね!ありがとう!!」

輝明にそう告げる

「なんで、ありがとう?まぁ~いいやまた!!」

軽く挨拶を交わす

なんか安心した・・・やっと本当の日常が戻ったそう感じた・・・

「う、え!?」

僕の思いとは裏腹に輝明は奇妙な声を上げる

振り返ると輝明は不思議な顔をしていた

「どうした?」

「いや・・・なんていうか・・・知らない男が・・・?」

間の抜けたような不意を突かれたようななんともいえない表情を僕に向ける

「男??」

僕もたぶんおかしな顔をしていただろう

それに気づいてか

「いや、何でもない!なんか幻みたわ!!」

さっきの表情を切り替え笑顔で輝明は答えた

「・・・そっか、じゃいくね!!」

輝明の言葉にひっかかりを覚える

昨日今日の出来事がなにか続いているような気が心の端をかすめる

今朝やっと払いのけたと思えた事象がまた蘇る

だが、これ以上はもう嫌だと思い輝明の笑顔を信じ

開けかけた扉をしめた


そのあとはいつも通り

大学の講義をうけてバイトへと

一連の流れをこなしていく

バイトへ向かう頃には昨日のことは心の奥隅に追いやられ

普段通りの平日を過ごしていく

バイトが終わるころあれほど恐ろしかった自宅への帰宅も苦にはなってなかった

その中でスマホを開いた時だった

そこには

“よしき”と“翔太”の着信がずらっと並んでいた

何事かと思い最近の着信に残っている吉貴にかけた

・・・

「もしもし?どうした?」

「たかし!?輝明が!自殺したっておばさんから!!!」

切羽詰まった吉貴の声

あまりに衝撃的な言葉に言葉を失う

「たかし!?たかし!!聞こえてるか!?」

「あ・・・えっ??輝明が死んだ???」

吉貴の声に意識を取り戻し、受け止めることのできない言葉に上手に声がでない

「とりあえずいま、みんな集まってるからたかし!!これるか!?」

「あッわかったどこに行けば・・・」

返事をしてはいるものの正直思いがついていってない

今日会ったあの輝明が死んだ・・・

バイト前話していた・・・あの輝明が・・・

信じられずにいた

まさかという思いがぐるぐる回る

しかも自殺だなんて

今日あんなに普通に話していた人間が突然死ぬなんて・・・

胸が張り裂けそうなぐらい鼓動する

息をすることすらおかしくなりそうなぐらいだが集合場所に急ぐ

【嘘だろ!!まさかそんな嘘だ嘘だ!!】

道中心の中で叫びながら走っていた


輝明の葬式・・・

前ではお坊さんがお経を唱え

みんなが手を合わせている

棺のところには満面の笑みをした輝明の遺影

僕たち三人はその光景をまだ飲み込めていない

証拠に全員、目をつむりお経を唱えるのではなく

棺と写真を見ていた

そう、あの場所から輝明が動きだすんじゃないか

そんなことを思っていた

佳奈さんは少し遅れるとのこと

いつもの五人・・・突然の別れ・・・


知らせを受けた当日

みながみな焦っていた

僕がついたころにはすでに連絡をくれた吉貴、翔太そして佳奈さん

この三人が集まっている状態だった

吉貴が説明をしてくれるがお互いに焦り

混乱を整理するには至らなかった

翔太は輝明のおばさんから初めに連絡がきたらしく

情報収集と輝明の他の友人へと連絡をしてる

佳奈さんはただ泣いていた

翌日、僕たち三人は長い友人関係ということもあり

通夜に参加できた

中学のころからよくしてくれた輝明の両親が悲痛な趣で僕らを迎えてくれる

そのときはじめて輝明の亡骸と対面する

顔からは血のけがなく

真っ白な顔をしていたが

生前と同じ姿にどこか信じられない思いがあった

おばさんは疲れ切った顔をしながらも

「来てくれてありがとね・・・あの子も喜ぶわ・・・」

その言葉に返す言葉が出ずただ飲み込み首を縦に振る

そして輝明の死んだときの状況がはなされる・・・

輝明は近所の高いマンションの屋上に忍び込み

そこから身を投げたそうだ

全身を強打し即死だったとのこと

そのときのグシャっといった音と地面にたたきつけられた

振動でそのマンションの人が気づき警察に連絡

到着した警察の調べで遺書などは見つからなかったが

輝明が自ら飛び降りたとし自殺として処理がおこなわれたそうだ

「まさかこの子が・・・自殺なんて・・・あの日も変わりなく元気だったのにね・・・」

