第6話:離宮

 私は予想外の好待遇を受けることができました。

 後宮の一角に部屋を賜ったのです。

 いえ、部屋というよりは離宮を貸していただいたと言うべきでしょう。

 後宮には、王妃殿下や公妾や愛人といった女性だけが住みます。

 同時に他国からの女性賓客をもてなす離宮もあるのです。

 私はその離宮を貸し与えられたのです。

 信じられないほどの厚遇に顔が引きつってしまいます。


「ジャネット様、食事の用意が整いました。

 食堂の方に御案内させていただきます」


 王妃殿下がつけてくださった侍女が食事の用意をしてくれました。

 急な事だと言うのに、こんな遅い時間にもかかわらずありがたい事です。

 本来なら断るのが礼儀なのかもしれませんが、今は礼儀作法よりも生き残ることを優先しなければいけません。

 生き恥を晒す気はありませんが、やられっぱなしは癪です。

 できる事ならマカリ伯爵家とアマニ伯爵家に復讐がしたいです。

 その為にはしっかりと食べて体力をつけなければいけません。


「お座りください」


 侍女が食堂まで案内してくれました。

 食堂には、三十人近い者が同時に食事ができるほどの長テーブルが置かれていましたが、上にテーブルクロスが敷かれていますから、一枚板ではないでしょう。

 テーブルの上には果物とワインが置かれています。

 直ぐに食べたいですが、テーブルマナーだけは守らなければいけません。


「申し訳ありませんが、急な事で七品しか用意できませんでした。

 どうかお許しください、ジャネット様」


 侍女が謝ってくれますが、彼女が悪いわけではありません。

 悪いのはマカリ伯爵家とアマニ伯爵家です。

 それとサーリン王太子と庶兄のウェイフ殿が悪いのです。

 二人は私の恩人ですが、普通にどこかの宿に送ってくれればよかったのです。

 ウェイフ殿はその心算のようでしたが、違ったのでしょうか?


「いいえ、貴女には何の責任もないわ。

 急にお世話になる事になった私の責任よ。

 本来ならこんな時間に食事を頼む方が不作法だと分かっているわ。

 でも婚約者と父と義母と義妹に家を追い出されてしまって、とてもお腹がすいていたの、ごめんなさいね」


「いえ、いつ来客があってもいいように備えるのが私達の役目でございます。

 それを疎かにした事は間違いないのです。

 明日からは完璧に用意させていただきますので、今晩はこれで我慢してください」


 これ以上私が下手に出たら、その方が侍女や料理人を馬鹿にしたことになります。

 ここは素直に好意を受けて、その分何かで返さなければいけないのですが……

 今の私にはそんな余力が全くありません、情けない事です。


(こちらは王太子殿下から預かった手紙でございます)


 オードブル、スープ、ポワソン、ソルベと食べていた私に、侍女がそっと手紙を差し出してきました。

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