第7話:登園

 サーリン王太子殿下がそっと届けてくれた手紙には、色々と書いてありました。

 ですが基本は無視です、下手に応じたら国王陛下と王妃殿下を敵に回してしまって、確実に殺されてしまいます。

 サーリン王太子殿下の好意はありがたいですが、有難迷惑です。

 ちょっとお馬鹿なサーリン王太子殿下の考え通りに動くのは、どう考えても悪手で、最悪死を招くことになります。


(殿下にはお断りしておいてね)


(承りました)


 間を取り持ってくれた侍女も、サーリン王太子殿下の愚かさを理解しているようで、簡単に断りを受け入れてくれました。

 侍女がこのような態度を取れる事から、サーリン王太子殿下が侍女に理不尽な態度を取らない、善良な方なのは分かりました。

 それでも、殿下の考え通りに動く事はできません。

 卑怯な方法だとは分かっていますが、国王陛下と王妃殿下を怒らさない範囲で、殿下の好意を利用させてもらいます。


★★★★★★


「な、なんでお前がここにいる、お前はマカリ伯爵家を追放になったんだぞ!

 おい、お前達、この女はマカリ伯爵家を追放になって平民に落ちたんだ。

 もう学園に来る資格などない平民なのだ、直ぐに追い出せ!」


 私が王立学園に登園すると、ムハメドフが騒ぎ立てました。

 下級貴族や士族の子弟に命じて、私を力づくで追い出そうとしました。

 確かにマカリ伯爵家からは王家に追放の報告がされているでしょう。

 もう私は伯爵令嬢ではありませんが、別の地位を得ているのです。

 その地位は学園で学ぶ資格があるのです。


「あら、そんな事をしていいと思っているのかしら。

 確かに私はマカリ伯爵家を追放されたけれど、直ぐに助けてくださる方が現れて、養女にしてくださったのよ。

 私に無理無体を働けば、その方の名誉を傷つけることになるわ。

 名誉を傷つけた場合は、決闘を申し込まれてたら断れないのよ。

 ムハメドフ卿に決闘に応じる度胸があるのかしら?」


 私の脅しにムハメドフ卿は本気で恐怖したようです。

 眼を見開き顔を真っ青にして、二歩三歩と後ろに下がりました。

 ああ、そうですね、刺客が皆殺しにされた昨日の報告を受けているのでしょう。

 国王陛下の隠し子である、スーウェル準男爵ウェイフ卿の強さは桁外れで、特殊な訓練で鍛え抜かれた複数の刺客を瞬殺するほどですからね。

 しかもまだムハメドフ卿はウェイフ卿の正体を知りませんから、その恐怖は尋常ではないはずです。


「ちっ、覚えていろよ、その話が嘘だったら、私への不敬罪と身分詐称で嬲り殺しにしてやるからな、覚悟しておけよ」


 随分と陳腐なセリフを吐いてくれますが、その言葉、そっくりそのままお返しさせていただきますよ。

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