第4話:王太子サーリン

 私が助けてくれた男と一緒に逃げるかどうか思案していると……


「大丈夫かジャネット嬢、おお、よくぞ無事でいてくれた、直ぐに王宮に来てくれればいい、アマニ伯爵とマカリ伯爵は私が罰してやるからな!」


 事もあろうに、サーリン王太子殿下が現れました。

 私は何が何だか全く分からず、ろくに返事もできません。

 そんな私が耳にしたのは……


「わっちゃぁあ、王宮で待つ事もできないのかよ、もっとドンと構えていろよ。

 そんなじゃ軽く見られちまうだろうが。

 女は惚れるんじゃない、惚れさせるんだと教えたやっただろう」


 私を助けてくれた男が、上から目線でサーリン王太子殿下を叱りつけます。

 この現実を全く受け入れられません。

 事もあろうに王太子殿下に命令口調で話すなんて、普通なら絶対に許されません。

 本当に気安い親友であろうと、私的な場所で敬語じゃないだけです。

 いくら他に誰もいないからと言っても、命令口調だけはありえません。


「すみません、兄さん、どうしてもジャネット嬢の事が心配で」


 兄さん?

 サーリン王太子殿下は長男で、兄君などおられません。

 あ、隠し子、国王陛下の隠し子ですか!

 絶対に聞いてはいけない事を聞いてしまいました。

 こんな秘密を知ってしまったら、殺されてしまうかもしれません。

 基本大陸の国々では、正室の子供以外は認知されず王位継承権は与えられません。

 もし王と正室の間に男子ができなくても、庶子が王位を継ぐことはなく、兄弟や甥や従兄弟に継承権が行くのです。


「あちゃぁあ、何度言ったら分かるんだ、俺を人前で兄と呼ぶな。

 剣の師匠として遇するんだと言っただろうが、これでは最悪この子を殺さなきゃいけなくなるが、お前にその覚悟はあるのか?」


 やっぱりそうなりますか、王家や国が認めた公妾や、非公認でも愛人として王家や国が黙認している相手ならばともかく、全く認めていない女との間に生まれた子供は、普通水に流されるのです。

 特に正室が嫁いでくる前に、王太子や第二王子よりも年上の庶子など、絶対に認められないのです。

 国王陛下がどれほどこの男性、庶子を愛しておられるのかが分かります。


「いや、それは全然大丈夫ですよ、兄上。

 ジャネット嬢は私の正室になるのですから、誰にも手は出させません。

 それが例え国王陛下であろうと、一歩も引きませんよ私は。

 兄上も助けてくださるのでしょう?」


 なにがなんだか全く理解できません。

 どこでどう話が繋がったら、私が王太子殿下の正室になるのですか?

 神様、私が家を追放されてからこの状態になった理由を教えてください。

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