輝明のおばさんが涙を流し、慈しみ深く輝明の方を見ていた

僕らは言葉なくその姿を見ていることしかできなかった・・・


お坊さんによるお経が続く中

輝明の遺影をただじっと見つめていた

あの日輝明に会っていた・・・

正直いつもと同じ変わらない姿

あの姿から今の状況を想像できるだろうか・・・・

その日のうちに自ら死を選ぶような人間の行動にはとても・・・

だがしかし、現実はしっかりと彼がこの世から去ったことを教えてくれる

それが目の前の光景だ

人々が悲しみ彼の棺に向け追悼の念を送る

そして遺影とは反対にまったく表情を失った輝明

響くお経を唱える声

これらすべてが現実を知らしめるのには十分であり

友との別れを明確に教えてくれた・・・

恙無くすすむ式の中、翔太が小さく声を上げる

「へ?」

間の抜けた驚きの声

しばらく輝明の棺を瞬きせず見つめていた

その言葉に僕は

「どうした?」

小声で聞き返した

翔太は信じられないものを見たという顔を浮かべながらも

僕の声に我にかえったのか

「いや・・・なんでも・・・」

と答えた

【なんか似たようなことが・・・】

頭の片隅によぎる思い喉元まででてるようなもどかしさ

そのもどかしさが晴れることはなく式は続く中

佳奈さんが到着した

僕たちと同じ列に歩いてくる

目を僕たちに向けて席に着こうかというとき

佳奈さんは驚きと怪訝な表情を表す

式中ということもあり声は抑えていたようだが挙動は明らかに慌てた様子だった

それに気づいた吉貴は

「?どうした??」

素直に質問をする

「いえ、あの・・・あとでみんなに話すことがあるからその時に・・・」

ピリっとした張り詰めた表情や声色

いつもと違う佳奈さんの言動に三人とも息をのむ

そして、佳奈さんが正面を向いたのと同時に全員視線を前に移した


式が終わり輝明と最後の別れを告げる

これから輝明の亡骸は火葬場に向かう

親族と輝明を乗せた車は走り出した

それを見送った僕たちは場所を少し移したそしておもむろに

「あのね、さっき言いかけたというか言いたかったことなんだけど・・・」

佳奈さんがみんなにむけて話し出す

「翔太君?輝明君のお葬式でなにか見なかった?」

真剣なまなざしをむける

「え?俺??いや・・・」

少し考えたあと

「いや、多分の目の錯覚かなにかと思うけど輝明の棺の上になんか男の人?が立ってるようなのをみたというか・・・」

なにかまだ確信のないことにたいして自信なさげに翔太は答える

だが、その言葉をきて佳奈さんは逆に納得いったといった表情をしながら

今度は僕をみて

「なのね、たかし君肝試しのとき聞いたけどもう一度聞くね?」

その言葉は鋭く僕を射抜く

「あの時本当に何もなかった?お願い正直に言って?ありえないことだったとしても知らなきゃダメなの!」

いつもではありえない気迫が言葉にこもっていた

その言葉に僕は真摯に答えなければいけないと思い話始める

「実はあの時、階段を下りた先で男の人の声で話しかけられたんだ・・・でも、正直ありえないって!!自分自身信じられなかった・・・だから話さなかったし心配かけたくなかったから・・・」

言葉は尻つぼみに語彙が落ちていく

だがその言葉を聞き

「そうだったんだね・・・やっぱりあの時きちんと話を聞いていればよかった・・・それなのに・・・」

流れをつかみそして納得し苦悶する話している間にさまざまな思いが交錯していた

「ちょっと待って?男?声?どうゆうこと?」

それぞれの答えに疑問を持ちそれに対して率直な意見をだす

僕や翔太は事を話したがそれがどういう意味を持ってるかはわからずにいた

すると佳奈さんが話し出す

「たぶん、今回の輝明君の件そしてたかし君、翔太君が体験したり聞いたものそれらが関係してるかもしれない」

「「「???」」」

正直意味がわからなかった三人ともにそうだったのだろうか疑問符が頭に浮かんでいるような表情であった

「そうだよね・・・こんなこと言ってもわかってもらえないと思う」

佳奈さんが話し出す

「私、霊感があるっていったことあるよね?正直信じてもらえないと思ってたし今でも思ってる・・・でもね!今回は信じてほしいの!!あの時ちゃんと今みたいに伝えられなかった!だからこんなことになってしまったって思ってるだから!!」

