第5話:初恋
私はサーリン王太子殿下と庶兄殿に連れられて王宮に来ました。
国王陛下や王妃殿下には内緒で、密かに匿ってもらえるのだと思っていたのです。
それが、陛下と殿下に紹介されてしまったのです。
陛下と殿下の目が鋭すぎて、とても怖いです。
これでは絶対に逃げられません、愛人になるか殺されるかの二択です。
「そう、貴女が王太子の初恋の相手なのね。
でも分かっているわよね、伯爵令嬢程度では王の正室はなれないわ。
よくて公妾、普通なら黙認の愛人よ、分かっているの?」
「正直あまりにも急な話でなにも理解できておりません。
私がサーリン王太子殿下の初恋相手だとお聞きするのも初めてです。
どうすればいいのか、愛人になるべきか死を選ぶべきかも決めかねます。
しばらく猶予を願えませんでしょうか」
多分ですが、王妃殿下の出された条件、愛人になれば殺されずにすみます。
でも、それでは私の誇りが保てません。
家を出る時から、誇りのために死ぬ覚悟はできていたのです。
相手がサーリン王太子殿下とはいえ、権力で誇りを踏み躙られるのは、暴力で誇りを踏み躙られるのと同じです。
「ふむ、それは王太子の愛人になるのが嫌な時は、自害する覚悟があるという事か」
「はい」
国王陛下の質問には、何の迷いもなく即答することができました。
最初から思っていた事ですし、覚悟も決まっていた事ですから。
この返事には、国王陛下も王妃殿下も驚かれたようで、普段は滅多に感情を顔に出されない御二人が、表情を変えていました。
庶兄殿は面白そうに笑顔を浮かべていましたが、サーリン王太子殿下は打ちのめされたような表情を浮かべています。
「別に王太子殿下が嫌いという訳ではありません。
王太子殿下ともう一人の方には命を救っていただきましたから、恩と好意はあるのですが、それだけなのでございます。
貴族の令嬢として、政略結婚をするモノだと思っていましたし、現に政略で婚約もしていましたから、愛人になるもの抵抗はありません。
ただ家を出る時に誇りを失うくらいなら死を選ぶと誓ったのでございます。
その誓いを護るなら、ここは死を選ぶべきなのかもしれないと思ったのです」
私の言葉を聞いて、サーリン王太子殿下の顔が更に暗くなりました。
いえ、完全に傷ついている表情ですが、それは身勝手だと思います。
助けてくれた恩人とはいえ、愛人になれと言う方が身勝手だと思います。
他の令嬢はどうか知りませんが、私は愛人になどなりたくはありません。
本当に私が初恋相手なら、私の性格を知らない身勝手な想いです。
正室になってもらうと言っていましたが、そんなことができる訳がないのは、どんな貴族でも理解している常識です。
「くっくっくっくっ、分かった、時間をやろう」
国王陛下が面白そうに笑いながら答えてくださいました。
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