必死に僕らに訴えかけてくる

それに対して

「うん、大丈夫俺も他のやつも佳奈を信じてるから・・・でも今回の輝明のことが関わってるってのはどういうこと??」

吉貴がなだめるように問いかけた

それに対して少し冷静になったのか、流れを追って話し始めた

「まず肝試しのあの友和の滝、あそこがあまりにすごいというか霊からの圧というのかそれがすごかった場所なのでも駐車場あたりはまだ平気でなんとか踏みとどまれた・・・」

思い返しながら佳奈さんが話を進める

「でも、輝明君が滝の方にいこうって言ったときすごく嫌な予感がしたの本当は精一杯止めたかったけど私自身あの場に飲まれていたからできなかった・・・」

つらそうな顔をする

「そして、三人で降りて行ったときどうしても嫌な思いが湧いてきて声をあげたの・・・そして、三人が戻ってきたときに見えたの一番最後に帰ってきたたかし君の後ろに黒い“何か”が・・・」

背筋が凍る・・・連れてきた・・・“何か”を・・・

そんなことがあるのか??佳奈さんならともかく僕みたいな何もない人間に?

とめどなく疑問があふれるが正直あの日の夜体験したことがすべて“何か”が起こしたことなら何となくまとまりがつく気がした・・・よくある心霊現象ともいえるからなおだ・・・

でもここからどうやって輝明の件に結びつくのか?

佳奈さんは話を続ける・・・

「それであの時質問しいたのたかし君に。でも何もないって言ってたし、浮遊している幽霊を連れてくことは正直あるの優しい人には特に。でもその“何か”は黒黒としていて不気味だった。でもそのあとたかし君からなにかあったて連絡もなかったから安心していたの・・・でも、今もここにいるの!その“何か”が!!」

佳奈さんの声が力強くなりまなざしを僕たちにむけていた

「うん・・・それはわかったよ。でもなんで輝明が?もし、なにかあるならたかしじゃ?あっ!別にたかしが何かあればよかったってわけじゃないぞ」

翔太は間を作りながらも当然出てくる疑問をぶつける

「それは・・・どうやって輝明君についたのかはわからないけど、翔太君お葬式で輝明くんの棺に男の人見たんだよね?多分、それは輝明君に憑いてたってこと・・・そして今は翔太君・・・あなたに憑いてる・・・」

佳奈さんの言葉に場が静まり返る

「いや!?まって!?なにそれ??俺??なに??どうなるのそれ?え?」

混乱した翔太は声をあげた

目に見えない恐怖が翔太を支配してる

「なんで俺?なんで俺なんだよ!!なに?どうすればいいんだよ!?」

その声は怒り交じりに佳奈さんに問いかけた

「落ち着いて!!!私も除霊みたいなことができるわけではないの!!でももう一度友和の滝にいって肝試しで遊び半分でいったこと謝ろ!!ローソクとお線香用意して心から謝れば!そして、そのあとみんなでお祓いにいってもう遊びであんなことしないようにしよ!?」

佳奈さんの言葉に少し冷静になり

「その問題の場所にいっていいの?逆に危なくないか??」

翔太が問いかける

「たしかに、お祓いすれば済むんじゃないか?」

吉貴もその点は疑問だったようだ、それに対して

「たしかにお祓いにいけば終わりかもしれない・・・けど今回のこの件は、あの場所に謝りに行くことが大切な気がするの・・・じゃないと“何か”がそのまま放置されそうで・・・」

沈黙・・・それぞれに思惑を巡らす

その中声を上げたのは吉貴だった

「佳奈を信じてみないか?今回佳奈を振りましたのは俺たちだ。それに今回の輝明の件。佳奈を信じないわけじゃない、でもこれが偶然だったとしてもすべてがあそこから始まった気がするだから・・・あの場所で決着をつける・・・そうしてもいいんじゃないか?」

「そうだね」

「わかったじゃいこう」

僕と翔太はその言葉に返事をした

あっさり承諾したように聞こえるが二人ともに思いは違うだろう

翔太の思いはわからない

だが、僕の心は吉貴の「すべてがあそこから始まった」と「決着をつける」

その言葉に感化されていた、そう僕自身あそこで声を聴いてしまってからおかしなことが起きた、それに続くように輝明の死

良からぬもののループを断つには原点に戻るべきそう思わせた

みんなの思いが一致しとりあえず着替えてまた待ち合わせて向かうことに

それぞれがそれぞれの自宅に向かう


すぐに着替えていつもの集合場所へ

時間を待たずに吉貴と佳奈さんが現れる

残るは翔太だけ・・・

気持ちがはやる

効果があるかどうか、それよりも

早くみんなで友和の滝で線香をあげて

この負の感情のループから抜け出したかった

・・・数分後

まだ翔太がこない

そこまで時間がかかる場所に翔太は住んでいるわけではない

しかも、喪服から着替えるだけで時間がかかるとは思えない

一同に不安が走る

「ちょっと翔太に連絡してみる」

僕はそういいながらスマホを操作し翔太に連絡をする

スマホの中で待機音が流れるそして電話がとられる

「もしもし?翔太??みんな集まってるけどまだかかりそうか??」

電話のむこうの翔太に話しかける

だが反応がない

「もしもし?翔太??もしもし???」

すこし声のボリュームをあげて再度問いかける

するとかすかに話し声が聞こえてくる

「俺は・・・なんで・・・辛い・・・生まれて・・・」

声は聞き取りにくいが翔太の声だった

しかし、話している内容もわからずしかも様子がおかしい

「翔太??聞こえてるか?なにかあったのか?」

矢継ぎ早に質問を飛ばすが翔太はうわごとのようなことを話続ける

そのようすに佳奈さんが

「どうしたの?」

と不安そうに聞いてくる

「なんか翔太が変で・・・話が通じてないみたいで」

端的に翔太の様子を伝えるすると

「翔太君・・・危ないかも!翔太君のところに行こう!!!」

顔色をかえ動き出す佳奈さん

それにすぐ反応して吉貴と僕は走る

「たかし君電話、翔太君に話続けて」

佳奈さんから言われた通り走りながら翔太に話しかけ続ける

吉貴はいち早く翔太のところに向かうべく先頭を走る

みんな嫌な予感を振りほどくべく必死に走る

「人生なんて・・・生きてることが・・・ああぁぁ」

その中翔太の様子は刻々と変化していた

先ほどより言葉がはっきりしはじめ、そして声の大きさも大きくなる

それに比例して苦悩の色が徐々に濃さをます

「どうしてこんなに世界は無慈悲なんだ!!生きることはこんなに苦しいことなのか!!嫌だ嫌だ嫌だっもう・・・あああああああ!!!!」

翔太とは思えないほどの言葉そして叫びまるで他人が翔太の声で叫んでいるようだ

吉貴が先頭でかなり前のほうを走るもうじき吉貴は翔太の近所の一角にはいる

それとほぼ同時に叫びをあげていた翔太のこえは止んで

「もう・・・いい・・・」

静かに言葉を放つそれに

「翔太!!なぁ!?翔太!!!」

大きな声で翔太を呼ぶ

嫌な予感が加速する早く翔太のもとへ

「カタン・・・」

スマホから聞こえる床に何か落としたような音

「翔太!翔太!!!」

先ほどからずっと繰り返している呼びかけにもう翔太からの返事や反応はない

「・・・ぅ・・ぅぅ・・・・・・・・」

次に帰ってきたのはかすかに呻くような声

【これはヤバい!!とにかくヤバい】

なにが起こってるかは明瞭にはわからない

だが限りなく危険なことが起こってる

そう予感させるもの

頭の中で思いが巡っていたがその感に吉貴が翔太のアパートに到着

鍵が開いていたのかそのまま部屋に入る

「翔太!!翔太!!!」

外まで聞こえる吉貴の声

そのころには僕と佳奈さんもアパートに到着しそのまま部屋になだれ込む

そこには翔太が首をつった状態でいた

その光景に僕も佳奈さんも声を失う

そんな中吉貴だけは翔太の首から紐をほどこうとし

「翔太!!翔太!!!」

必死に叫びかけては紐に手を回す

だが、紐の結びが固いのかまったくほどけない

「たかし!!なにか切るもの!!紐を切るもの!!!」

「わかった!!」

入ってすぐにキッチンがある

そこから包丁を持ちだし吉貴と翔太のもとに駆け寄る

翔太は白目をむき口からは泡をこぼす

「・・・・・ぅ・・・・・」

声らしきものもこぼれてる

まだ生きてるそう思ったのもつかの間

不自然に翔太の首が伸びていく

まるで何かが翔太の体を下へ下へと引っ張ってるようだ

「早く貸せ!!」

吉貴の声で正気に戻る

そのまま包丁をわたし吉貴が紐を切ろうとしてる

だが

「?あれ?きれない???なんで!!!」

吉貴がいくら紐を切り落とそうとしてもまったく切れない

その間も翔太の重心は下へ下へ下がってる

「・・・ぅ・・がっ・・・」

口から変な声が漏れ出てる

首も異様な長さになりはじめた

その間も吉貴は切ろうと必死になっていた

言葉が出ずその光景を見てることしかできない

佳奈さんが後方で怯えている様子がわかる程度で

その場でどのように行動すればいいかわからずに立ち尽くす

すると

フル・・・フルフルフル

あれ??

これって???

フルフルフル、ガタッガタガタ、ガタガタガタガタ

揺れているあの時と同じく

だが揺れは大きく部屋のものが倒れていく

「っちょっとヤバい!!」

声を上げるだがまだ吉貴が翔太を助けようと紐を切ろうとしている

立ってるのもやっとの揺れ

吉貴の方へ向けて収納棚が倒れこんでくるのが見える

「吉貴!!」

吉貴を引き寄せる

ドン!!

大きな音を立てて吉貴のいた場所に棚が横たわる

それと同時に

「吉貴一回出よ!!」

「翔太が!!」

僕の言葉に即答するがそんな吉貴を引っ張り玄関に向かう

「佳奈さん早く!!!」

すれ違う佳奈さんも手を引き外へ

後方で物音が大きくなる中外に飛び出た

その瞬間

バタン!!

扉は大きく音をたて閉まる

「「「はぁはぁはぁ・・・」」」

僕たちの呼吸以外は静寂があたりを包む

異様な雰囲気・・・

いや、たぶん異様なのは僕たち三人なのだろう

それほどに街の様子は普段と変わりなく流れ

静かに夜闇があたりを支配していた

しばし呆然と扉を見つめる

「翔太!!」

吉貴が扉に手をかける

それに続くように扉の先へと入る

すると・・・

部屋はまったく荒れてはいなく物はそのまま

翔太の姿はない

「は?なんで???翔太は??」

吉貴が声をこぼす

部屋の様子や翔太の消失そのすべてに呆然とする

言葉がでない・・・

部屋を見回すと中央に鍵が置いてある

それは翔太の車の鍵・・・

ここまでくると意味深でしかないその鍵を拾い上げる

まだ現状をつかめてない状態だが二人の方に鍵を見せながら振り返る

「どうする??」

何をどうするとか抱えきれない思いとか

もろもろをこめてたずねる

二人もまだなにも飲み込めてないのだろう

「どうするって・・・」

吉貴が答える

正直その通りでこの質問に答えることはなかなか困難であろう

それほどに頭のなかにさまざまなことが流れ込みそして理解のできないうちに引いていった

「友和の滝にいこう」

佳奈さんが言う

「多分、本当なら翔太君を探すことが先決だと思うの・・・でも」

彼女の言葉に耳を傾ける

「でもね、さっきみた光景、そして今広がってる風景・・・こんなことってありえないと思うの・・・これが翔太君についていた“何か”の仕業ならやっぱり原点に戻るべきだと思うの!」

“何か”の仕業・・・

混乱している中すべてをいいようには捉えたくはない・・・が

今まで見ていたのも、そしておこった事象、すべて理解の範疇を超えている

だが、それを“何か”という不確定なものに押し付けることで自然と頭は、すっとした

そして、中央に置かれた鍵は翔太が残してくれたヒントなのではないかとすら思えた

「うん、行こう友和の滝に」

鍵をにぎりしめて言う

「うん」

佳奈さんが頷く

吉貴はまだ返事に困っているようであるが

「わかったとりあえず行ってみよう、その間に冷静になれるかもしれないし」

時間を置き場所を変えたいという妥協点を見出し返事をくれた

普通はしない選択を僕は再度した・・・

前回は失敗だった今回は・・・


車内はみな無言だった

何かに思いをはせているようだ

それは僕も同じでここ数日のことが頭をめぐっていた

始まりはみんな面白半分みたいなものだった

暇をつぶすそれだけだった

肝試し・・・誰でもやってるようなこと

その誰でもやってるようなことで誰もが体験しないことをさまざました

“何か”の声を聴き、その“何か”を連れて帰ってくる・・・

自分では意図してないが結果その“何か”のせいでこの最悪な展開を作った

自分を責めずにはいられない

調子にのって人の言葉を軽んじた結果周りを巻き込んだ

輝明はこの世から去り翔太は行方が知れなくなった

なぜだ??僕についてきたなら僕一人に厄災があればいいのに

頭の中はそのことでいっぱいだった

・・・

車はあのときと同じ道を通り友和の滝に到着した

広い駐車場にはやはり車はなく人はいない

滝の近くの駐車スペースに車を止めてエンジンを切る

静まる車内

「行こうか・・・」

声をかけて車から降りる

佳奈さんを信じてないわけではないがこれが一連の出来事を断ち切る方法になるのか・・・

不安と疑心暗鬼、さらには自己嫌悪

これとないコンディションといったところか・・・

声を聴いた場所に案内のため先頭を歩く

踊り場について

「ここで声を聴いた・・・」

二人に告げる

すると佳奈さんは滝の方をみて

「うん、ここは遊びで来ていいところじゃなかった。」

考え深げに言い

「無念っていうか残念?言葉にするのは難しいけど負の念っていうのかな、それが目いっぱいに広がってる。生きている人間を引きずり込むぐらい簡単にできそうなぐらいに。」

佳奈さんが言葉を言い終えるのと同時に用意していた線香、ろうそくを出し

「とりあえず遊びでこの場に踏み込んだこと、そしてここに残る負の念それには私たちでは対処できないこと、それらを込めて手を合わせよ」

「「うん」」

吉貴と共に返事を返す

佳奈さんの言葉には説得力がありよどみないその言葉にただただ従うしかなかった

ろうそくに火を灯す

そして線香に火をつけ手で仰ぎけす

この二つがあるだけで不思議と場に一体感が生まれる

「ろうそくで精神を集中させて、線香の香りで場を包む。そして煙が思いを天に届けるって昔お坊さんが言ってた。」

僕の思いを見抜いたかの発言

だがしっかりした説明に納得する

「じゃ、手をあわせてさっきのこと思いながら謝ろ」

その言葉を合図にみんな手を合わせた

・・・

水が滝つぼへと落ちていく音

それと昆虫の鳴き声

・・・

自然な音しかしない空間

・・・

だが、正面から感じる何か・・・

おかしい人の気配がする・・・

必死に目をつむる

怖かった、また何かが起こってしまいそうで


「・・・オイ」


話しかけられた反動でびっくりして目を開ける

「ダメ!!」

佳奈さんが叫ぶがもう遅い

開けられた目は前方を見る

そこには男の顔

無表情な男の顔が目の前にあった・・・

なん・・か・・・意・識が・・・・・


10

ふわふわした感覚

夢の中を見てるそんな感覚

目の前には見知らぬ女性

「だって私病気だからしかないでしょ」

その女性はこちらに向けて話す

すると

「病気?いくらなんでも無理があるだろ!?」

怒鳴る男性の声が僕からしている

「無理とか意味わからないし、私は多重人格なの!!!」

「おまえそんなこと一つも言ってなかっただろ!?パニック障害なのは知ってるけど今更多重人格とか信じれるわけないだろ!!」

どうやらこの女性と僕?は言い争いをしてるらしい

もちろん、そこに僕の意思はなく流れてる画像を男性目線で見ている。

そんな感じだ

「おまえとかやめてよ!!ちゃんと名前があるし!!私のこと愛してるって言ってたじゃない!?あれは嘘!?!?」

「嘘じゃない!!嘘じゃないからすべてまかせてお金の管理も口を挟間かったろ!!!でも、なんだこれ!!!」

はがきらしきものが目の前に散らばる

「この借金!!しかも、この請求書!!!なんだこれ!!!」

「しかたないでしょ!!!私は意識がなかったの!!これはエリがやったこと!!」

徐々に怒りの感情が僕に流れ込む

状況を理解したわけではないしかし、怒りが支配する

「嘘つくのもたいがいにしろ!!仮にお前じゃない誰かがやったならなんで隠しておいとく?しかも、多重人格ってならなおさら夫であるこの俺に相談するべきじゃないか!?」

女性はすこしバツが悪そうにしながらも

「さっきからおまえおまえって言わないでって言ってるでしょ!!!何?あの時の言葉は嘘??愛してるって言って私を守るって!!!嘘つきはあなたよ!!!」

どうやら夫婦のようだが・・・

あまりに支離滅裂で夫婦喧嘩の域は出てるように感じる

「嘘つき??何いって・・・」

言葉は途中で切れ先ほどから怒りと失望的な感情がとめどなく押し寄せる

すると場面は切り替わる

・・・

どうやら車内だ

「悪いけど君はもう来なくていいよ」

耳元で男性が告げる

あわてた声で

「待ってください困るんです!!お願します!!残してください!!!」

電話でやり取りしてるのだろう再び耳元で

「君には悪いけど家庭の問題を会社に持ってきてもらうとね・・・実際会社にも君のお金の問題で電話がきてるんだよね・・・」

言いづらそうに電話越しに告げられる

「それは今後改善されます!なので・・・」

そこに遮るように

「申し訳ないがもう決まったことだから!詳しいことは後日書類を送るからそれで確認してほしい。では」

ガチャ、プープープー・・・

あっけない終わり方

「そんな・・・」

気落ちした男性の声

状況は会話の通りなのだろう

それと同時にやるせない感情が心に積み重なる

僕の心は次第に重くなる

場面がまた変わる

・・・

目の前に中年の男性

その人が話し出す

「離婚のことですが・・・向こうはおとなしく応じることはないようです。あくまで多重人格であると・・・しかもお金も払わないとのことです。理由は同じです。このままだとあなたの名義でお金が動いてるので・・・返済を強いられるかと・・・」

「そんなバカなことがありますか!?こんなの詐欺みたいなものじゃないですか!!結婚して人の名義でお金を動かすなんて!!!」

男性の説明に怒り言い返す

弁護士との相談?そんな感じだろう

「奥様は精神的な疾患があったのは確かですよね?それに旦那さんの監督責任もあります。けして向こうをフォローするわけではないですがすべてを向こうに押し付けるのは難しいです」

「そんな・・・どうして・・・」

落胆、悲しみ・・・法にすら見捨てられたそういう思いしくしくと心をつつく

僕の心は負の感情が渦巻いている

こんな感情は初めてだ・・・

どうやったらここまで悲しみが募るのか

そして、世間や人にここまで怒りを覚えるものなのか

行き場がない・・・

・・・

目の前は滝・・・しかも水が落ちる様子を見降ろしていた

視界はぼやけている

「ぁぁ・・・ああ・・・・」

声がこぼれてる

「つらいよ・・・こんなに・・・生きることなんて・・・・もう・・・」

その言葉と同時にさっきまでの感情があふれだした

今はただただ悲しかった

そして生きることそこに執着はなかった

死ぬことで解放されるそう思えた

怒りはけして消えることはなく燃え続けるだろう

悲しみは癒えることなく彷徨うだろう

怨念を残しこの世を去る

明確な意思が僕の心に走る

視界は下を一度見てまっすぐに戻る

そこから徐々に傾く

・・・

すぅ・・・・

グッ!!

両腕をつかまれて勢いよく後方へ

思念はそのまま飛び出したしかし、体が残っている不思議

「・・・・たかし!!!!」

吉貴?

「たかし君!!!」

佳奈さん??

二人が僕を見て叫んでいる

「たかし!!しっかりしろ!!!おい!!!」

「あ・・・え???」

状況がわからずに声を発する

「たかし君!?よかった!!!」

佳奈さんがいう

周りを見る

そこは滝の上

さっき見ていた映像と同じであった

「どうして・・・」

二人の顔をただ茫然とみる

現実なのかまだわからない

それほど鮮明に何者かの記憶を垣間見た

それは今も胸に残る痛みが教えてくれる

・・・・

涙が零れる

僕は平穏を暇と断罪し

仲間と共にいる、信頼できることを価値とはせず

日常がいつも当たり前のように流れていくことになんのありがたみも感じずに生きていた

涙が止まらない

生きることはこんなにつらいことなんだ

人と共に生きるとは本当の信頼の上でしか成り立たないんだ

今生きてるという一瞬は暇だとか無駄だとか言うものはないのだ

二人の顔をみているとたまらなく愛おしく、そして感謝の念があふれる

「僕は・・・僕は・・・・ありがとう・・・」

言葉に出したがちゃんと伝わってはないだろう

でも、できるかぎりを伝える

「たかし・・・まずは車にもどろうか・・・」

吉貴が手を差し伸べてくれる

その手をしっかり握り車へと戻る

道中、僕の行動が語られる

佳奈さんが叫んだあと

僕は立ち上がり突然歩き出したそうだ

その間二人が止めに入るが止まることなく

「人生なんて・・・生きることなんて・・・・」とつぶやいていたそうだ

二人が力ずくで止めようとしても止まることなく滝の上に

二人ともこのまま一緒に落ちるかもという覚悟の中最後の力で僕の体もろとも倒れこんだのだとか・・・

知らないうちに危険に巻き込んでいたことに罪悪感をいだきながらも

決死の覚悟で止めてくれた二人に感謝で頭があがらない

「さすがにお前までおかしくなって終わったって思たわ」

吉貴が言う

「でももう仲間をなくすのは嫌だったからな・・・止めれなかったらマジで一緒に落ちるぐらいの覚悟だったわ」

笑いながら話すがその話に胸が打たれる

「たかし君ほんとよかった・・・吉貴の言葉じゃないけどダメかと思った」

佳奈さんも安堵の声をかけてくれる

そして

「あのときたかし君から男の人が滝から落ちていくのが見えたの・・・もしかしたらたかし君を引き込もうとしていたのかも・・・でもそこからついてきてないみたいだからもう大丈夫だと思う」

その言葉に安堵した

冷静を取り戻して改めて手を合わせに踊り場に戻る

先ほどより思いを込めて深く頭を下げてお祈りをした

それから僕たちは地元に戻り翔太の捜索をするが見つからず

翔太のご両親にも連絡し警察に捜索願が出された

僕たちはありのままを話したかったが

あの時のことをありのまま話したところで信じてはもらえないと

自ずとありえない場面はカットして翔太の車を借り広域を捜索したと

話を差し替えて伝えていた

・・・

数日後、翔太は発見される

しかし、元気な翔太との再会はかなわず

あるマンションの一室で死体となって発見される

状況はかなり不可解だったようで翔太はその一室で首を吊りなくなっていたのだが

まずどのようにその部屋に入ったのかわからなかった

ドアや窓などに一切人がさわった痕跡はなくまた鍵を使用した痕跡もない

侵入はおろかどのようにして高所から首を吊ったのか

まったくの謎を残したが事件として扱うこともできずに

翔太の死は変死としてあいまいなまま幕を閉じる

ご両親は納得がいかずいろいろあるそうだが・・・

そこはもう僕たちがどうこうできる問題ではなく

翔太の身に起こったあの現象は僕たちの胸にしまい

どこか後ろめたさを残し日常に戻っていった


11

大学→バイト→宿題・・・

1日が今日も終わる・・・

だがそこには“いつもの”とか“変わらぬ”とかそういう言葉はない

大きく変わった僕の日常・・・

暇だとか退屈で埋まっていたあの頃とは全く違う

二人の大切な友達を失い

“何か”が僕に見せた思念は人生観を変えた

生きることの辛さ、人を信じることの難しさ

そんな中、普通の日常を送るのはいかに素晴らしいことか

僕を信じてくれる友がいるというのはどれほど尊いことか

刺激を求めることは悪くはないのだろう

だが、その刺激を求める前に自分の日々に感謝をしていくことが大切なのだと

何となく胸に秘めて生きていくようになった

正直悟るのは早いが考えを改めるのはいいことだと信じたい

・・・

カタカタ、カタカタカタ

キーボードを軽快に鳴らしながら作業を終えようとする

突然スマホが鳴る

液晶を確認

そこには“よしき”と表示されている

・・・何かデジャブのような・・・

「もしもし?たかし!?」

電話に出ると吉貴の慌てた声

「佳奈が○△◇×●●・・・!」

「え?なに??聞こえ・・・」

【あれ??匂いがする??これって・・・】

目の前に影が落ちる


「・・・オイ・・・チョット・・・マテヨ・・・」


終わり

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きもダメし ta-KC @take0520

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